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野巫の祭  作者: 凡栄
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野巫の祭 42

野巫の祭 42




同年輩三人組の話を聞いていると、私よりも一つ二つ上のようだ。

どなたもそれなりの役職を勤め上げられたようで余裕のある老後といった風だな。

美味しいものを食べ、酒はほどほどに飲み、死ぬまで楽しくやろう⋯と盛り上がっていた。


すると面白い話をはじめだした。


A「よう、今日は違うけどな、鰻を食べるのは土用の丑が良いって言うじゃねぇか。あれってどうしてだか知ってるか」


B「一回だったり二回だったりするやつな」


A「そうだよ、あれだ」


B「ありゃ〜何だよ、あいつが言い出したんだろよ」


A「誰だよ」


B「ほれ、あれだ、偉いやつだ」


A「だから誰だって」


B「ん〜っと誰だったかな、大したやつなんだよ」


A「だから〜⋯」


B「わ〜かってるよ、ちょっと待て。こういうのが出てこないんだからさぁ」


A「じゃあヒントは」


B「ヒントって⋯えぇとなんか偉いんだよ」


A「それ聞いたわ」


B「ん〜、あぁ発明家だ発明家!」


C「平賀源内だろ」


A・B「あー!そうそう!」


B「それでな、発明家だった平賀源内が夏に売上が悪くなる近所の鰻屋に相談されて考えたのが今で言うキャッチコピーだな、土用の丑の日は鰻を食べましょう!ってんで土用の丑を言いはじめたってことだ」


A「な〜んだ、それは知ってるよ。それで丑の日は黒いものや「う」の付く名前の食べ物を食べるんだろ。だからドジョウやウリ、ナスなんかも食べるんだよな」


B「んだよ、知ってんじゃねぇか!」


A「お前これは基本だよ、基本」


B「わかんなかったくせによ〜」


A「知ってたさ〜。じゃあよ、こういうのは知ってっか。昔の歌人に大伴家持ってのがいたんだがよ⋯」


B「古いなぁ〜」


A「ばっか、おめぇ平賀源内だって古いだろうが」


B「まぁな」


A「そんでな、その大伴家持ってのが友達の、えぇと⋯何て言ったかな友達に詠んだ句があってよ。えぇと何て名前だったかな⋯」


C「石麻呂な⋯」


A「そうそう、その石麻呂にな、あんまりにも痩せてるんで夏はしんどいだろうって心配してよ


石麻呂に吾物申す

夏痩せに良しというものそ

鰻捕りめせ


ってな歌を詠んだって話なんだがな」


B「それがどうした」


A「だからよ、夏痩せでげっそりしちゃってバテるようなら鰻を捕って食べればスタミナ付くだろって話だよ」


B「なるほど」


A「その大伴家持が歌を詠んだのが奈良時代、万葉集の時だからな、それほど昔から鰻は体に良いってことが知られてたってことよ」


B「な〜るほどなぁ。じゃあ俺らは夏バテしないってことだな」


A「そうだけど、違うだろう!丑の日に鰻って話だろうよ」


B「でも今の話には丑の日のくだりは無かったじゃね〜の?」


A「だからぁ、その歌を詠んだ日が土用の丑の日だったんだよ」


B「本当かよ〜」


A「たぶん⋯そうなんだよ!」


B「あやしいもんだなぁ」


A・B「あっはっはっはっ」


C「それなんだけどな、今の歌には続きがあってな


石麻呂に吾物申す

夏痩せに良しというものそ

鰻捕りめせ


この歌は連歌になっていて、次の句が


痩す痩すも

生けらばあらむをはたやはた

鰻を捕ると川に流るな


って続いてさ、その意味を続けると、あまりに痩せてる石麻呂、これはまぁあだ名で吉田連老よしだのむらじおゆって名前の人物なんだが、どうもこの人物はお堅い人だったようで、こんなことけしかけると本当に川へ入って鰻を捕りにに行ってしまうかもしれい。けれどそんなことをしたら流されて死んでしまうかもしれないと心配もしたのだろう。続けて前の歌が冗談でからかっただけだということを残したんだろうな」


A・B「なるほど、なるほど」


C「それをつなげるとな、石麻呂よ、痩せっぽちのお前さんは鰻を捕って食べた方がいいぜぇ、でもお前は痩せてるから川に入ったら流されて死んでしまうかもしれないから、やっぱり痩せてても無理をしないで生きてる方がいいぞ〜ってからかった歌なんだよ」


A・B「ヘェ〜」


C「ただ、これにも色々と意見があって、大伴家持が詠んだ連歌とされているが、後の句は石麻呂本人が詠んだとも言われてるんだ」


A・B「ほぉ⋯」


C「そうすると後の句も意味合いが違って聞こえてくるんだが、つまりはこうだ。痩せっぽちでもこの通り生きてるわい。おまえの方こそ私に食べさせようと鰻を捕りに行って溺れるんじゃあないぞ!っていう具合に聞こてくるのさ」


A「そうなのか?」


B「おまえ何聞いてたんだよ」


C「で、平賀源内なんだが発明家でもあったけど蘭学者でもあったんだよ。それで昔の書物も読んでいてもちろん今の歌も知ってたろうし、昔の習慣とかしきたりみたいなもんもよく知ってたようでな、土用の期間は「忌み日」って言ってなるべく外へは出ないで黒い着物を着て過ごしたんだそうだ。それで食べ物もできるだけ黒いものを食べるから鰻やドジョウ、ナスを食べたんだな」


A・B「ふんふん⋯」


C「その土用の間に丑の日があると「う」の付くウリや牛、馬、そして鰻を食べたって話だ。それを知っていた平賀源内が鰻屋に相談されて考えたのが土用の丑の日の前日に鰻屋の入口に「明日は土用、丑の日」と書いた紙を貼り、次の当日には「本日丑の日 うなぎ」って書いた紙を貼ったところ客がわんさかやって来たってことだ」


A・B「ほうほう⋯」


C「その時の貼り紙に書かれていたうなぎの「う」の字がぐぅ〜と長く書かれていたんでそれ以来、鰻屋の看板の「う」の字はぐぅ〜っと長い字で書かれるようになったって話だな」


A・B「おめぇ、すげーなー!」


C「まぁ、そんなんで土用の丑の日は鰻を食べる習慣ができたってことだが、夏の時期に鰻屋の客が少なくなって悩んでいたというのも、本来なら鰻の旬は寒い時期だからなぁ。一番忙しいのが一番暑い時期になってしまったというのは鰻屋としてはどうなんだろうな」


A「お⋯まえさぁ、すげぇなぁ。だけど何でそんな物知りなのに仕事できなかったんだよ」


B「あははははははははは」


C「うるっせーよ!仕事で活かせなかっただけで、俺はコツコツ仕込んでたんだよ(笑)」


A「あははははっ、まぁ何だ、おまえはやっぱりすげーよ。うん。それはもう素直に認めるし認めていたよ。だから付き合ってるんだしよ。それでさ、他には無いのか?その⋯逸話みたいなやつがよ」


C「んっ?あぁ、そうだな⋯丑の日が鰻の日になったと言われてるのがもう一つあるんだがな」


A・B「ふんふん!」


C「まぁ色々と言われてるものの一つだが江戸時代の、あぁそうそう、さっきの平賀源内がその才能を見つけたとも言われている三大狂歌師の一人、大田蜀山人という人物がな⋯」


A・B「ほうほう!」


「お待たせしました〜鰻重で〜す」


A・B・C「お〜!来た来た〜!」


おやおや、面白い話の途中だったが注文した鰻重が届いて話は終わりだな。

盗み聞きで申し訳はないが、もう少し聞いていたかった。







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