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野巫の祭  作者: 凡栄
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野巫の祭 23

野巫の祭 23



鼓動が激しくなる。

息があがる。

うつむいた顔中に噴き出した汗がまとまり流れ、鼻から一滴アルバムの上に落ちた。

いけない⋯と手で擦ろうとするとベタッと手がアルバムに貼り付く。

見ると手の甲から肘まで、こちらも汗の粒が並んでびっしょりになっている。

床に置いたアルバムを見るために屈んでいた体を起こし、汗が落ちないように手を水平に上げてから天井の灯に向けて顔を上げて深呼吸をした。

そういえば窓を閉めて買い物に出てそのままだったから部屋の中はずいぶんと暑い。

ひとまず着ている服で汗を拭い、窓を開けて空気を入れ、呼吸を整えてからアルバムのページをまためくっていく。

記念写真が並んでいくが、今探すのは中心にいる私達二人ではない。

こんな時から誰かに見られていたのかと思うとゾッとするしかないのだが、何度考えてもどうして私達がこのような目で見られるのかがわからない。

全くわからない。

他には写っていないか。

他にはいないか。

またいるんではないか。

睨むようにして写真を確認しながらバッバ、バッバとページをめくっていると腰に付けた携帯電話がバイブレーションの震えとともに鳴り出した。

全身を雷で撃たれたようにビクッとして驚いたが、先ほど電話した息子かもしれないと慌てて電話を取り出して耳に当てる。

「⋯も、もしもし⋯」

「お〜う作さん、俺だよ、山口だ。」

電話をかけてきたのは山口だった。

「お、おう山さんかい。ど、どうしたんだい。」

「いや〜さっきの電話が気になってよ。そうだ、俺が今どこにいるか当ててみろよ。」

いつものおどけた調子で聞いてきた。

「どこって⋯さっきは中野にいたんだろ。やけに周りが賑やかだが、何だい駅前でも飲みに出たのかい。」

「はっはっはっ、飲みに出たのは正解だ。今なぁ浅草寺にいるんだよ。」

「浅草寺に?浅草のか?」

「他に浅草寺があるかよ、そうよ浅草寺よ。どうだ、驚いたろう。」

「いや⋯そりゃ〜驚いた。何でまた。」

「そうそれよ!飲みに誘いに来てやったぜ〜。」

「えっ⋯飲みにって、わざわざあれから浅草まで来たのか。」

「おうよ!」

「どうしたんだい。」

「ど〜しただぁ?どうしたもこうしたもないもんだ、さっきの作さんの様子が気になってよ。また今度にしようとも思ったんだが、家のカレンダーを見たら今日は四万六千日じゃないかよ。」

「しまん⋯ろくせんにち?」

「おい!ピンとこいよ!ピンとこい!お前さん浅草に住んでいるんだろう。今日は浅草寺でほおずき市だろうが。」

「あ〜あぁそうか、四万六千日、ほおずき市か。」

「そうよ!この時間でもずいぶんと賑わっているぜ〜。今から出てこいよ。屋台で一杯やろうや。」

「そうか⋯うん。でもなぁ、今ちょっとな⋯」

「何だい?ちょっとって?そういう言い回しをするから心配で来てるんじゃないかよ。何か用事があるのかい。」

「いやなに、用事というものでもないんだかな⋯」

「じゃぁいいじゃないか。出てこいよ、せっかく来たんだからさぁ⋯って、おい!何だよ、もう女ができたとかって話なのか?」

「ぃいゃ〜そんなんじゃ〜ないよ、そんなんじゃ。」

「じゃ、いいな!本堂のところで待ってるぞ。出るときにまた電話くれよ、屋台で席を取っておくからな。じゃあな。」

こちらが答える間もなく電話を切られてしまった。

やれやれ、どうしたものか。

写真が気になる。

何といったって結婚する時から見られていたのだからな。

また、山さんに会いに外へ出ても誰かに見られているのかと思うと楽しい気持ちになどなれるわけがない。

だが、お調子者の山さんのおかげで緊張感が緩んだのも確かかな。

写真のことは気になるが、明日も時間はたっぷりある。

明るい時間に確認することにしよう。

その方が落ち着いて見られるだろうし。

開いたアルバムを箱に戻して、押入れには入れず襖の前に置き、汗で濡れた服を汗を拭いながら着替えて、ポケットの場所と中身を確認して出かけよう。

「山さんが浅草に来てるんだ。行ってくるよ。」

周りを見ないようにして妻の笑顔に声をかけた。

玄関で履物を履いて電気のスイッチに手を当てて手が止まる。

やはり部屋の灯りは点けておこう。

ドアを閉めて鍵をかけ、エレベーターへと向かった。







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