表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
野巫の祭  作者: 凡栄
PR
22/81

野巫の祭 22

野巫の祭 22



今思えば無茶な結婚だった。

こちらは就職2年目、妻は就職が決まっていたとはいえまだ学生。

学校を卒業して働き出せば寮を出て一人暮らしとなる。

それなら一緒に住んでしまえと。

私の方の会社には社宅があったので結婚すればそこへ入ることが出来る。

私の独身寮代と妻の一人暮らし用のアパート代を両方払うよりもずいぶんと生活費を抑えることも出来ることになるしで都合が良かった。

いや、それだけではなかったな。

私が二十歳になってすぐに両親が事故死をしたのだ。

両親にしては珍しく、というか初めてであろう福島の知合いと会うということで前橋から鬼怒川で一泊してから尾瀬で初夏の尾瀬ヶ原を歩き、そして会津若松で待ち合わせの予定だった。

その初めの宿、鬼怒川で夜に外の露天風呂に行く途中に暗かったのだろう、二人して足元を外して崖から落ちてしまったという。

警察からの連絡を受けて引き取りに行き、慌ただしく葬儀を済ませたのだった。

実はこの時に会いに行った相手が誰だったのかは分からないままだった。

浪江町にいる時の古い友人達とだけ聞いていた。

その同じ時、妻も出雲で親類が亡くなって葬儀に行っていた。

私は肉親がいなくなり身寄り頼りが無くなり、妻も田舎を離れての東京で一人暮しになるはずだった。

同棲というものでもよかったのかもしれないが、結婚することが私の両親への弔いにもなる⋯と、その時は妙な盛り上がりを感じて、二人して同じ姓で新しい「家族」になり一緒に暮らしていこうと。

今思えば喪もあけないうちの本当に乱暴な結婚だったとしか言えない。

とにかくお金が無いので結婚式は後々できる時が来たら二人きりでも式を挙げるとして、打掛もドレスも無しで近しい友人と私の上司や同僚との30人ほどで会費制のパーティーだけをしたのだった。

何の飾りも無い立食で、結婚式をしていないからと私の上司が音頭をとって式の真似ごとをスピーチの時間を使ってしてくれた。

身の寄せ場のない私達にとってはそれで十分幸せな結婚だった。

本当に⋯。

そうそう、写真が少ない上に葬儀と結婚の写真の間に撮った写真がほとんど無かったので、二つを並べるのも気がひけるので葬儀の写真は妻と知り合う前のアルバムの最後に入れて、妻と知り合ってからのアルバムと分けたのだったな。

恐ろしい気持ちが少し収まった気がして、またアルバムの写真に目を戻していく。

妻が逝ってしまった時も何度か眺めていた写真たち。

嬉しそうに笑う私達が写っている。

集まってくれた人達も一様に笑顔だ。

しかし、今夜はそれらを見る私の目が違う。

写真に写っている人を一人一人つぶさに確認していく。

その後の付き合いが続いた人、それ以来会っていない人。

その中に、いた。

眉間にシワが寄る。

睨むようにして何度も確認をする。

やはりかと言うか、間違いない。

ピントはボケてはいるが、背中が冷たくなる視線を送る者が、私達を見ている人達の中で一人だけ笑顔でない者がそこにいた。

慌ててパーティー全ての写真を見るものの集合写真では一番端に写っているが、それ以外ではたった一枚にしか写っていないこの男。

一体誰なのか思い出せない。

私の方で呼んだ者なのか、妻の友人の中にいた者なのか。

そもそも30人ほどしかいない人の中で憶えてもいないこの男は誰なんだ。

でも確かに私達を見ている、いや、眺めている。

冷たく観察する目で、しかも結婚のパーティーの中で無表情で立つこの者は一体何者だったのか。

吐き気すら上がってくるのを感じた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ