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野巫の祭  作者: 凡栄
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野巫の祭 21

野巫の祭 21



買物を済ませて部屋に戻ってみたものの、やはりどうも落ち着かない。

写真が気になるのだ。

台所のテーブルに買ってきたものを置いて、もう一度妻の写真を見る。

この不自然な写真になぜ今まで気が付かなかったのか。

見れば見るほど背中が冷たくなる。

今までの写真も確認してみないと。

この2枚の写真だけの偶然ならばそれでいいのだが⋯。

押入れにあるダンボール箱を引き出し、アルバムを取り出す。

1冊目

浦和、前橋の学生時代の写真にはそのようなものは見当たらなかった。

両親の写っている写真にも見つからない。

それにしてもあらためて自分の写真が少ないと感じる。

確かに今のように自分でプリントが出来るわけでも、携帯電話で写真が気軽に撮れるわけでもなかった。

フィルムにお金がかかって、現像にはさらにお金と時間がかかった。

デジタル写真が登場するまで写真は贅沢なものだったのだ。

撮ってからも現像には一週間ほど時間がかかり、今のように撮ったその場で写りを確認することはできず失敗もかなりあったし、思い出を整理するのも時間が経ってからだったな。

一本のフィルムを使い切れず、カメラに入れっぱなしにして次の旅行までそのまま⋯ということもあった。

それにしても学校行事と旅行や正月の写真がある位で、アルバムはスカスカだ。

最後は両親の葬儀の時の写真だった。

2冊目。

ここからは妻と付き合いが始まった頃だ。

額にじんわりと汗が出てくる。

気が重いが何とか表紙を開けて一枚一枚、目を凝らして見ていく。

記念写真を撮るときには人気がなくなった時に撮ることが多いので周りに人が写っていない。

当時のことを思い出しながらの作業だった。

知り合ったのは同僚の紹介で。

今のような合コンと言った開けた雰囲気ではなかったな。

初めは日曜日の昼間に喫茶店だった。

同僚が付き合っていた女の子が短大の同級生で田舎から出て来て友達がいないという子に職場の知合いをあてがおうという感じで2対2の若者同士でお見合いみたいなものだった。

あの頃は世の中ダンスホールでのパーティーが流行っていてカップルにならないと格好がつかないような風潮があった。田舎から出て来て友達がいないというのはこちらも似たようなものだったので何となく自分が華やかな東京に染まれるような気がして会うことを承諾したはいいが、実際に会っても二人ともほとんどしゃべれず間に入った二人が一生懸命に話題を振ってはくれるものの、相槌を打つのがやっと⋯といった内容だったが、どういう訳かその後も日曜の度に2対2で会うことになり、そのうちに誕生日が全く一緒ということが分かってから話が弾むようになっていった。

ところが2人きりで会おうとなっても今のように携帯がある訳でなく、妻は学校の寮に入っていたので電話は呼び出しだった。

こちらも会社の独身寮にいるものだから外の公衆電話からで、その時は長く話せるかもしれないと淡い期待を持って10円玉を山ほど用意していたな。

しかし一度電話をして懲りたのだが、呼び出しの電話は寮母さんの部屋に置いてあるのでまずは寮母さんに挨拶をして、相手の名前を伝えて呼び出してもらうのも、こちらの名前を伝えて更にどんな用事でかも聞かれる。

しどろもどろで何とかごまかすが、寮母さんが大声で妻の名前を呼んで

「高瀬さんって男の人からー!」

と、これまた大声で言うものだから本人が電話口に出る時には寮の女の子達が野次馬となって電話口に集まったのだ。

キャッキャ、キャッキャと周りで声がする中ではゆっくりと話し込む余裕はなく、待ち合わせの用件だけ伝えて慌てて電話を切る。

妻から返事を聞くこともなく、また返事を伝えようにも今度はこちらの独身寮に電話をもらっても同じような事になっていただろう。

祈るような気持ちで待ち合わせの場所に行ったな。

電話を切った後の寮内は大騒ぎだったとその時に聞かされた。

そして呼び出し電話は色々と面倒だからと次は手紙でのやり取りをしようと笑いながら決めたのだった。

しかし、これでは往復で早くても一週間ほどかかってしまう。

何とものんびりしたように感じるかもしれないが他に手もなく、しばらくすると会った時に次の予定を確認するようになっていった。

世の中の流行に乗るような乗っていないような。

それぞれ寮暮らしなので門限というものがあり、妻の寮は夕方の5時が門限だった。

ダンスパーティーはおろか、夜に会うなど不良と呼ばれる時代。

仕事で酒は覚えていたが洒落た店を知っている訳もなく、そもそも酒場に女性を連れて行くなどとんでもない事でもあった。

酒を飲むような夜の時間に会う事はほぼ不可能なのだし。

仕事を始めて間もなかったし、お互いお金も無い頃なのでデパートの屋上や動物園、水族館などの写真が多いな。

写真を撮るのも大変だった。

カメラを持っている者に借りて、フィルムを買い、デートから帰るとカメラを返してフィルムを現像に出す。

そして一週間後にようやく現像されたネガを見ることになるが、ピントが合っていなかったり露出が合っていなくて真っ白だったり真っ黒だったり。

フィルムも高かったので24枚撮りは買えず12枚撮りがやっとなので、その中から成功した写真を選ぶと印画紙に焼くのは数枚がやっと。

お金が無いのでまずはフィルムの現像だけ頼んで、ネガを見て焼くものを選ぶ。

現像と同時に全ての写真を印画紙に焼くというのはお金がかかってしまうので必ず選んでからの今で言うとプリントだったな。

この作業で約二週間がかかった。

それでもデートの中で写真屋さんに寄って現像するものを一緒に選ぶのは楽しかったな。

さて、思い出を頭の中で探ってみてもいつから「見られて」いたのかは全く見当がつかない。

それらしいものは見あたらず、周りに人が写っていても不自然さは無く、記念写真らしいと言ったらおかしいが、ごく普通の恋人同士の写真が並ぶ。

とは言っても、そんなに沢山の写真があるわけではなく、すぐに結婚の写真になった。

今考えれば無茶な結婚だったものだ。







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