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長らく続いたパティ・スリーの最終戦。
一対一の決闘。
武器は自由で、追加の持ち込みも有り。
相手の戦闘不能かギブアップ、または場外に落とせば勝ち。
ただし殺してしまうと反則負け。
開催場所はコロシアム。
広めの柵無しボクシングリングのような物が中央に置かれ、モーゼの十戒のように選手登場口で観客席が割られている。
わかりやすく言うと、少年漫画の困った時トーナメントの観客席が2面になった版だ。遠くの山々や森が見えていて見晴らしが良い。
「ふはは! 今回もレイジョは、僕に恐れを成して逃げ出したか!」
「恐れる? 誰が誰をですって?」
リングの上で腕組みしながら立つロギ。
俺は登場口からゆっくり歩き、それを不敵に睨み付ける。
視線で威嚇し合う対戦者2人。
主役の登場に沸く観客達。
ようやく、対決らしい対決が叶うのだ。盛り上がるのも当然だろう。
「くくく……やっとお前と直接やれるな。辞世の句でも詠んでおけ」
「ルール的に殺したら負けというのを覚えておきなさいよ……」
まったく、物騒な奴だ。
俺は、ルトやルニルがいるリング横のセコンドへと向かう。
物騒な武器が色々と置かれており、それをリング上にいる俺へ渡す事が出来るのだ。
「れ、レイジョ様……」
「あら、ダックワーズではなくて?」
そのセコンドには、俺を牢屋に閉じ込めた張本人であるダックワーズがいた。
なぜか酷くやつれており、目も合わせようとしない。
俺もあの日記を見たが、あれは本当だったようだ。
「私は……レイジョ様になんて事を……。どんな事をしても許されない罪です。罰を何なりと仰ってください……」
「ふんっ。私くらいになると、あなた程度の罪なんて気にも留めないのよ。それに安心なさい、私を拘束した事は誰にも言っていないわ。言う必要すら無いもの」
「レイジョ様……罰すら与えてくれないと仰るのですか……?」
「罰なら、この私──レイジョ自身が受けるわ」
「な、何を……」
「すべては魅力的すぎる私の罪であり罰よ。だって私は、悪──そう、悪役令嬢なんですもの」
自分でも何を言っているのか良く分からない。
だけど、俺の中のレイジョ様がこう伝えろと言っている。
たぶんそんな感じだ。
案外、本物のレイジョ様は眠って一休みしているだけなのかもしれないな。
といっても、本当にそうだったら俺は数秒で追い出されそうだが。
「れ、レイジョ様……」
ダックワーズは泣いてしまった。
だけど、俺は知っている。
あれは漢泣きだ。
その涙は決して誰も馬鹿には出来ない。
「そうね、それでも気が晴れないというのなら、私の下僕となる可能性を秘めた全国民達を、これまで通りに精一杯治療なさい。そして私と対等に話せる身分ではなく、自信を付けなさい」
俺は、そのままダックワーズに背を向けた。
これ以上、涙を見られるのは嫌だろうから。
「てんせーしゃん格好良いー」
「お、本当?」
ルトがニコニコして近寄ってくる。
「普段もこうなら良いんだけどね~」
「ぜ、善処します……」
つまり普段は格好良くないという事だ。
普段はどんな目で見られているのだろうか?
確か……女神様とSMプレイ妄想してるところを見られたっけ。
すごいダメ人間に見られてそうだ。いや、実際そうだけど。
「わ、私はどんな天性様でも格好良く思います!」
「る、ルニル……」
俺を嫌っているであろうルニルが、フーリンを助けてもらった恩で義理堅くフォローをしてくれている。
良え子や!
「例え、頭部だけになっても格好良いです!」
「……え?」
「あ、その、例えです例え! ほら、性別が変わっても平気みたいなのあるじゃないですか!」
「お、おほほ……」
あるの!? あるのか!? 全体的に意味がわからない!
何だろう……テメェの頭部なんて切り落としてやんぜ的な心意気なのだろうか。
散々、レイジョ様プレイでいじめ通してきた報いなのだろうか。
もしかしたら、女性にも魅了のチートが効いているかと思ったが、これを見ると気のせいだったようだ。
いや、でもちょっとだけ試してみよう。
「ルニル、ちょっと手を出して」
「え? は、はい」
陶器のように白い肌。
瑞々しく、見ているだけで吸い込まれそうになる。
ああ、女の子って素晴らしい。
……その手をガッシと掴む。
前は手袋越しだったが、今回は素肌と素肌の触れ合いだ。考え方によってはすごいエロい。ご飯三杯いける。
ふふふ、これで嫌がればチートは効いていないという事でいいだろう。
「あなたの手、綺麗ね。それに……何だろう、何かとても握りやすい……?」
「あ、あ、ああ……」
「ん? ルニル?」
何かルニルが固まってしまった。
もしかしてアレだろうか。
Gにでも触れられた感じでフリーズしてしまったのだろうか。
キャー、というリアクションすらないという……。
「てんせーしゃん……」
あ、ルトがすごい恐い顔で見てる。
ソシャゲのガチャに万札ぶっ込んで、不具合で狙った物が元々出なかったと気が付いた時の絹本著色不動明王像(国宝)みたいな恐い顔だ。
ルニルをいじめた事に激怒しているのだろう。
俺は急いでルニルの手を離した。
セーフ、まだ首は繋がっていた。
「ちょっと、手を握ってパワーを分けてもらっていたのよ」
エロい妄想パワーが貯まった!
「ふーん。じゃあ、あたしもてんせーしゃんにキョーリョクしよー」
棒読みのルトは、俺の手を力一杯握りしめた。
何か聞こえてはいけない骨の音が聞こえた。
ルトさん、笑顔が恐いのですが。
「ヒギィィイイ、ルトありがとうルトありがああああギブギブ!!」
俺の両手は、試合前に限界ギリギリのコンディションへと至った。




