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「うへへ、うへ……女神様もっと、もっとロウを垂らしてくださいぃ~」
俺はロウ──もとい牢の中で現実逃避をしていた。
連日連夜、普通の現実逃避バリエーションは試しきってしまっていたため、今日は新境地に挑んでいるのだ。
「め、めめめめ女神さまぁ~。尻にピンヒールと鞭の同時攻撃さいこ~でずぅ~」
食わず嫌いという言葉もある。
何事も想像の中で試してみるのは無限大バリエーションである。
人類はこうして進化してきた。
「てんせーしゃん、何やってるの?」
幻聴かと思ったが、声の聞こえる方へと振り返った。
そこには約一週間ぶりのルトがいた。
真顔。
お互いが真顔。
「人類の進化への考察をしていました」
「本当に相変わらずだね、てんせーしゃんは……」
俺は気が付いた。
ルトの目にはクマができていた。
歩く姿もフラフラと憔悴しきって、声もガラガラだ。
それに──。
「ルト、血だらけじゃないか!?」
メイド服が真っ赤に染まっていた。
まさか俺を捜すために怪我を……。
焦った。こんな事をしている場合ではない早く病院へ、医者を、何か治療の何か。
「あ、これ慌てて食べた食事のイチゴソース……」
「医者はどこだ!? ……え?」
「着替えすらしないで探してたんだからしょうがないでしょ!」
「……俺は幸せ者なんだな」
俺は不思議と、感極まって涙が流れてきてしまった。
自分でも何で泣いているのかが良く分からない。
恥ずかしいし格好悪い。
「そこは普通、女の子が先に泣くものでしょ……急に真面目になるのは卑怯だよ、てんせーしゃん」
ハァと溜息を吐くルト。
その表情はまんざらでも無い。
そのまま牢屋の鉄格子の前まで歩き、徒手空拳で構えを取る。
「今、ここから出してあげるからね」
「ま、待つんだルト。この牢屋はエーテルを弾くようになってい──」
ルトが手刀を振ると、無音で鉄格子は四散し、地面でようやく音を立てた。
俺は、目のハイライトが消えたような感じでそれを見詰めていた。
「あっるぇ~?」
「ん? どうしたの、てんせーしゃん」
「何でもないです……」
うわっ、もしかして俺のエーテル低すぎない?
そんな広告が頭に過ぎる。
何となくこの世界にきて思った事がある。
俺の姑息な戦法より、ごり押しパワーの方がスッキリと解決するのではないだろうか。
もし、俺じゃなくてルトが、ロギと戦っていれば……。
と思ったけど、冒険者数人と戦えちゃうルトと、それに合わせたロギが戦ったら死人が出てもおかしくないモノになっていたかもしれないか。
そう考えると俺の弱さも捨てた物ではないのかもしれない。
うん、自我を崩壊させないために前向きに考えよう。
「てんせーしゃん、久しぶりに会えたんだから、もっとこう……」
「いや、ここ一週間は、着替えも身体を拭く布ももらってないから臭いし寄らない方がいい」
結局、あれから一週間近く誰も来ないで飯無しだった。
前の人類滅亡世界チートは弱まっているらしく、完全に腹減りを防げなくなっていて、ちょっとふらふらになっている。
あと本当に臭い。
──だというのに、ルトはそんな事お構いなしに飛び込んで抱きついてきた。
「てんせーしゃん! てんせーしゃん! てんせーしゃん! また急に居なくなっちゃうとか駄目だよ……」
「俺は死んでも平気だから」
「そんな死に方、あたしが平気じゃない!」
「いたた、弱ってる悪役レイジョ様に力入れすぎだ」
「これでも足りないんだからね!」
「イチゴソースもベットベトじゃないか。臭いしベタついてるし酷い組み合わせだ」
「いいの、もうちょっとこうしてるの」
まったく、ワガママな猫だ。
俺はそっと抱きしめ返した。




