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【錬金術師の再臨】〜錬金術が消えた世界で、わしの知識だけが規格外だった〜  作者: 新生浮世
第二章 エルフの国編

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第79話 静かでも警戒は怠らぬよう

 夜。


 スタンピードの喧騒が嘘のように、エルフの集落は静まり返っておった。


 ファルネスは一部出た損害の修復や他のエルフ達の面倒で忙しそうじゃが。


 焚き火の音だけが、ぱちり、ぱちりと響く。


 その周りに、わしらは集まっておる。


 そこにわしらに思うところがあるのか、

 フレインはファルネスに付き添うではなく、こちらへと歩いて来て座った。


「……で、結局なんだったんだよ、あいつらは」


 ドランが頭を掻いた。


「教団、と呼ばれておる連中じゃな」


 わしは簡潔に答える。


「それはさすがに俺でも分かる」


 ドランは少しため息をついた。


「やってることがめちゃくちゃじゃねぇか」


「長老様の話を聞いた限りでは

 意味がないわけではないのでしょう。

 奴らにとっては……ですが」


 フレインが静かに口を開いた。


「“適合体”の回収、そう言っていましたね」


「器、とか言ってたやつか」


「そうじゃな……」


 わしは頷く。


「力を受け入れるための“器”……じゃったか」


「でもよ」


 ドランが眉をひそめる。


「そんなもん作ってどうすんだ?」


「そこじゃ」


 わしは腕を組む。


 そして一拍置く。


「おぬしら、“目的”を見誤っておる」


「……は?」


 ドランが顔をしかめた。


「どういうことだよ」


「簡単な話じゃ」


 わしは淡々と続ける。


「“適合体”は目的ではない」


 場の空気が、わずかに変わる。


「なんでしょうか……?」


 フレインの目が細まる。


「過程じゃ」


 わしは言い切った。


「……過程?」


「うむ」


 焚き火の揺らぎを見つめながら、続ける。


「教団はな、“完全な器”を作ろうとしておる」


「完全な……?」


「どんな力でも受け入れ、壊れぬ存在」


 静かに言う。


「適合体はその試作品、あるいは失敗作に過ぎん」


「……っ」


 ドランが息を呑む。


「そんなもん……」


「昔は、もっと完成度の高い“素材”があった

 そうルークは言っておったな……」


 ぽつりと呟く。


 フレインの視線がわずかに動く。


「ハイエルフ……」


 わしはフレインの小さな呟きに頷いた。


 ファルネスの語った“歴史”。


 そこに繋がる話じゃ。


「今はそれを再現しようとしておる」


「……だから人間で試してるってのか」


「恐らくな」


 完全な確証はない。


 じゃが──


(辻褄は合う)


「……最悪……ですね」


 フレインが低く吐き捨て、拳を強く握った。


「うむ」


 同意する。


 これは研究ではない。


 ただの選別じゃ。


「じゃあよ」


 ドランが顔を上げる。


「アリアは……」


 その言葉に、視線が集まる。


 アリアは小さく息を吸い、わしを見た。


「……わたしは、その“適合体”なんでしょうか」


 真っ直ぐな問い。


 逃げておらん。


「恐らくな……フィオやファルネスの反応もある」


 わしは即答する。


「だからこそ、狙われる」


 静かに、断言する。


「教団にな」


「……はい」


 アリアは目を伏せる。


 じゃが、その手は震えておらん。


「それでも進むか?」


 問いかける。


 一瞬の沈黙。


「……進みます」


 顔を上げた。


 迷いはある。


 じゃが、逃げはない。


「よい」


 わしは小さく笑う。


「それでこそじゃ」


「……妹のことも、ありますから」


 アリアが続ける。


「生きてるって……信じたいです」


 ルークの言葉じゃろう。


「完全な嘘ではあるまい」


 わしは言う。


「じゃが、状況は良くない」


「……はい」


 理解しておる顔じゃ。


 それでよい。


「あともう一つ」


 フレインが口を開いた。


「ルークというあの男は何者ですか?」


「……あいつか」


 ドランが顔をしかめる。


「信用できねぇ奴だ」


 ドランは端的に答える。


 フレインはそれだけですか?と首を傾げた。


「じゃが、敵とも限らん」


「はぁ?」


「“どちらでもある”ということじゃ」


 あやつの本質はそこにある。


「よく分かんねぇじゃねぇか……」


「うむ」


 否定はせん。


「つまり皆さんにとっても分からない人っていうことですか?」


 フレインは少し苦笑しながら言った。


「ま、そういうことじゃな」


 わしも答えながら苦笑した。


「じゃが」


 わしは目を細める。


「情報を持っておるのは確かじゃ」


「私は……」


 アリアが口を開く。


「信用は……さすがに出来ませんけど」


 一拍。


「言ってたことは信じます。

 信じたい……と言った方が正しいのかもしれませんが」


 アリアはギュッと胸の前で両手を握りしめた。


 妹のペンダントを持って。


「まぁ、実際助けられたわしからすると

 一部においては信用してもよいと思うとる」


 アリアの言葉を肯定するように、わしは言った。


 それを見てアリアは少し微笑んだ。


****


「……まぁでも、結局さ」


 ドランがため息をついた。


「やること変わんねぇよな」


「そうとも言う」


 わしは肩をすくめる。


「なら」


 ドランが口角を上げる。


「ぶっ潰すしかねぇか」


「単純でよい」


 わしも笑った。


「嫌いではない」


****


 その後、各々が持ち場へと戻っていった。


 警戒は続いておる。


 当然じゃな。


 静かな夜ほど、危ういものはない。


 わしは焚き火の前に残った。


 火の音が、一定のリズムで鳴る。


「……起きておるか」


「……はい」


 振り返ると、アリアが立っておった。


「眠れんか」


「少しだけ」


 苦笑する。


「座るとよい」


 隣を指す。


 アリアは静かに腰を下ろした。


 静かな時間じゃ。


「……怖いか、などとは聞かん」


 わしは炎を見ながら言う。


「おぬしはもう、その段階ではないからな」


 アリアが少しだけ目を見開いた。


「……はい」


 小さく頷く。


「知ってしまった以上、進むしかないです」


「うむ」


 よい答えじゃ。


「じゃがな」


 わしは続ける。


「一つだけ覚えておけ」


「……?」


「おぬしは“使われる側”ではない」


 はっきりと言い切る。


「使う側に回れ」


「……!」


 アリアの目が大きく揺れる。


「それができるだけの素質がある」


 わしは断言する。


 先ほど感じた違和感。


 あれは“異常”ではない。


(むしろ──)


「……はい」


 アリアは強く頷いた。


 迷いが、一段減った顔じゃ。


「もう休め」


「はい」


 アリアは立ち上がり、戻っていく。


「おやすみなさい」


「うむ」


 その背を見送り──わしは再び焚き火へ視線を落とした。


 ぱちり、と火が弾ける。


(……さて)


 あの違和感。


 魔力の流れが、微妙に変質しておる。


 不安定ではない。


(順応しておる、か?)


 あり得ぬ話ではない。


 もし仮説が正しければ。


「……面白い」


 口元がわずかに歪む。


 教団の思惑。


 適合体。


 そして、アリア。


「どこまで行くか、見せてもらおうかのぅ」


 小さく呟く。


 静かな夜。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


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