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天使みたいで悪魔みたいな先輩とはじめる音楽活動  作者: シンシア


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第九話 無謀な挑戦は熱狂的に

 あれから、新・ボランティア同好会は数度の活動を行った。中堂凛(なかどうりん)に振り回され大変な目に遭った、茸木光(なばきひかる)田中翔一たなかしょういちも退会することなく、がむしゃらに活動に励んでいる。その活動内容はシンプルなものだった。


志之聡平しのそうへい茸木なばきへ丁寧に真面目にギターを教え、凜が厳しく冷たく田中をなじる。途中で田中に飽きた凜が無理矢理、合わせ練習を始め、彼の歌に引っ張られるように三人は文字通り死ぬ気でワンコーラスだけ演奏する。そうして、クタクタの二人とシャキシャキの一人が出来上がる。これがワンパッケージで、これ以上はないので活動時間自体はとても短いものだった。


 しかし、今日の活動は少し違った。教卓の上に、不機嫌そうな様子で足を組んで、座る凜が練習を始める前に、珍しく口を開けた。



「お前らに話がある。この会の目的についてだ」



 凜は低い声で言い放つ。聡平そうへいは何かあったのかと尋ねる。後の二人もじっと目線を向ける。



「このまま、仲良しこよしでバンドなんかやるつもりはない。ボクには時間もない。だから、ここで宣言する」



 凛は一呼吸置く。聡平のことを見る。



「来年二月の全国高校生バンドフェス。『ムジカデラーニモ』に出場し、最優秀賞を取ることだ」


「えー!!!」


「え」



 凛の宣言に聡平そうへいと田中は驚きの声を上げる。茸木なばきはポカンとした顔で、凛と聡平の二人を交互に見る。



「……それって、メジャーデビューを志す高校生バンドの登竜門でしょ。無理無理無理。無茶だって。あと九か月くらいでしょ? それなら別のメン────」


志之しの、ボクは言ったよな。最善を尽くせと。そうやって無理だ、無茶だって否定することがお前の最善なワケ? 見損なったんだけど」


「…………うっ」



 先輩の冷たい視線が刺さる。別に頭ごなしに否定したわけじゃない。先輩は置いておいても、俺はへっぽこ作曲家で、タナショ―とタケはついこの間楽器に触り始めたたばかりの音楽未経験者だ。そんなお世辞にもバンドメンバーだなんて呼べない俺たちを引き連れて、ずっと前からこのイベントを目指してきたような強豪バンドたちと競い、一番になるなんて夢物語にも程がある。


いつもなら先輩の強い眼差しを信じることが出来るけど、紛いなりにも音楽をやっている身で「うん、一番目指して頑張ろう!」だなんて口が裂けても言えなかった。



「以上。ほら、シケタ面してねぇでさっさと練習始めるぞ。今日はボクがタケの練習を見る」



 りん茸木なばきの方へ歩いていく。呆然と立ちすくむ聡平そうへいの元には田中が駆け付けた。



「志之くん。僕もさ、音楽をやってはなかったけど、聴くのは好きだからさ。例のコンテストがどれだけ厳しいものなのか、無謀なことなのかは分かるよ。だから、あんな言われ────」


「タナショ―! だよね、ありがとー。お陰で少しスッキリしたよ!」


「わっ! ちょっ」



 聡平そうへいは田中の言葉を遮るように声を発すると、彼の肩をがっしりと掴んで揺らした。


 それから、二人はきちんと組まれたドラムセットの前に移動した。



「練習……どうしようか。俺ドラム叩けないんだよね」


「えー!」



 セット中央のドラムを叩く用の、腕置きが無い丸椅子(ドラム・スローン)に座る田中が驚きの声を上げる。凜との練習では一度もドラムを叩かせてはもらえないので、聡平とはちゃんとした練習が出来ると、期待した矢先の悲報である。



「まぁ、ちょっと叩いてみてください」



 聡平はどの大きさの太鼓をシンバルを、どのタイミングで叩けばよいかが記されたドラム楽譜を指さす。田中は頷くと、ドラムを叩き始める。足元に置かれたペダルを踏んで大太鼓(バスドラム)を鳴らす。ドン、ドン。一番近い小太鼓(スネアドラム)を叩く。タッ。その隣のシンバルが二枚、どらやきみたいに重なったもの(ハイハットシンバル)を叩く。チッチッチッ。そして大きなシンバルを鳴らす。シャーン。簡単なパターンの繰り返しであるが、それでもおぼつかない演奏であった。



「うーん。俺とタケが必死にギターの練習してる横で、凜くんとロボ作ったり、追いかけっこしてる人だとは思えないぐらいには叩けてるのかな」


「辛辣な評価だね! 間違ってないけど!」


「ははは。冗談はさておき────」


「志之君、何でかな? 感覚的に、合わせ練習になった途端に、しっかりと叩けるようになる気がするんだよね」


「不思議だよね。今とは比べ物にならないくらい上手いもん。凜くんの歌が催眠術みたいな?」


「あー分かる。何か終わった後の疲労感すごいし、意識が若干薄いし」


「でも、練習中の記憶や体験があるから、ある程度は叩けたんだと思うよ。効果はてきめんだね」


「そうなのかなぁ」



 田中はあまり納得が言っていない様子であるが、凛のことになると、眩しい笑みを浮かべる聡平に、あまり強くは出られなかった。



「志之、随分と楽しそうにおしゃべりしてるな。そんなに暇ならさっさと始めるぞ」


「……凜くん、望むと────えええ!」



 俺は先輩の姿を確認するために振り返った。強気な言葉とは裏腹に、満足げな笑みを浮かべる先輩と奇抜なヴィジュアル系メイクを施されたタケの姿があった。



「おしゃべり指摘できる立場なの!」


「タスケテ」


「な、なにをどうしたらこんな状況になるわけ! 凜くん!」



 即座にツッコミを入れる田中と、何故かカタコトの茸木なばきと、目の前の現実を飲み込めない聡平そうへいを放置して、凜はボーカル用の機材が用意された教卓の方へ向かう。



Furioso(フリオーゾ)



 今日の合わせ練習は、なんとなくいつもより激しい演奏になった。

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