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俺だけ持ってるゴースト特攻!? 〜最強退魔師(自称)はゲームでもゴーストから逃れられない〜  作者: 氷見野仁
クエスト1 お屋敷の怪現象を調査しても、マイホームが安く手に入ることはない
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ポルターガイストを起こすには腕力が必要

「エリス、俺金持ちの家ってオーガ9のとこしか知らないんだけどさ、いつも行くたびに思うんだ。金持ちってすげぇなぁ〜って。この感覚わかるか?」


「なんか、わかるかも……」


 俺は小学生かと疑われるような感想を述べながら、エリスに同意を求める。エリスは、どうやら俺の気持ちを推し量ってくれたようで、同意が得られ大変うれしい。


 俺たちは今、件の屋敷の前に来ている。


「いや、プリムスマギア城なかったらこれだけで十分城だろ」


 それくらい豪奢な、きらびやかで威圧感のある建物が、俺の前にそびえ立っている。もうね、庭が広いのよ。バラとか生えてるし。ゲート高! 大雅、オーガ9の現実の家でもここまでじゃねえぞ。


「と、とりあえずインターホン押そうか」


 こういうところは現実準拠なのだ。和洋折衷に加えて近現折衷というか、ところどころにプレイヤーへの優しさが垣間見える。俺は、インターホンを押した。


『はい。どちらさまでしょう』


 インターホン越しに物腰のやわらかな、お年を召した男性の声が聞こえてくる。


「あのー、ギルドで依頼を受けたものです。アラタと申します」


 俺こと本堂新多は目上の方の失礼に当たらぬよう、できる限りの敬語で応対する。


『ああ、あれを受けてくださったのですか、ありがとうございます、ありがとうございます』


 そう言うと、ゲートがゴゴゴゴゴゴ、と開き、中に入れるようになった。


 ……セキュリティ大丈夫か? 名前聞いただけで開けるとは、甘いぞジジイ!


 まあいい、きっとギルドから連絡が行ってるのだろう、俺はそう考え、屋敷の玄関まで意気揚々と歩いていった。


 玄関に着くと、入り口から出てきたのは壮年の男性だ。背格好からおそらく執事だろうと推測できる。顔色は悪く、少しやつれているような。


「とにかく、お入りください。最近は誰にもこの依頼を受けてもらえず、お嬢様も床に伏せるようになってしまい……ぜひよろしくお願いいたします……」


 これはかなり深刻だ。霊障で床に伏せる場合、それは霊への対応疲れによる過労か、直接呪われる、このどちらかである場合が多い。


 特に後者の場合、それなりの悪霊が関わっているので厄介だ。一刻も早く殴りつけ、この世から爆散させねばと、俺は気合が入る。


 家の外から見た印象は豪奢なお屋敷って感じだったが、中に入ってみると、どうしたものか物がほとんどなく、無機質な空間が広がっている。とても人を迎え入れるような体制ではない。


 俺はそのままホールを抜け、応接間へと案内される。そこにも、あったのはソファ、テーブルなどの大きめの家具と、あとはティーセットくらいであった。


 普通ならあるはずのクローゼットや本棚といった家具が、一切ない。これは、本当に深刻だ。


 俺はある程度の予想をつけ、執事さんから話を伺う。霊障解決は、こういった下調べも大事だ。


「必ず解決します。なので、どういった現象が起きているのか、説明してくださいますか。あ、名前を聞いていなかった。改めまして、アラタです。ゴースト専門の冒険者をしています」


 相手はNPCだ。特に隠す理由もないのでゴースト専門とつける。その方が信用されるだろうからとの考えだ。


「アラタ様、ご丁寧にありがとうございます。私の名前はスチュワート、この家で長年家令を勤めております」


「家令、というからには他にも執事や、メイドがいるはずですが、屋敷内にはそれほどに人がいらっしゃる気配がない。これは……」


「私以外の執事、メイド全員、すでに暇を出しております。今この家には私と、お嬢様のみ。親族は別の屋敷へ逃げております」


「なぜ、あなたとそのお嬢様はお逃げにならないのですか?」


「それは、この家がお嬢様にとって、かけがえのない大切なものだからです。怪現象が起きた、ならば手放そう、それができるのならばどれだけ楽か。しかし、お嬢様の亡くなったお父様、先代が家を興し、一代でここまで立派に築き上げた証を、手放すことができず……」


 なんとも泣けるストーリーだ。しかし、それで死にかけては意味がない。悪霊とは真面目にやりあうだけ無駄だ。自分の歩いた道に塩を撒きながら生活した方が幾分か効果的だ。


「それで、どのような現象が起きているのでしょうか? 家具がほとんどないことと、関係あるのでは?」


「はい、大型の家具は問題ないのですが、小型の家具や雑貨は、あると問題なので地下倉庫へすべて移動させております」


「つまり、ポルターガイストが起きる、と」


「はい。ひとりでいる時や、お客様がお見えになる時を見計らって、物が浮くのです。それで他の方に害があっては問題だと、お客様をお迎えする時のティーセット以外をすべて、地下へと」


「そうですか。それで?」


 俺は暗にそれだけではないだろうという意味合いを含ませスチュワートへと返す。


「他は、私自身は体験したことがないのですが、お嬢様が夜中に『あそぼ……あそぼ……』という少女の声を聞いたり、廊下を走る少女を見たりと、とにかく気味が悪くて」


 ははぁ〜ん、なるほどね。これはこれは、悩まされてますね。しかし、かわいそうに。


「それはどれくらい前からですか?」


「だいたい一ヶ月ほど前、巷で冒険者という職業の方々が噂になり始めたころかと思います」


「わかりました、では、今日1日こちらで警戒させていただきます。その現象を発生させている大元を捕獲もしくは消滅させ次第、ご連絡いたします」


「ありがとうございます! ありがとうございます!」


 そうスチュワートが言った時、ティーカップがかちゃかちゃとひとりでに震え、そして、浮いた。


「あ、あぁッ! これです! まただ、これで何人も冒険者の方がお見えになってはすぐにお帰りになられて……!」


 ティーカップは空を飛ぶ。マジで。しかし、それはスチュワートさんの腰の位置よりも下で、そこから上へは行かない。


 俺はその浮遊するティーカップを無視し、スチュワートさんに聞く。


「ポルターガイスト、もしかしてスチュワートさんの腰より下にあるものしか動かないんじゃないですか?」


「は、はい、そうですが、なぜわかるんです?」


 そりゃわかるさ、だって、見えてるから(・・・・・・)


 ティーカップをニヤニヤしながら動かし、スチュワートさんの反応を見てはケラケラ笑ってる、イタズラ好きの(・・・・・・・)座敷わらしの少女(・・・・・・・・)が。


「うふふ、今日は久しぶりにちゃんと怖がってくれる人が来たわね! 張り切って浮かしちゃうわよーっ!」


 ふよふよと、ティーカップのセットを持って、スチュワートさんの周りを、そして俺の周りをウロチョロ。見えてるので怖くはないが、はっきり言って鬱陶しい。


「スチュワートさん、原因がわかりました。今すぐにでも消せますが、どうしますか?」


 すると、ビッタァと、浮いていたティーカップがスチュワートさんの前で停止し、それを持って動き回っていた座敷わらしが俺を見る。目と目が合う。


「もしかして、見えてます?」


 だらだらと、座敷わらしの顔から、汗が滝のように流れる。


「見えてるし聞こえてるし、触れるし、更に言えば消せるって言ったらどうする?」


「キャーーーーーーッ! 出たーーーーーーー!!!」


「待てやコラァ!!!」


 座敷わらしがおばけでも見たかのような叫び声をあげ、部屋から逃げる。俺はずっと黙らせていたエリスに言う。


「お前も見えてたな? 探し出して見つけたら居場所を教えろ。捕獲できるなら捕獲しろ。いけ!」


 エリスはこくこくと頷くと、そのまま走って部屋を出て行った。


「あ、あの……?」


 スチュワートさんは困惑気味だ、そりゃそうだ。俺が独り言を言ったようにしか見えない。俺は軽くスチュワートさんに伝える。


「原因はこの家についた座敷わらしでした。どうしますか? 消滅させることも可能ですが」


 スチュワートさんは、初めて原因を知ったのだろう、いたく驚き、そして少しホッとしたような表情を見せる。


「……座敷わらし、ですか。悪霊の類ではないのですね」


「ええ、座敷わらしはイタズラ好きなだけで、基本的には家に富をもたらしますが……正直この家に憑く彼女はイタズラ好きすぎます。消すことをお勧めしますが」


「それでも、この家に憑いていただけているのですから、一目見て、……話を聞いて、その上で判断したいと思っています」


「……わかりました。では、捕獲という方向で」


 この人は、お人好しすぎるな。だから床に伏せるお嬢様とやらを見捨てられず、ずっとこの家に残ってるんだ。


 そんな、人の気持ちがわからないクソカス妖怪には、ちょっとお灸を据えてやらんとなぁ……!


 俺は自分でも悪い顔をしていると自覚しつつ、座敷わらしを捕獲するため応接間から出る。彼女は絶対にこの屋敷からは出られない。最初から、袋の鼠だ。


 霊との鬼ごっこと隠れんぼでは生涯負けなし、凄腕最強退魔師本堂新多さまに、果たして勝てるかな……?

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