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7-5 女神新時代 城で待つ者

 女性組(見た目)が僕の部屋、男性組がハコネの空間で夜を過ごし、翌朝。


「食料が尽きそうなんだけど」

「狼は旨くなかった。せめて猪か鹿がいい」


 僕と同じ記憶を持つということで、出来ないことも僕と同じ。つまり、料理なんてほぼ知らない。料理の能力は、美味しいものをより美味しく、そうでないものをそこそこに食べるには必要。僕が料理すると、美味しいものがそこそこに、美味しくないものは食べられないものになる。異世界に来た日本人は料理文化を広めるとか、日本人は誰もが料理上手だと誰が決めた?

 ちなみに、みさきちも向こうでの記憶は現代人だし、こちらでは姫様だったから、異世界野生動物を美味しく食べる方法には詳しくない。

 結局、電気炊飯器でご飯を炊いてそれに塩を振って食べる。人里からあまり離れない生活をしてたのが、こんな所で裏目に。




「この道みたいだね」


 雪の原野と丘を越え、歩いて辿り着いた整備された道。もちろん舗装されたりはしてないけど、なんと石畳。お金が掛けられてるし整備具合から重要な道だということが分かる。馬車同士すれ違えそうな道幅で、僕らが馬車とすれ違うのに困るところはない。

 歩く人はフ族らしき黒髪も人族のカラフルな髪も居て、おかげで僕達一行も怪しまれる事はない。そしてエルフも混ざってる。いろいろな種族が混在して争いが起きていないというのは、この地域を治める勢力がかつての僕らの様な方針を採ってるのだろうということが想像される。

 ところで、長い時間が経ったのなら移動手段は自動車になってないかと思ったけど、それらしいものは来ない。


「特に変わる所はないわね」

「文明の進歩がゆっくりなんだろうね」


 道に辿り着くまでは雪に覆われていた原野だったけど、道はしっかり除雪されている。道を進むと、たまに小屋や畑が見受けられるから、この雪に覆われた原野に見えるところも、畑なのかも知れない。


「足利の旗印!」


 みさきちが見つけたのは、街道をこちらに向かって来る歩兵の隊列と荷車。旗は荷車に立てられてるけど、誰かが持って歩くものじゃないのか。すれ違う中にフ族だけでなく人族も混ざっているのは以前と違う所だ。話を聞こうとしたら、邪魔だと言われてしまった。やはり、みさきちの事を知らないか。

 僕ら一行を特に怪しむこともなく、隊列とすれ違って行く。後ろ髪引かれるように振り返るみさきち。




「やっぱり、ここに移転してたのね!」


 元の城を放棄して別の場所に移す案はあったらしい。その場所は高尾の西で高尾山に向かう途中。西から東に流れる川に南から北に流れてきた川が合流する場所に当たり、東西に流れる川の北側は街になってる。街の様子ははやり時代劇のような低い建物が並ぶ和風の佇まい。

 南西側の2つの川に挟まれた場所とその裏の山が城になっており、城には足利の旗。


「立派な城じゃな」

「平地にも拡げているが、山城か。守りには良い作りだ。未だ戦場が近いという事だろう」


 将軍さんがしげしげと眺める。聞くと4人の中では、軍事的な才能はこの人が一番らしい。


「さて、入りましょう」

「え? いきなり?」


 川の向こう側には、壁が連なっているが大砲は見当たらない。兵器のレベルも、良くて江戸時代か。

 川に掛かる橋は門に繋がり、門番が2人立つ。同時に4人は並んで出られそうな立派な黒い門だ。


「城に御用ですか? お嬢様方」

「私は足利の縁者です。この城を治める方に面会したい」

「鑑定を受けて頂けますか」


 え? いきなりその名乗り? 今の殿様にとって、昔の姫が来た所で自分の立場を脅かす面倒でしか無いかも知れないじゃない。まあ、大抵の危険を排除出来るだけの力はあるけど、不用心。

 門番の言葉からも怪しむ雰囲気が伝わってくるけど、魔法による鑑定で名前が出れば納得して貰えるのだろうか。でも鑑定って…… しまった。4人を連れてヒソヒソ声が届かない程度の距離まで門から離れる。


「鑑定されるの、まずくない?」

「そうだな。ノーライフキングと分かれば、敵と思われるか」

「なら、サクラがネクロマンサー、我らはそれに従う者という事でどうだ?」


 ここに来るまでの間に、僕の呼び名は酋長からサクラにさせた。言われてる間に名前変わっても嫌だから。でも、種族をどうやって誤魔化すとかを考えてなかった。

 ネクロマンサーって死霊使い? 確かに4人は死霊として扱われる存在だろうけど、本来の自分と同じ姿の4人組をアンデッドの魔物扱いという所は引っかかる。もう他に誤魔化す準備する時間も無いから、今日の所は仕方がないか。4人が見咎められたらそう誤魔化そう。

 打ち合わせが終わりみさきちの所に戻ってしばらくしたら、人族の女性とフ族の男性が連れて来られた。


「それでは失礼。なるほど、確かに、この方は足利政綱様です」


 鑑定を受け持つのは人族の方だった。僕らの鑑定もあるかもしれないから、僕とハコネは人族の冒険者ってデコイで偽装してある。


「え? 政綱様!? しばしお待ちを!」


 人族の女性は淡々と鑑定結果を伝えたけど、結果を聞いたフ族の男性が大慌てで城に走って行く。

 520年前に居た本人だとは思わないだろうから、もしかしたらこの時代に同姓同名の人が居るんじゃなかろうか? 伊達政宗という人も独眼竜の数代前に居たそうだし、欧州風なら同じ名前を何度も使って何世って。

 お待ちをと言って城に入るなら、僕らも連れて入れば話が早かろうに。いや、もしかして、城に入れられないような極悪人と同姓同名とか?


「何だか慌ただしいわね」

「きっとすごい爆弾なんだと思うよ、その名前。指名手配犯と同姓同名とか」


 その言葉にちょっと嫌そうな顔のみさきち。駄目なら駄目でいいじゃない。囚人になるのも物語のよくある1シーン。斬首直前にドラゴンが助けに来るかもよ。

 そんな事でみさきちを弄り、脛を蹴られた所で初老の男性が走って来る。戦術ビューで見ると……こちらも同姓同名?


「姫!」

「誰!?」


 いきなりのハグにとっさに飛び退くみさきち。さすがハイレベル、敏捷性も一流。空振りに終わる哀れな初老男性は、伊勢長氏さん。三島で戦った軍代の……同姓同名?

 姫と言うからには同姓同名じゃなくて本人という可能性も。でも520年生きた?


「マサツナ様、いいえ、チャチャ様、よもや私をお忘れですか!? 幼き日から共にあった伊勢新九郎長氏。首を長くして、姫様のお帰りをお待ちしておりました」


 ここまで言うからには、もう本人と思うしか無い。


「本当に、シンクロウ?」

「そうですとも。姫様はお変わり無く。私は老いてしまいましたが、姫様がそろそろお帰りになるはずと、首を長くしてお待ちしておりました」


 なぜ生きてるなんて、そんな事はどうでも良い。それは置いといて、これは朗報だ。


「そう…… ただいま」

「お帰りなさいませ」




 長氏さん、みさきち、その他の並びで城の中を進む。板張りの廊下が美しい。城の作りがどこかのお城の復元天守のような風情。復元じゃなくこれが本物なんだろうけど。


「え? 60年?」

「そうですよ。誰ですか、520年なんて嘘をついたのは」


 ん? ちらっと聞こえた話、僕が悪者になってる様な。あれから52ターン、520年でしょ。いや、519年かも。どっちも間違い?

 廊下を進み、広間に通される。


「どうぞ。皆様はこちらに…… お主ら、何者だ?」

「待って!」


 みさきちが一段高い所に上がろうというタイミングで、思い出したかの様に目をつけられる4人組。脇差を抜くも、僕とハコネが間に入り止める。いや、倒されても復活するけど、復活するなんて怪し過ぎて、話が拗れて面倒じゃない。


「この4人は僕が使役するノーライフキングの皇帝、国王、首相、将軍です」

「ノーライフキング!? そんな高位のアンデッドを? ですが、その名はどうかと……」


 名付けのセンスは僕のせいじゃないって。


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