7-6 女神新時代 時の流れ
無事にみさきちが上座でこちら向きに、その手前に僕らに背を向けて長氏さん、僕らは後ろに居並ぶ。
「姫様の行方が分からなくなり、情報を集めました。分かった事は、先の公方様がサクラ殿の討伐を依頼していた事、それを成し遂げたと武田の小僧が報告に来た事、そして姫様が最後に見掛けられたのが、旧八王子でサクラ殿とご一緒の姿だったという事でした」
語られたこの60年の出来事。彼らの情報収集能力は素晴らしく、エドさんや佐倉のサクラさんまで辿り着き、僕が封印される際にみさきちが巻き込まれたのではないかという推論までしていた。その封印を解くためには、佐倉の女神を討つべきかと議論し、ついに関東中央に兵を進めよう言う時に、凶事が起きた。
ジョージBが公方を倒してしまったのだ。公方も天下一の手練と言われる人。依頼を履行したジョージBを迎え撃つつもりが、まさかの敗北。その傷が元で……
「引退されて、湯治三昧に」
ガクッ。いや、殺されてた方がドラマチックなんて不謹慎なことは思ってないよ?
「それでは兄上は?」
「ご健在です。長旅はお傷に障りますので、関東に下向されることはございません。関東は姫様に譲られた事になっておりましたので、武田に公方の座を明け渡しても関東は変わりありません。姫様はいつか戻られると信じて、我らで守り続けておりました」
予想に反して60年しか経ってないとは言え、武田の領土拡張は凄まじいものがあり、長氏からそれが語られる。
武田丈二ことジョージBは以来の依頼履行で得た公方への挑戦の機会を活かし、正当な手段で公方の座を得た。しかしそれに納得しない者は多く、それらに対しては「力で奪った公方の座に納得出来ないなら、力で奪いに来い」と挑戦を受けて立ち、その全てに打ち勝った。挑戦者には命を落とした者、離れて行った者もあり、上方足利家の人材全てを受け継げたわけではない。それでも彼は多くの物を得た。
武田の子らはなぜか幼くして何かを成し遂げる天才児ばかり。ある子は創造主時代の遺物に再び活力を与えた。またある子は自ら新しい技術を作り出した。別の子は魔法に秀で戦場に立った。それらの力を融合し、武田軍は一兵卒であっても他国の猛者と互角に戦える力を得た。
「あ、そうか……」
なぜここまで武田が伸長したのか。僕の解釈は、ハコネが秦野でやったのと同様に、異世界転生者な子供達が多数いるから。アリサやマリと同様に、もっと文明の進んだ世界から来ることもあるのだから。子供達は幼い頃からその多様な知識を役立て、武田家を技術面で破格の存在にして行く。そんなシナリオが想像できた。
時代の変化を見てきた長氏視点の歴史講釈は続く。
最初の餌食は、僕らの戦いで女神を失っていた地域。女神の不在とその期間を熟知していたのか、数年という短期間で的確にその範囲を手中に収めた。その後しばらくはおとなしくしていたが、再び拡大を始めたのは今から40年前。東海、甲信越、北陸、中国、四国。各方面に侵攻し、30年かけてそれらを領土に加えて行った。
「彼は我らとは異なる手法を採りました。女神様を排除したのです」
他の勢力は、戦で領土を奪った後、旧領主と同様に新領主は女神の力を利用して領土を治めるのが普通だった。遺物の活用は女神の助力が必要であったし、女神も新領主を受け入れるのが習慣だったからだ。
「彼は違いました。彼が吹聴する通りであれば、女神を倒すことでその力を得たのだそうです。遺物の活用を女神を通さず行っている事から、女神の力を奪うというのは真なのかもしれません」
それはどういう事だろう? もしかして僕がアタミさんやミシマさんから委託されたけど、それを女神達に強制したのだろうか? どうすればそれが起こるのかは分からないけど、現にハコネは権限が奪われている様だし、事実なんだろう。
「関東では伊豆と相模の大部分を手中に収めました。もはや大陸の統一を阻む者は居ないのではないか、我らも従わねば滅ぼされるのではないかと考え始めましたが……」
12年前、関東最大の都市、江戸に手を掛けたことが、事態を反転させた。そこからは、天上から僕らも知っている話。魔王の復活。
「あれ程他を圧倒した武田軍も、魔王軍とは互角で一進一退です。横浜から町田に掛けて、長い戦線で戦っています」
その他の地域は、相模原は魔王復活時点で武田軍の支配下にも敵対関係にもなく、そのまま魔王軍との戦いが始まったため武田家との共同戦線となっている。秦野も守りが堅く一度武田軍を跳ね返した後、魔王の復活があって武田とは矛を収めた。
「我らは伊豆を奪われはしましたが、相模原が壁になり武田と表立った争いは収まっています。そして我らにも魔王軍の魔手が迫っています。武田とは条件が合えば手を結ぶことも出来ますが、魔王とは相容れません」
僕からすればジョージBの方が敵かと思ったけど、魔王さんの方が敵なのか。どうしたものか。
長氏さんの武勇伝が始まり、80歳を越えて50代に見えるその姿は謎で武勇伝にその秘密があったら興味があるけど、欲しい情報は出てこなさそう。昼食時でもあり、僕らは先に城を出てきた。みさきちはさらに積もる話があるという言われて長氏さんに捕まっている。
門前の食堂でなんとトンカツがメニューに有ったのでそれを注文。ハコネはカツカレー。やはりそれか。皇帝さん、野菜を摂った方が良いから野菜炒めって、アンデッドに健康とかあるの?
さて、なぜ60年しか経ってないのか? そこの所を解明しよう。下界で生活していた人々に聞いても、60年経ったとしか言わないことが想像できる。だから聞き込みの相手はそれ以外。
「ログのターン数は確かなのかな?」
「我が見ても同じじゃ。どうしたのじゃ? おかしな事か?」
「いや、何で520年経ってないのかな、って」
そう言えば、520年って僕以外は言ってない様な。僕とみさきち以外は気付いてた?
「ターンと時間は同一ではない。創造主の時代に1ターンが1年となった事もあった。今はそうなっておるのじゃろう」
「そうか、サクラはそれも忘れて居たのか。余の治世の末期は1ターン5年だった」
「私の治世では1ターン1年までなりましたね」
何だそれ? 国王さんより首相さんの方が長く戦い続けたんだっけ。段々ターンあたりの年数が短くなっていったって事? それが再度1ターン10年になり、今はまた1ターン1年か。ややこしい。
「ターンと言うものは移ろうものじゃ。動きが激しい時代に10年に1度の奇跡では足らぬだろう?」
「創造主が去り、魔王達が暴れて世界の技術は後退した。再び技術が進んだ世界ではターンあたりの時間は短くなるのだ」
ハコネの言う理由と、国王さんの言う理由。どっちが正しい解釈かわからないけど、起きている事はそういう事らしい。
技術が進むとターンのサイクルが短く、技術が衰退すると長くなる。その技術というのは、創造主や競争者達が到達した技術の水準だと。
60年という事は、僕が天上に行ってすぐに切り替わったのだろう。そう思ってログを見たら見付かった。
“Turn 844”
“勢力:武田家 が技術 科学理論 を発明しました。”
“勢力:武田家 が技術レベル 産業時代 に到達しました。”
“ターン進行:1年/1turn”
これだ。この辺は中世と大差無い生活をしてるのに、ジョージBの方は産業時代? どれだけ技術で置いて行かれてるんだ。前にフ族の港で見た景色が技術水準高そうだったけど、そこまでの差じゃなかった。小田原が中世で、土肥がルネサンスくらい。それが中世と近代じゃ、戦争したら塗り絵のように国境は書き換わるだろう。
理由は分かった。奇跡が使いやすくなるなら、僕には有利になったって事かな。大晦日に使えば、お正月には復活できるのなら、毎年使えば良いじゃない。
520年でなく60年なら色んな人に会えそうだ。
マルレーネとハンスは70代か。どんな人生を歩んで、何になってるだろう。
エルンストとマリーの領主夫妻は、武田家に滅ぼされてしまったのだとしたら、無事だろうか。子供が産まれるって話だったけど、その子が生まれて60年。まだ見ぬ赤ちゃんがもう60歳。そう考えると60年ってのは長い。
アリサとマリはエルフで長生きだって言うから、どこかで物づくりに励んでるだろう。何を作ったか見に行きたい。
あとはオダワラさんにアタミさんにミシマさん。都市を守護する役割を取られたら女神はどうなる? まあハコネが特に変わりないから、こんな感じなんだろうか。
でもまだ箱根に行くのは危険か。ハコネが出るのを待ち構えてたし、僕らを何とかしようという狙いを持ってると考えた方が良い。もう少し情報を得てから動いた方が良さそうだ。




