2-12 女神のご近所訪問 彼女が女神に着替えたら
8/20 後半をちょこっと修正。大きくは変わりません。
「ハコネにサクラ、すまぬが急用が出来た」
カレーどころじゃないのか、ヒコゴロウさん一行は店を出て行く。
「もったいない。食べても良いじゃろうか」
「そこまでする?」
食べ残しにまで手を出すとは、この元女神は姿が男になったからと言って色々酷くなり過ぎだと思う。
「飛龍って言ってたけど、ちょっと見たかったな」
「戻る途中に見えるんじゃないかのう。うちの方に毎年来とるぞ。さっきのもそうじゃろう」
ヒコゴロウさん一行4人の食べ残しを平らげるハコネ。その体で太るのは止めて欲しい。
「飛龍は何しに来るの?」
「鹿を食べにじゃな。丸齧りじゃ」
「肉食の龍か。宿の人に危険がないと良いけど」
龍が来たとなったら、宿の人は町に逃げるだろうか。折角お客が付いたのに。
「鹿は主に西におるからな。龍は西側に行くことが多いのじゃ」
ここでふと思い出した。
「スヴィクーマさんが言ってたよね。僕らが狼を追い払ったから、宿の近くが鹿の楽園になってるって」
「うむ」
「宿の近くに鹿が沢山いたら、飛龍は東に行かない?」
「行くかも知れぬな」
ちょっと不味いかも知れない。
「追い払いに帰ろうか」
「待て、このカレーを食べてからじゃ」
部屋に戻り地図で確認した長尾峠を目指す。山越えできる場所でそこが比較的標高が低く、雪も無さそうだから。万年雪を歩くのは、装備もないし遠慮したい。
「この山越えに、トンネルがあればいいのにね」
「再開させた用水路、そこなら湖の高さだから少し楽じゃな」
「濡れながらってのは辛いけど、幅があれば小船で移動できるようにしたら良いかもね」
用水路トンネルは今回行くルートよりかなり南にあるけど、そのうち使えるようにしたい。山越えがなければ、冬も箱根から西へ行けるようになる。
昼食後の出発では峠にはたどり着けず、途中一夜を部屋に戻って過ごしたが、そこでもハコネはカレーだった。流石におかしいでしょ。
「多いな」
峠から見る盆地には、空と地表に飛龍が何匹も居る。戦術ビューで見る飛龍のレベルは40くらい。
「ここら西側の鹿が食い尽くされたら、次は東側じゃ。それまでに宿に戻ろう」
「あれ? レベルすごく高いのが混ざってる」
レベル135って、神?
「あれは龍神じゃ。なんで混ざっているんだか」
「龍の神様?」
「そうじゃ。フジから普通は降りて来ぬのじゃが」
「えっ?」
爆発が起き、少し遅れて爆発音が聞こえる。
爆発の付近を戦術ビューで見ると、息絶えた飛龍と倒したと思われる者が居る。黒い髪の4人組。
「ヒコゴロウさん」
あの爆発はヒコゴロウさん一行の誰かが魔法を使ったのか。
「飛龍を狩るつもりか? 龍神の前で?」
「龍神の前で飛龍を倒すと?」
「龍神に喧嘩を売る様なものじゃな。命知らずめ」
戦術ビューで見るヒコゴロウさんのレベルは65。他の人は60以下。これまで見た人達の中では最高クラスだけど、龍神の半分。
「レベル65のフ族が、龍神に勝ち目は?」
「万に一つも無い」
なぜそんな事を。
「ヒコゴロウさんに加勢した方がいい?」
「ならん。サクラ、今のお主では龍神には勝てん」
「でもそれじゃ、ヒコゴロウさん達は?」
「眷属を殺めたのじゃ。その命による償いは避けられぬ」
見捨てるしか無い?
良く見ると、ヒコゴロウさん達は勝てないと分かったのか、逃げ始めた。龍神と反対の方向へ。
「そちらは我らの宿の方向じゃ! 行くでない!」
「遠くて聞こえないよ。どうする?」
まだ宿までは距離があるけど、このまま放置しては宿を危険に晒すかもしれない。
「勝たないまでも、龍神が東に行くのを止めさせられたら」
「飛龍の命が奪われたのじゃ。そう簡単に追うのをやめることはなかろう」
「ヒコゴロウさん達を見失うように、一旦こっちに注意を向けさせることは?」
「龍神をこちらにか? 危ない橋を渡ろうとするのう」
いや、僕には隠れる場所がある。
「危なくなったら、ニートホイホイで隠れる」
「龍神が諦めるまで引き籠もるつもりか。食い物の備蓄はあるし、出来なくはないのう」
「ハコネが三島で城壁にやった攻撃、この距離で届く?」
「威力は落ちるが、やってみよう」
ハコネが構えから放った剣技の延長線で、龍神がこちらに振り返る。
「ハコネ、おびき寄せて」
「そうじゃな」
さらに一撃。龍神はこちらに向かってきて、目の前に着陸する。でかい。
「奴らの 仲間が おったか。まずは 貴様が その命 差し出せ」
しゃべった!
仲間だと思われてるのは、ハコネの髪の色?
「さあ、ハコネ!」
龍神が向かって来ようという所で、ニートホイホイで部屋に逃げ込む。
「うまく行ったかな?」
「この扉は閉じれば消えるからのう。向こうからは手出しできんはずじゃ」
そのまま、何事もない。まだドキドキしてるけど、至って平穏な部屋の中。
外の様子はわからないけど、龍神はまだ近くにいるかもしれないから、出るわけに行かない。
「外の様子は見えないかな?」
「扉に触れれば覗き口から見えるが、その状態では外に扉が出るじゃろう。その扉を破壊されたら、何が起こるか分からん」
「じゃあどうする?」
「夜になったら外に出てみるのはどうじゃ? 龍の夜目はそれほど良くないはずじゃ」
じゃあ適当に時間を取るか。暗くなる時間まで様子を見るとしたら、ここの時計であと半日待たないとな。
「もう本棚の漫画は読み尽くしたかもしれん」
「電子版は?」
部屋でマンガやネットでダラダラ過ごす。昼間にこういう事はあまりしてない。
ネットが使えるから電子版を購入出来たりするのだけど、カードの利用可能枠が徐々に消費される。まだ100万円くらいはあるけれど、回復できるのかもわからないから、買い過ぎは良くない。
「ネットの情報は、最初の日から更新されてないんだよね」
購入手続きはできるから、ネットの向こうが時間停止はしていないはず。しかし、ツイッターのタイムラインはこの世界で最初の日から一つも増えない。
こちらで半年経っても、向こうは1分も経ってないのだろうか。
ネットで色々を調べたりしていたら、そろそろ外が夜になる時間だ。部屋の時計はこの世界の時間と同じく進んでいる。
「扉の外はどうだろう?」
「どれどれ。うむ、夜みたいじゃな。見える範囲に、龍神はおらぬ」
覗き口を確認したハコネが、扉を開けて外に出る。
「大丈夫? いない?」
数歩前に出たハコネが、僕の方を振り向いて眩しそうにする。
「急いで扉を閉めてくれ。龍神がおれば明かりで気付かれる!」
「あ、ごめん」
扉を閉め、近くに龍神がいないか戦略ビューを見る。
緑の点が2つ、青い点。3つは、ほぼ重なってる。
僕らに重なって青い点?
もしや!
そう思うと同時に、巨大な何かが真上から落ちてきて、それが龍神と認識できて、その竜神の口の中が見えた。
その直後、目の前の景色が見慣れた部屋に戻った。
何が起きたの? いまのは夢? 暇で居眠りしてた?
ハコネは?
部屋を見回すと、そこには僕がいる。
いや、僕がこの世界で馴染んだ、女神の姿。
何が起きたんだろう? 入れ替わりが解除された?
そう思い、鏡を見たら、そこにも女神姿の僕がいた。
「むう」
目の前の女神姿の子が起きた。
「ハコネ?」
「当たり前じゃろう。あれ? 声が」
この話し方はハコネ。
僕は金髪少女なハコネの姿。ハコネも同じ金髪駄女神なハコネの姿。
「戻っておる! 元に戻っておる! ああ、ルア様!」
初めて見る、思いっきり喜ぶハコネ。なんかかわいい。
「じゃが、お主もその姿のままか。一体何が起きたのじゃ?」
「それは僕が聞きたい。こう言う時、起きたことを知る方法はある?」
「それならログを見ることじゃな。戦略ビューに四角い印があるじゃろ?」
それどれ、あった。それをチョイ。
”ハコネが龍神に倒された。”
”サクラが龍神に倒された。”
”ハコネは赦された”
”Turn 843”
”ハコネは復活した”
”サクラは復活した”
「ほう」
「あ、ここでは僕の戦略ビューもハコネが見えるんだっけ」
「そうじゃが、そういうことか」
ハコネが納得してる。
「分かったなら説明してよ」
「ではまず、このログにある通り、我とサクラが倒された。そして復活した」
それは書いてあるとおりだけど、説明になってない。
「女神は殺されようと次のターンには復活するのじゃ。ターン842に倒され、ターン843に復活じゃ」
「また10年経っちゃったのか……」
異世界で、初めて殺されました。いや、普通は二回目はないものだし、初めてって言うのもおかしい。
この世界での知り合いが、また僕らを置いて歳をとってるのか。女神様達は除いてだけど。
「それで、ハコネが元の姿に戻ったのは?」
「それはじゃな……」
ハコネが床に座り、頭を下げる。何?
「実はお主に謝らんといかん事がある」
ん?
「最初にそなたを呼び出した際の事じゃ。あの時、お主が『元の世界に戻して』と言いかけた際、我はお主にこう言った。『元の世界に戻しては、この地を栄えさせることは出来まい。返す気のない者に恩恵は与えられぬ』と」
「そうだったね」
「あれは、嘘だったのじゃ」
嘘?
「あの時、我はお主が『元の世界に戻して』と言い終わっておれば、お主は戻れたのじゃ」
「そうだったの!?」
「我はそれを言わせまいと、遮った。それは女神としてやってはならぬ事。その罰として、本来は認められぬお主との入れ替わりが、ルア様に認められた」
帰れたのに、ハコネが邪魔した。そんな……
「今これを伝えたのは、我が元に戻った事がつまり罰が終わった事、よってお主が望めば入れ替わりを元に戻して、お主を元の世界に返す事も出来るからなのじゃが」
「じゃあ、戻れるの?」
「新しく問題が起きてしもうた。お主の体じゃ」
僕の体…… ハコネは僕の体から元の姿に戻った。僕はそのままハコネの姿。
「僕の体は?」
「どこに行ったんじゃろうな?」
「どこにって、ちょっと!」
僕の体勝手に亡くさないでよ! そのうち返してもらうはずだったのに!
「帰ると言うのは、お主が元の体に戻った後でなくてはな。その姿で戻っても、あちらの世界では不都合があろう。本来、女神は現世に体を持たず、必要な際だけ顕現することが出来ると言う仕組みじゃが、そなたの世界ではその仕組みが備わっておらぬかもしれん」
「そうなると、このまま戻るとどうなるの?」
「天上の神として過ごすしかないのう。あちらの神、結構な爺様だと思うが、その爺様と一緒に過ごすことになるか」
何それ。一部の信者以外には、喜ばれない状況。
「お主、願い事の1つ目が、不老不死って願ったじゃろ?」
「そうだったね」
「という事は、どこかで生きておる。それを探し、元の体に戻れば、帰ることも出来よう」
あれから10年、僕の体はどこで何になって生きてるのだろうか?
次回から新章。旧章の名も少し変えます。




