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2-11 女神のご近所訪問 クイズ正解は私

「ハコネとお供の人、こんにちは」


 門で連れて行かれた部屋には、綺麗なお姉さんが一人。神々しい銀色の長髪。この人が女神の審問ってのをするのか。


「久しいな、ゴテンバ」

「え? 女神?」


 この人がゴテンバさん? ハコネ以外に現世で登場した初めての女神。


「あんた誰よ? 初対面でいきなり呼び捨て?」


 あれ? 入れ替わりに気付いてない?


「ハコネ、こいつは誰よ?」

「えっと、こいつがハコネで、僕はサクラです」

「は?」


 入れ替わり話を僕が説明する。


「これは丁度良かったかも知れないわね。ハコネが女神やってたら、いつまでも発展しないし」

「何を言うか。発展が少し遅いのは、気候に恵まれぬからじゃ」

「へぇ…… じゃあ同じく寒いヨシダはなぜ栄えてるのかしら?」

「う、それはそうじゃが」


 ヨシダ?


「ヨシダってのは、フジの北にある町よ。ハコネの所以上に標高が高くて食べ物にも苦労してたけど、ちゃんと町としてやって行けてるわ」


 富士吉田のことか。


「まあうちとしては、ハコネが駄女神だから助かってる面もあるけどね。ハコネが頑張ると、うち通らずに東西繋がっちゃうし」

「そんな事言うやつには、フジが噴火の罰が下ればいいんじゃ」


 それは平安時代に実際に起きたから洒落にならない。でも5倍大きな富士山の噴火だと、箱根も埋まるんじゃない?


「それはそうと、ゴテンバの町の方に行きたいんじゃが、通って良いか?」

「じゃあ、試験を行うわ」




 試験は翌朝すると言うから、その日は目立たない場所でニートホイホイして休み、再度ゴテンバさんを訪れた。


「ゴテンバまでの行動を見せてもらうわ。それが試験よ」


 御殿場に入るのにふさわしくないと判断されたら、帰れってことらしい。


「その場で何かさせられるのかと思ったら、良う分からんのう」

「門前払いよりはいいけどね」


 行動で測るというのは、インターンシップで採用を決めようという入社試験みたいだ。


「そうでしょ。良い試験方法だと思うわよね」


 どこか遠いところから見守ってますって言うのかと思ったら、ゴテンバさんが一緒に付いてきた。


「お主、暇なのか?」

「そんな事ないわよ。ただ、他の女神みたいに遠くかから見てますよじゃなくて、同じ目線で見るの」

「それで女神がウロウロするのか?」

「僕らも同じだから、人のこと言えないよね」


 街道を御殿場に向けて歩く。人通りはそこそこあり、色々な人とすれ違う。


「人族はあまり多くないんじゃな」 

「ドワーフに、エルフに、魔族に」

「はい、サクラさん、減点!」

「え?」


 何? どこが駄目だったの?


「この領内では、フ族と呼ぶように。それぞれの種族が自称する呼び方を使うのが決まりよ」




 進むと、前方で言い争いをする人達がいる。職業に山賊とかあったら助けに入ったほうが良いかなと、戦術ビューを見る。


「人族3人とフ族4人」

「一触即発じゃな。どうする?」

「止めてみせなさい」


 ほら行けと、ゴテンバさんに急かされる。


「何をしてるんですか?」

「こいつが邪魔だと言いがかりを付けて来るんだ」

「いや、(それがし)が進む道をこやつが塞ぐので、退くように求めたまで」


 それがし(・・・・)さん達はフ族。服装が時代劇の侍そのもの。


「歩く時は右側を行くものでしょう?」

「左を行くものであろう。さもなくば、刀が当たるではないか」


 これは文化と言うか習慣の違いか。でも人族とフ族だから、相手側に合わせるのは癪に障るらしい。


「ゴテンバさん、ここでの決まりはどちらですか?」

「左ね」

「では人族の方々も、左を行くべきでしょう。言い争うだけ無駄ですよ」

「貴様、人族でありながら魔族の味方をするというのか?」

「そういう決まりです。人族だけが決まりを守らないで良いと習いましたか?」


 人族達はブツブツ言いながら三島の方へ去って行った。


「見苦しいところを見せた。仲裁に感謝する」


 それがし《・・・・》さん達はお辞儀をして先へ行った。


「今のは正解ね。種族にとらわれず、決まりを守る方が正しい」




「ここらは人族とフ族、それにドワーフとエルフと、何でもありじゃな」

「ゴテンバってのは、人族の交通路であると同時に、フ族の交通路でもあるの。トウカイ王国からカントー王国に行く人族は、ミシマからゴテンバを経てアシガラに向かうでしょ。フ属は、シュゼンジからアシノ湖まで山を進んで、峠を超えてゴテンバ、そこからヨシダやコウフに行くのよ」


 そう言えば、チャチャさん達は芦ノ湖を北へ進むって言ってたっけ。


「対立する両者の道がゴテンバで交わるわ。だから争いを禁じているの。呼び名もその一環よ」

「さっきの通行人が争いになりかけてたところは?」

「争いになっていたら、双方が決まりを守らなかったって事にするわ。争いは禁止だから」


 こんな感じで、御殿場に着くまで色々採点された。




「合格にするわ。覚えておいて欲しいのは、ここでの決まりは多種族の共存なの。その場面がなかったけど、商人や役所が種族や立場によって優遇することも禁止。他国の貴族もゴテンバでは平民と同じ」

「言うは易いが、難しかろう」

「そうよ。ちょっとした勘違いや嫉妬から差を付けられたと訴える者も居るし、人族とフ族は互いの排除を訴える声が止まないわ」

「共存というのは難しいのじゃな」


 それは僕もニュースを見ていつも思うことだけど、異世界でもそうか。


「でもこれは、優しさや善悪でなく、必要なこと。人族もフ族も、どちらかを排除したらここが戦場になるでしょう。それは避けたいの。すべての人が決まりを守れば、大きな争いは避けられる。ここはどの種族の土地でもなく、決まりを守る者を住まわせる場所よ」


 御殿場の入り口に到着。


「町で問題を起こしたら、すぐに追い出すからそのつもりで。決まりを守ってさえくれるのなら、誰でも歓迎するわ」


 ちょっと前に出て、僕らの方へ振り返るゴテンバさん。


「ようこそ、私の町へ」




「これまでに会った女神と比べて、彼女は町への思い入れがとても強いね」


 ゴテンバさんは町中へ走って行った。忙しかったのか。


「あやつが自ら育てた町じゃからな。鉱山を見つけてドワーフを呼び、町を作って賑やかにするまで、かなり苦労しておった」




 もう夕食に良い時間なので目的の店を探す。


「この匂いは! こっちじゃ」


 期待の匂いが漂う通り。そこにこの街へ来た理由でもある料理はあった。


「カレーの店じゃ!」




「わざわざカレーを探してゴテンバに来たのかい? まあ楽しんで行ってくれ」


 カレーライス、ナンにつけるカレー、野菜カレーにチキンカレーにビーフカレー。色々揃ってる。

 トッピングを色々載せてもらったり、量や辛さを変えたり。注文はカウンターで指定して先払いする形式。日本のコ○イチと○亀を合わせたみたいだ。

 そして店主は魔族、じゃなくてフ族だ。


「そっちに兄ちゃんはフ族か? フ族と人族のカップルは珍しいな」

「フ族ではないぞ。髪が黒いだけじゃ」

「おや、そうなのか。目鼻も似た感じだし、てっきりそうかと思ったよ」


 チャチャと言い、フ族と言う人達は東洋系の顔をしてる。シンクロウさんなんて名前まで日本っぽいし、今日見た侍の格好の人は時代劇から出て来たかの様だった。


「兄ちゃんは酒も飲むかい? あらゆる種族の酒が揃ってるぞ」


 周りの客は、人族もドワーフもフ族もいる。エルフは居ないが、あまりカレーを好きでないらしい。




「食った食った。店主は良いやつじゃったな。教えてもらった店には、明日買いに行くとしよう」


 カレーが手に入る店も聞けた。どんな形で売ってるのだろう。


「今夜はどうしようか?」

「資金はカレーにつぎ込む。いつもの節約じゃ」




 翌日は、市場に向かう。カレーを買いに行くため。


「この町でどこか行く所ある?」

「町に着くまでに、十分話を聞けたからのう。カレーさえ買えたら、他はお主の好きにして良いぞ」

「なら、フ族のことが知りたい」


 市場でカレーを売ってる店を回り、ハコネの気に入ったカレーを選んだ。


「フ族を知りたいとの事じゃが、それなら昨日の店主がフ族じゃった。ちょうど昼時じゃし、あの店に行くか」

「今日もカレー?」


 カレーの種類を変えれば良いかと、結局ハコネの案にした。


「いらっしゃい。続けて来るとは、どうした?」

「まだ食べ足りんのでな」

「気に入ってもらえたなら、ありがたいな」


 昨日はチキンカレーにしたので、今日はビーフカレーにした。


「おや、あなた方は昨日の」


 そこに居たのは、昨日のそれがし(・・・・)さん一行だ。




「ここまで我らに壁を作らぬ人族も珍しい」

「特に何かされたわけでも無いからね」


 熱海で襲撃は有ったけど、特にフ族に敵意を持つ理由にもならない。それ以上の回数、人族に襲われてるし。


「名乗るのがまだであった。某はヒコゴロウ。修行のために旅をしておる」

「僕はサクラ、こちらはハコネです。この町へは旅行です」

「あとカレーじゃな」


 彼らはいつか来る戦のための武者修行中で、魔物を狩るなどして技を磨いているらしい。

 その戦争が、イーリスさんの実家に対するものでないと良いのだけど。


「戦場で相見えることもあろうが、武士の定めじゃ」

「魔物との戦いで共闘であれば嬉しいですね」


 カレーを食べながら異種族交流をしていると、駆け込んできた人がいる。


「旦那! 現れました! 飛龍です!」


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