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7-17 女神新時代 八王子の長い夜

 相模原の宿に戻ると、4人が戻ってきていた。朝帰りかと思ったらそうでも無かったか。それじゃあ戦果を聞こうか?


「依頼はマチダ派遣軍からで、前線を超えて侵入した魔物の排除だった。俺達以外に俺達同様に依頼を受けた4、5人のが3チーム。全体に依頼者であるところの監督役が1人付いて、相模原東の丘陵地帯で獲物を狩った」

「最初は前にも戦ったスノーウルフ1頭で、余達のチームで対処出来た。監督役が言うには、冬場は元々寒さに強い魔物が多く、あと前線の柵を跳び越える程のはスノーウルフくらいだから、あれとやり合うことが多いそうだ」

「柵を破壊して侵入するような大物は、前線の兵がやるそうです。前線から兵を引き抜いて後方で敵に対処をするには前線の兵は休む事も出来なくなる。長期的に戦陣を維持するための仕組みが出来ている印象でした」


 4人から語られるのは、これが“伝説の勇者が魔物をなぎ倒しながら魔王に突撃”ではない、組織的な魔物との戦闘。前線を構成する多くの砦と、砦の間をつなぐ柵で隔てられた両陣営。兵士が無理のない軍務生活を過ごせるだけの人員配置と物資。

 最新鋭の兵器を持つ兵士は連邦西方、要するにフ族が中心。兵站や砦と柵の構築と補修など、武器を持つのが主任務でない仕事は近隣諸邦から動員された人員の担当。結局、高性能な武器を渡すほど東の諸邦は信用されていないのだろう。


「これまで魔王軍というのは魔物が群れを作っているものだと思っていたが、違うようだ。率いているのは、ケモノの特徴を一部に備える、人型の人種だ」

「人?」


 魔物と戦っていたら、それを指揮する者も魔物の背に乗って侵入してきていた。それとも戦いになり、結局取り逃してしまったとの事だ。その魔物の背に乗っていたのが、ケモノの特徴を備える人型の人種。


「連邦側は人型の魔物という認識ですが、世が世ならケモミミと言われる程に人に似たもの者から、顔を除けば直立したケモノまで幅があります。ですが、武器を持ち鎧を着て戦場に来ている事から、行動様式は人類に属すると考えるのが妥当です」

「連邦は、人型の魔物として、魔族と呼んでいる。見た目的には獣人と呼ぶ方がしっくり来るのだが」


 これまで知っていた人類は、自称人族と自称フ族、あとエルフやドワーフ。自称人族はフ族の事を魔族と呼び人類ではないとしていたが、今は人類の一種として共存している。支配関係も共存の一形態だ。

 それに対して、新たな人類の候補をまた魔族と呼び非人類扱いして戦っている? いや、この場合は以前魔族と呼ばれたフ族がそう言う扱いをしているのだけど。オットーの説明からすると人種として纏まっているのではなく、ケモノの形質を持つ多数の人種の連合だろうか。人種という概念とも少し違うのかも知れない。


 ところで、魔王ってそう言う嗜好? いや、僕の持つ記憶と同じ記憶を持っているのなら、そっち系の嗜好は無い。知り合いにそういう嗜好で思い当たるのが居るけど、影響は受けてないし。

 嗜好がそうでなくても、そういう人種で軍団を形成したってことなんだろう。


「結局、前に魔族と呼ばれていたのも、いま魔族と呼ばれるのも人類。何なのだろうね、この世界」

「魔王が人だからそうなるのじゃろう。まあ、人以外の魔王は、この地にはおらぬが」




「サクラさん、起きてください!」


 女性の声と、僕を揺する誰か。起こしに来そうな人に思い当たる候補がない。ハコネが僕よりも早く起きることはないし、さん付けはしない。


「誰ですか…… えっと、サツキさん?」

「大変なんです。私達のお城が!」


 明かりをつけると、みさきちの所の和風メイドなサツキさんが、今は和風メイドでなく、毛布を羽織った浴衣のような出で立ち。慌てて出てきた様な姿で、言う内容も緊急事態。


「何者かが城へ侵入、城を奪い、門を閉ざしました。私達は城から出ることも出来ず、場内に囚われた状態です。お屋敷は外に出られぬ様に見張りが付いただけですが」

「相手はどんな人達?」

「私達と同じ黒髪ですが、僅かな言葉しか発しないのでどこの者か分かりません。この事態を姫様にお知らせしたいのですが、外へ出られず、やむを得ずサクラさんの扉を使わせていただきました」


 僕らの出入りは、騒動を招かないようにサツキさんには知らせてあったそうだ。おかげで扉の事はサツキさんだけが知っていて、謎の侵入者に屋敷まで踏み込まれることは避けられた。緊急事態だから勝手に使われた事は不問にするとしても、侵入者にも使われたら困る。今後対策が必要そうだ。それはそうとして、今の状況を何とかしないと。


「それで僕らに城の奪還を?」

「いいえ、それは姫様のご判断で無くてはなりません。だから、伊勢様の元へ向かわれた姫様にこの事をお知らせしたいのですが……」

「分かりました。それで伊勢さんの陣はどこに?」


 パソコンを起動して見せた立体的な地図に驚くサツキさん。場所を示してもらうと、日野の台地の上で、この世界の距離感なら馬で半日かかる距離。つまり、知らせが届いて陣から城に向かう軍が到着するまでは1日。


「飛べばすぐに行けますが、解決の際に屋敷の扉を奪われてはまずいので、今は屋敷から出ず、もう片方から出ます。相模原です」

「サガミハラ? そんな遠い所からでは……」

「大丈夫、八王子の城からと相模原から、飛べばす距離は大差ありません」


 八王子の屋敷の扉はそのまま確保したいので、ハコネの扉を伊勢さんの陣に出したい。その為にハコネに飛んでもらうか…… 状況を聞けた僕が第一報を伝えるべきか。いや、飛ぶのはどちらでも良いから、扉を伊勢さんの陣に開いて、サツキさんに伝えて貰う方が良いだろう。




 ハコネを起こして事情を伝え、一緒に出発。夜だから飛んでも見つからないとは思うけど、連邦の範囲は戦略ビューで見られるとしたら、町田の領域を飛ぶ際は見られてしまうかも知れない。正体不明の存在が上空を横切ったって情報だろうけど。それくらいなら平気かな。

 サツキさんには一旦戻って、何事も無い様に屋敷で過ごしてもらう。疑われない様に、そして機会があれば情報を得てもらうために。相模原の宿屋に居る4人には、もし朝扉がなくても誰かは宿に居て連絡役になって欲しいと書き置き。


 相模原の街を出て飛び始め、目的地まで半分を過ぎた頃、右後ろから何かが追い抜かして僕らの前に。危惧した事態か?

 

「こんな夜中に大急ぎでどちらへ?」


 暗い中で顔が見えないけど、戦術ビューで確認。敵ではない。


「サガミハラか、驚かすでない……」

「教わった魔法を試すのが楽しくて飛んでいたら、私の領域を高速で移動する誰か2人。すぐに誰か分かりましたので、追いかけて来ました」


 今日習ってもう使いこなしてるのはさすが。僕らの事情を話すと、そう言えばと思い出した情報を教えてくれた。


「ハチオウジさんの代理の方から、サガミハラとハチオウジの間にあるトンネルを使えるようにしたいと言われて、3日ほど前に開通させたのですが」

「どこにあるトンネルですか?」

「1つは西アイハラのさらに西にある山中のトンネル、もう1つはハチオウジの西にある湖とハチオウジの間にあるトンネルです」


 1つ目は圏央道、2つ目は中央道か中央本線だ。八王子への南からと西からのバイパス経路。代理の人というのは誰の事だろう? ハチオウジさんの神官だったシモンさんの話では女神の代理ってのが神官では無さそうだし。


 結局そのまま着いてきたサガミハラさんと、伊勢さんの陣へ。言われていた場所に篝火が焚かれた陣を発見。その少し手前に降りて、ハコネの扉を召喚。サツキさんを呼びに行く。

 サツキさんを伴い、陣の入り口へ。夜中の来訪者なので怪しまれるも、サツキさんの顔を知っている人が居て、サツキさんは陣へ。僕らは外で待つ。さて、これからどうなるのか。


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