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7-16 女神新時代 月

 飛行魔法と呼んでいる魔法は、本来は力を及ぼすだけの魔法なので、上に向けて力を掛け続けたら宇宙まで行ける可能性はある。身体を浮かせるだけの力を行使続けて何処まで行けるのか、面白い考えではあるけど、宇宙に行くために必要なのは推進力だけじゃない。


「宇宙には、空気がないです。息が出来ません」

「空気ってのは私達にも必要なのかしら? 食べ物みたいに、私達には無くても良いって事はない?」


 生物が酸素を使うのは、有機物を酸化してエネルギーを得るため。食べ物、つまり有機物を必要としない女神であれば、酸素は不要かも。誰か実験台になって、宇宙にチャレンジすれば分かるのだけど。


「なぜ宇宙に行きたいのじゃ?」

「最初は、理由は分からなかったのですが、そんな使命を感じたのです。今は行きたい場所があるからですが…… それはあとでお見せしましょう」


 その後も宇宙談義をして、僕らに協力する代わりに僕らは飛行魔法を教える、その魔法で宇宙を目指すサガミハラさんの成果は僕らも使わせてもらうという事になった。

 折角だからと、ここから星々を観察する事を勧められて、僕らは夜を待つ。


「ここからのソラを、私は1000年以上見続けていますが、見飽きることはありません」

「1000年も見ていたら、変わったこともあったんじゃない? 星が増えたとか、減ったとか」

「いいえ、星は永遠です。そんな変化はありません」


 人間の人生ってスケールならそうでも、数千年という神様のスケールなら変化あると思うけどな。地球から肉眼で超新星爆発が観察できた事も1000年に数回あったらしいし。ところか、ハコネもそんな事はなかったと言う。


「お主の持つ本に流れ星に願いを掛けるというのがあるが、星が流れるなんぞ見た事がない。あれは創作上の出来事じゃと思って読んでおったんじゃが、サクラはあれが実際にあると言うのか?」


 ファンタジーの住人にファンタジー扱いされる流れ星。流れ星なら流石に毎日でも発生してるだろうけど、それが無い? 根本的に宇宙の仕組みが違ったりする? まさか天動説が合ってる世界?

 サガミハラさんの説明では、太陽を中心とした太陽系で地球は太陽の周りを回っており、太陽系外には恒星を貼り付けた天球がある。ちなみに、ハコネは星には興味なし。サガミハラが言うならそうだろうで終わり。これはハコネが駄女神なわけでなく、占星術がメジャーでないから星にあまり注意が払われていない事による。地球の古代の人々は星と神々を結びつけたけど、この世界では神々が遠い世界でなくそこら中に居るから、占星術が流行らなかったんだろうか。


「その星が永遠という話、その永遠に終わりがあるんじゃないかという話、僕らの心配事について、聞いてもらえませんか?」


 “Turn 894/900”


 これについて、意見を聞く。ハコネに見えないだけでなく、サガミハラ産にも見えてはいないらしい。見えるのは僕だけか。


「終わりは…… もしかしたらあるのかも知れません。もし世界が終わるのだとしたら……そうですね、それまでに私は念願を果たして、この世界に産み出されたことに感謝して終わりたいです」


 結局、分からないままだ。僕以外にこれを見える人がいれば、そして答えを出してくれる人がいれば良いのだけど……




 夜を待つ間、サガミハラさんに飛行魔法を教えたり、代わりに知識を教わったり。教わった知識で一番重要なのは、僕らが遠い所に置いてきぼりされた60年に起きた科学技術の変化。


「その期間に新たに出てきた道具は、ほとんどが武田の手により作られたの。他の勢力には作ることが出来ないものばかり。放棄されたものを拾ってきて私達の科学者が調べてるけど、同じものを作るには必要な素材が作り出せないわ」


 鉄砲伝来した時の日本とポルトガルの技術格差と比べて、さらに大きな格差。魔王と戦うために武田が持ち込んだ武器と輸送手段を目にすることはあるし、南に行けば戦士と物資を運ぶための鉄道が西へ延びていて、民間にも開放されているそうだ。ただし、仕組みは公開されていない。エーテルを消費して機能を発揮するものばかりという事は分かっている。武田方が戦った戦場から持ち主が居ない道具を回収という方法で入手したものはある。連邦に所属する領邦は拾った物を武田に返させられているそうだが、相模原ではそれは強制されない。

 サガミハラさんが彼女の空間から取り出したのは、銃のようなもの。弾丸らしきものが装填されていて、そこに火薬が入っている。弱い火の魔法を使って発射するのだとか。魔法を火縄の代わりにした火縄銃か。あと銀色の布。これは西アイハラで異端審問官も着ていたけど、魔法を弾く効果があるそうだ。それって僕らの知ってるあの金属を繊維状にしたものじゃない?

 拾った道具を見せてもらっている間に、日が暮れる。流れ星も落ちない星だけど、冬の日が短いところは地球と同じ。知ってたけど。


「星は変わらないと言いましたけど、月だけは変わるんですよ。望遠鏡で見てください」

「今日は三日月じゃな。満ち欠けならそのままでも見えるではないか」

「いいえ、その事ではありません。月の暗い部分に光る点が見えませんか?」


 僕も代わって貰い、望遠鏡を覗く。三日月の暗い側に、よく見たら光る点がある。望遠鏡なしでは分からないくらいの僅かな光。まさかそこに文明があり光を放っている?


「その点は、以前ありませんでした。星は永遠ですが、月には変化があるようです。そこに何があるか、見に行けると良いのですが」

「その部分、月が明るく見える時に、何かありましたか?」

「見ても分かりませんでした。でも何かあるのだろうと思います」


 星に興味を持つサガミハラさんだけでなく、僕らも興味を持つだけの物だった。月に行く方法、サガミハラさんと協力してチャレンジしてみようか。

 思いの外遅くなってしまった。宿に戻ったけど、4人は居ない。何かあったら伝言を残す様に、紙とペンが置いてある。その紙は白紙のまま。帰って来ていないだけのようだ。夜には戻るように言ってあったけど、戻れない様な状況にあるのか。まあ、たとえ倒されても死に戻りで僕の部屋行き。そしてここに戻れるはずだから、あまり心配はしてない。

 そろそろみさきちに定期連絡の時間だから、ハコネの扉を抜けて僕の部屋からみさきちの部屋へ。あれ? いない?

 みさきちを探しに行くわけにも行かず、ここで待たせて貰おうかと衝立の裏で待つと、障子の向こうが明るくなり、明かりを持った人が廊下を歩いて来た様子。みさきちのお戻りかな?

 障子が開く音がして、部屋に明かりが持ち込まれて壁に衝立の影が映る。


「サクラ様ですか?」


 みさきちの声じゃない。この声は、サツキさんだっけ?


「姫様にお話を伺っております。言伝を承っておりますので、お伝えします」


 僕がいることがバレているなら、隠れていても仕方がない。サツキさんの前に姿を見せる。サツキさんは以前と変わらず和風メイドという見た目で、手には提灯の形をしている明かり。


「姫様は伊勢様に用事が出来、伊勢様の陣へ向かわれました。明日には戻るから、明日来て欲しいとのことです」


 伊勢さんか。女神のことを知っているかもしれないってので、聞きに行ってくれたんだろうか。人としては極めた戦闘力の持ち主だし、危険はないだろう。多分。

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