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語られない物語~異界の天使たちによる異聞禄~  作者:
共同生活編

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四人目登場

 風真がオーブに指定された場所は、高級ホテルの最上階にある高級料理店だった。


「この店はまだ開店前だと思うんだけど」


 店の前で風真が懐中時計を出して現在時間を確認していると、店内から案内係が出てきて恭しく頭を下げた。


「お待ちしておりました」


 案内係は熟練した年配の男性で、明らかに特別待遇という雰囲気を漂わせている。普通の二十歳ぐらいの青年なら戸惑いそうな場面だが、スーツを着た風真は慣れた様子で頷いた。


「連れは先に来ているのかな?」


「はい。奥の個室でお待ちです」


「案内してくれ」


「どうぞ、こちらへ」


 店内はモダンな雰囲気と明るいインテリアで統一されているが人の気配がない。そもそも正規の開店時間はもっと後のはずだ。


 案内された個室に入ると、先に来ていたオーブが椅子に座って窓の外を眺めていた。風真が部屋に入ってきても、オーブは視線を外に向けたまま素っ気なく言った。


「よっ、お疲れさん。朝から大変だな」


「いや、それはこちらの都合だから気にしないでくれ。それより時間に遅れて、すまない」


 二人が会話を始めたので案内係は何も言わずに一礼をして退室した。

 風真は案内係の足音が聞こえなくなるまで遠ざかったところでオーブに訊ねた。


「こんなところに何の用だい?」


「ここなら二人がいる大通りが見えるし、個室だから周囲を気にする必要もない。ちょうどいい場所だろ?」


 オーブの言う二人とは朱羅と紫依のことである。


 風真はオーブの視線の先を見た。確かに遮るものもなく大通りが見えるが遥か下方のため、人が豆粒のようで個人の識別まではできない。


「遠すぎて見えないが?」


「これぐらい離れてないと朱羅に気づかれるからさ。ま、気づいているかもしれないけど。ほれ、双眼鏡。あの茶色のビルの前を二人が歩いているぞ」


 風真は渡された双眼鏡を使うことなくテーブルの上に置くと、オーブと向かい合うように椅子に座った。


「二人の様子を覗き見するために、僕をここに呼んだのかい?しかもお店を貸し切って」


 少し不機嫌そうな声にオーブはやっと視線を風真に向けた。


「違う、違う。ハニーが風真に聞きたいことがあるって言うから、場所をセッティングしたんだ。お店はちょっと早く開店してもらったけど貸切りじゃないよ」


 オーブは軽く言ったがここは高級ホテルの高級料理店だ。そんなことが簡単にできる場所ではない。だが、オーブはそれを実行できるだけの力とコネクションを持っているのだろう。しかも自身の痕跡を残すようなことはしないはずだ。


 そう考えながら風真は改めてオーブを見た。


 オーブは再び窓の外を見ているため横顔となっているが、それが大きな瞳から伸びている長いまつ毛を強調している。

 世の中の女性全員が羨むだろう雪のような白い肌と小さな顔、淡い金髪にムーンライトブルーの瞳。顔だけ見れば西洋の絵画から抜け出したような極上の美少女である。ただし中身は完全に少年だが。


「早く開店してもらった方法は聞かない方がいいようだね」


「ああ。企業秘密だ」


 オーブが少しだけ風真の方を見て、口元だけでニッと笑顔を作る。そこに案内係の声が響いた。


「お連れ様が来られました」


 案内されて悠然と入ってきたのは風真と同じ年齢ぐらいの女性だった。

 オリエンタルな雰囲気にきめ細かい肌、ショートカットの黒髪に漆黒の瞳。女性にしては背が高く、妖艶な美しさを持っているが、そこは質素なパンツスーツが控えめに抑えている。


「待たせたかしら?」


 艶やかな声に誘われるようにオーブが立ち上がって女性を出迎える。


「いや、ちょうど来たところだよ。久しぶりだね」


 案内係が慇懃に礼をして個室から出て行く。オーブは女性の隣に立つと風真に声をかけた。


「風真、彼女は(ユウ) 蘭雪(ランシュエ)。生まれ変わりの四人目だ」


 その名前に風真は首を傾げた。


「……どこにもハニーという字はないようだが」


「いっ……」


 オーブの小さな悲鳴が上がる。蘭雪はにこやかに笑いながら風真に右手を差し出した。右足のヒールでしっかりオーブの足を踏みつけているが、そんなことは悟らせない。


「柳 蘭雪よ。蘭雪と呼んで。今日はあなたに聞きたいことがあったから来てもらったの」


 風真は差し出された手に軽く握手をすると自己紹介をした。


「風馬・シェアード・龍神です。風真と呼んで下さい。聞きたいこととは?」


「紫依の精神面について。本人には直接聞きにくいというか、意識してないことかもしれないから、兄であるあなたから聞きたいと思って」


 そう言いながら蘭雪が椅子に腰を下ろす。


「紫依の精神面……?」


 神妙な顔になる風真に対してオーブは椅子に座りながら提案をした。


「そんなに緊張しなくていいからさ。あ、そうだ。先に飲み物でも注文しない?ここはコーヒーが美味いんだ」


 オーブの説明に蘭雪が頷く。


「そうなの?じゃあ、ここで一番おすすめのコーヒーをもらおうかしら」


「では、僕も同じのを」


「はい、はい」


 オーブは給士係を呼んでコーヒーを注文した。


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