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3話 内見をしよう!

 一週間後、同じ時間に内見二回目。

「瀬戸さんこんにちは。今日も引き続き担当させていただきますね」

 優しい笑顔の本郷さんが今日も担当してくれた。

 私を見てほんの少し、彼の目元が柔らかくなる。

「今日もよろしくお願いします」

 私も小さく笑って挨拶をした。


「本日の内見予定の物件ですが、駅まで徒歩15分の距離でコンビニが近くにあります。広さもご希望に添ったものとなってまして。前回のお部屋より瀬戸さん、多分、好きだと思います」


 “多分、好きだと思います”って言い方がなんかずるい。

 ちょっとドキっとしちゃったよ。


 内見先の部屋のドアを開けると、広めの玄関に続くキッチンルーム。二口コンロで使いやすそう!

 キッチンの向かい側が綺麗なトイレ、そして脱衣所に独立洗面台付きのお風呂。

 そこを抜けた先に広いリビングルームがあった。大きめの窓から外の光も入り、明るい雰囲気だ。

 

「わぁ!広い!え、ここ最高じゃない?」


 思わずリビングの真ん中でくるりと一回りしてしまう。

「ここにラグ敷いてー、コタツ置くでしょ?あ、あそこに大きな本棚いけるよね!やばい!」

 って完全に素ではしゃいじゃって、振り返ったら本郷さんと目が合った。

 ……一瞬で我に返った。

 

「あ…すみません、ちょっとテンション上がって…」


 彼は笑いを堪えるでもなく、からかうでもなく、ゆっくり首を振る。

「いいと思います」

 そういうと、彼は優しく微笑んだ。

「そういうふうに、ここでの生活を想像できるのって大事なことですよ」


「正直に言うと…今の瀬戸さん、ちょっと可愛いです」

 

 さらっと言われた言葉に心拍数が上がった。

 言った本人は全然動じてない。

 くそぅ…ただの営業トークってわかってるけどさ…


「無理して落ち着かなくていいですよ。ここ、自分の家になるかもしれない場所ですから」


「……そうですよね。よし、もう一部屋も見てみます!」

「はい。是非、ゆっくりご覧になってください」

 気を取り直して寝室になる予定の部屋も覗く。

 ここは広くて大きめのクローゼットもある。すごい、理想的すぎない?これだけ広かったら大きめのベッド置けるよね。


「……あの」

「はい、どうされました?」

「もう、ここに決めたいぐらい素敵なんですけど…早いですかね?」

「ふふっ、ありがとうございます。では瀬戸さんのお名前で仮押さえしておきますね」

 そう言って本郷さんはタブレット操作を片手で済ますと私の方に顔を向けた。

 

「…実は、きっとここにされるんじゃないかな、とは思ってました。瀬戸さんに、このお部屋、よく似合ってますよ」

 

 そう言う本郷さんの視線が優しくて、胸が苦しくなる。

 落ち着いて私の心臓……あれも営業トークなんだから…多分。

 私は小さく深呼吸をして、顔を上げた。  

 

 色々説明してもらって、契約書にサインをするにはもう遅い時間になっていた。

 また後日、正式に契約をしに行く事になった。


――――――――


 三日後、半休を取って部屋の契約に来た。


 書類がきれいに揃って並んでいて、本郷さんはいつもの落ち着いた声で説明してくれる。

「ここにサインお願いします。」

 

 ペンを持つ手が少しだけ緊張してるのは物件のことだけじゃない。

 

 前回、移動中の雑談の中で、彼はまだ独身でフリーだって分かった。


 今日、契約書を書いたらここにはもう用事が無くなる。

 ……ここで終わるのかな?もう会わないのかな?

 聞く?連絡先……いやでも不動産屋さんだし…顧客からなんて迷惑だよね…いやでも…

 

 そうやってもだもだしてる間に、最後の書類が閉じられる。

 

「これで手続きは完了です」

 

 終わりの言葉に胸がきゅっとなる。

 あー……結局聞けなかったな…たった二回、移動中に話しただけだけど、本郷さんとのお話楽しかったなぁ…。

 少し残念な気持ちで立ち上がろうとした瞬間、彼がふと視線を上げる。


「…一つ、個人的なこと聞いてもいいですか?」

 

 え?え??

 

「今日で仕事としては一区切りなんですが」

 

 ほんの少しだけ、声のトーンが柔らかくなる。

 

「もしご迷惑でなければ、今度は物件の話じゃなくて…コーヒーでもどうですか」


 それはさらっと逃げ道も用意してる言い方で。

 

「引っ越し前、新生活の景気付けに」


 目はちゃんと真っ直ぐ私の方を見ていて、からかうような雰囲気じゃなくて。

 軽くもなく、ちゃんと、選んで言ってる。

 私が驚いて固まってると、少しだけ笑って彼が言う。

 

「連絡先、交換してもらえますか?」

 

 その一言で、さっきまでもだもだしていた私の気持ちが全部吹き飛んだ。

瀬戸 要(26) 父、母、10歳下の歳が離れた弟がいる。

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