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2話 不動産屋へ行こう!

 思い立ってから一ヶ月。沢山ある不動産情報から何件か物件の目星をつけて、連絡したのが三日前。

 せっかく引越しするって決めたんだから妥協したくない。

 これを機に家具も家電も一新しちゃおうと、一ヶ月後に支給される冬のボーナスの使い道に心が弾む。

 そんな事を思いながら着いた不動産屋、『四井不動産』よくテレビのCMとかもやってる大手の不動産屋だった。

 ……結局大手を選ぶ辺り、衝動的な行動にしては慎重な方じゃない?とか思ったりして。


「いらっしゃいませ」


 中に入ると受付のお姉さんが席に案内してくれる。飲み物を勧められて、私はカフェオレを頼む。

 大手はなんか従業員も洗練されてる感じで雰囲気が柔らかくてちょっと安心。


 出されたカフェオレを飲みながら、目の前のタブレットでその他の物件情報を眺めていると、向かいの席に人が立つ気配がして顔を上げた。


「お待たせしました、瀬戸様。本日担当致します、本郷と申します」


 少し低めだけど穏やかで優しい声。挨拶をして名刺を差し出したのは、スラッと背が高く、優しい雰囲気で柔らかく笑う、整った顔立ちの男性。

 うわ、かっこいいかも。私より少し年上かな?結構好みでちょっとドキドキしてしまった。

 

 差し出された名刺を見ると『本郷 拓海(ほんごう たくみ)』と書かれていた。


「今日はよろしくお願いします」

 私も立ち上がり、小さく挨拶を交わした。


「メールでお伺いはしていましたが、ご希望の物件の条件として、“風呂、トイレ別”、“駅まで徒歩二十分以内”、“出来れば独立洗面台あり”、“リビングとは別にもう一部屋”、という事でよろしいでしょうか?」

「はい。出来ればリビングもコタツがおけるぐらい広めで、日当たりが良いと嬉しいんですけど、内見希望してた物件はどうなんですか?」

「そうですね…悪くはないとは思いますが、キッチンが結構狭く感じるかもしれないですね」

「あぁ…キッチンもそうか、確かに広い方が嬉しいですねぇ」

「こちらでも何件か、ご希望に添うような物件をご紹介出来るかと思います」

「じゃあお願いしてもいいですか?今回の引越しは出来るだけ妥協したくなくて!」

「はい。構いませんよ。本日の内見はご希望されていた所ともう一部屋、ご紹介出来ると思います。ご案内いたしますのでこちらへどうぞ」


 そうして本郷さんと席を立ち、彼の運転する車で一件目の内見へ向かう。


「こちらです。後で見返せる様に写真とかも撮って構いませんので」

「分かりました。ありがとうございます」

 自分で内見予約した所は思っていた通り、結構広めのリビング、もう一部屋は小さめだけどベッドは置けそうだし、ちゃんとクローゼット付いてるからこっちはプライベートゾーンみたいにしても良さそう。

 ただ、本郷さんが言っていた通りで、キッチンスペースがリビングと一緒になってるからちょっと狭いかも。

 気になる所の写真を何枚か撮っておく。


 次に二件目の物件に移動することになり、その合間に車で世間話をした。彼の雰囲気なのか、普段ならそんな自分の事なんて喋らない私の口がよく回った。

 

「へぇ、じゃあ瀬戸さんは大学出てからはずっと出版業界にお勤めなんですね」

「そうなんです。最近じゃ電子書籍とかも沢山出てるんですけど、やっぱ紙の良さもあると思ってて…」

「あぁ、分かります。お気に入りの小説なんかは僕も書籍で揃えてますよ」

「へー、どんなの読まれるんです?」

「そうですね…色々読みますけど、最近買ったのは『蒼い炎と青い水』っていうファンタジー小説ですね」

「えっ!?私も持ってますよ!“蒼い”シリーズ面白いですよね」


 わぁ!同じ本読んでるなんて嬉しいな、なんて思ってると、二件目の物件に到着。さっきの物件より駅に近い、けど築年数が結構経ってるとの事。

「お部屋は二部屋とも広くて、キッチンもさっきの物件より広めで、ご希望に添っているかと思うんですが、洗面台が独立洗面台…というか、棚等はあるけどお風呂と一緒、というタイプのお部屋でして…」

「あぁ、なるほど…一応見させてください」

「はい。それではこちらです」

 築年数の割に中はとてもキレイなお部屋だった。

 リビングと寝室、理想的な広さでとても心惹かれたが、お風呂の確認をしていた時に本郷さんが話しかけてきた。

「…僕としては実はあまりオススメではないんですよ」

「え、どうしてですか?ここ結構良いかなって思ってたんですけど」

「まず、独立洗面台と謳ってる割に独立してない点」

 あまりの物言いについ吹き出してしまった。

「後は脱衣所がちゃんとしてない点ですね。女性が住まわれる物件で、仕切りの扉が無い時点で僕はアウトだと思ってます」

「あぁー、確かに、カーテンかけるタイプですもんね、ここ」

「そうです。……案内しておいてなんですけど、すみません」

 そう言って彼は申し訳なさそうに頬をかいた。

 すごいちゃんと考えてくれてるんだなぁとちょっと嬉しくなっちゃっても悪くないよね。ま、あっちはお仕事だしそんなもんだろうけどさ。


「あの、他のオススメの物件とかあったら、もう一度内見ってできますか?」

  

「はい。もちろんです。焦らずゆっくり決めてください。いい部屋に住むって言う事はこれからの生活を大事にするって事ですから。何度でもご覧になられたら良いと思います。……次回来店のご予約もされますか?」

 

 うわぁ、ほんとにちゃんとした大人って感じだ。

 押し付けないような、寄り添ってくれるような、彼の言葉に胸が暖かくなった。

「よろしくお願いします」

 私の理想の部屋探しは次回に持ち越しになった。

 

 ……本郷さん、素敵な人だったなぁ。眼福眼福。イケメンに案内されるなんて思ってなかったよ。

 だから、なんか今日は得した気分で帰路についた。

本郷 拓海(28)東京出身、四井不動産営業部、現在実家を出て一人暮らし中。

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