岡本巡査部長
証券会社職員が帰り二人になった。
「上場会社の社長になるとはね。僕らの年での上場会社社長っていないんじゃない?」
「会社の運営より、実際にプログラミングの作業が好きなんだよな。会社の運営が軌道に乗ったらプロの社長を雇おうと思う。」
「いい考えじゃないかな」
「色んなウィルス対策とかがやっぱり好きなんだよな」
「俺、今面白いウイルス対策ソフトを考えていてな。あ、ごめん、涼の相談の方が先だね」
「ありがとう。」
「簡単に言うと、徳田さんの死亡時に証人不明、防犯カメラでは次男しか写っていない。犯行時間あたりに作為的なイタズラ電話がかかった。道路沿いには怪しいトラックがあった。他はある?」モニターがホワイトボードになり、記載する。「他は今のところない。警察が引越し業者とトラックは調べると言っていたが、本腰入れて調べていなさそうなので、調べようかと思っている。」
「よし。引越し業者だな。ここがとっかかりになりそうだ。場所を移そう。」
社長室に向かう二人。途中の秘書室による。
「曽我さん、会議室よろしく」そう言い残し社長室へ
「IT企業だからか、趣味なのか、パソコンのスケールがすごいな」
「一番早いCPUでも足りないくらいスピードが必要な世界だからね。まあ、攻撃の時だけだけど。」
「怖い世界だね。」
「海亀引越しセンターだよね」
「そうそうフリーダイヤルはここのだった」
「まずは、会社の所在を確認して、ホストを探しましょう。」
独り言を言いながらパソコンにコマンドを打ち込んでいく。
「IPが分かったので、この会社のパソコン状況を調べまして、ウイルスソフトはここの会社かと。」
「夢稔、わかりそう?」
「調べるだけならできそうだ」夢稔は握った手に親指だけ立てて涼に合図した。
「さすが早いな」
「よし、あの日の電話番号と連絡メールアドレス、登録の時のIPアドレスは分かったが、電話番号は勇さんの登録。メールアドレスは?」
パソコンを打ち込みアドレスを調べるが、難しい顔になった。
「メールアドレスは登録用に作っただけのようだな。このメール作成の登録ipアドレスが登録時のIPアドレスと同じであれば警察に開示請求してもらわないと」
「夢稔でも難しい?」
「メール業者のセキュリティを破るには大掛かりなハッキングになるのと、警察を完全に敵にまわす事になる。出来なくはないがうちの信用がガタ落ちになる。」
「それじゃあダメだな」
「このIPアドレスを調べれば犯人に一歩近づく。」
「岡本巡査部長に会わないといけないのか。」
「怖いひと?」
「いや、女性なんだけど、苦手かも」
「涼の苦手なタイプって事は気が強いタイプか。まあ警察官だもんな。俺のタイプかも?」
「美人ではあるような気もするが、夢稔の好みが今でもわからん」
「じゃあ一緒に行こう」
社長室を出て秘書室に顔を出し、夢稔は涼の先を歩いて行く。「社長車でいいかな?」
「ぉお、さすがだね。出かける事多いのと、移動中もパソコン使用したいしね。」
エレベーターで地下に向かう。
地下では、少し年配の男性が出迎えていた。
「こちら運転手の山下さん、こちらは親友の藤原涼。山下さん、北沢警察署までお願いします」
「宜しくお願いします」涼と山下はお互いに挨拶をした。
ワゴン型の社用車に入ると、後部座席にノートパソコンが常設されている。
「仕事人間だなあ」
「時間の有効活用だな。でも、根を詰めると酔うので、極力使わないかな。会議を聞くことが多い」
渋谷から梅ヶ丘なので、話しているとすぐに着く距離。「到着しました。私は駐車場で待機しておりますので、よろしくおねがいします」
「すみません、ありがとうございます」涼は言いながら降りる。
涼と夢稔は2階に上がっていく。
部屋に入ると今日は婦人警官がいた。
「御用をお伺いします」
「岡本巡査部長にお会いしたいのです。」夢稔が答えた。
「こんにちは。こちらは?」岡本千尋巡査部長が夢稔の事を聞いてきた。「初めまして、大熊夢稔と申します」名刺を差し出した
「えっ、あのワクワクチンの? 警察のパソコンにも導入されているソフト会社の社長様ですか。」
「いつもありがとうございます。お得意様としても嬉しいかぎりです」
明らかに夢稔を見る目が変わり、少しイラッとした顔をする涼。
「今日お伺いしたのは、勇さんに電話させるように仕組んだ犯人のIPアドレスが分かったので調査して欲しいのですが、お願いできますでしょうか?」
「もちろんです。こちらにIPアドレスを記載してください。それと私の名刺です。」夢稔に名刺を渡そうとしたので涼が受け取った。
岡本巡査部長があっという顔に一瞬なったのを見て思わず薄笑いした涼。それを見て楽しそうな夢稔。
差し出された警察手帳にIPアドレスを記入した。
「よろしくお願いします。」
そうお辞儀すると出て行く涼は夢稔の手を引っ張って行く
「おいおい、涼。めちゃくちゃ可愛いじゃないか。」夢稔の目が興奮マークになっている。
この目になるの見るのは、高校の時以来だろうか。
高校の時にeMacが家に来たときだ。あまりにも夢稔の集中力が凄すぎて養父が同型のパソコンを擁護施設に寄付したぐらいだ。
「夢稔は将来的何になりたいんだい?」
夕飯で養父母と四人でいた時だ。
「プログラマーです。将来コンピュータが欠かせない世界が来るので。」
「アメリカにいた時に基盤材料の輸入に携わって僕もこれからの世界を想像したよ。アメリカがコンピュータ活用の分野では最先端で君たちが使っているeMacなんかも使ったことのない世代への売り込みでデザイン中心に教育用にと作られたものだしね。がんばれ。」商社にいた義父は兄弟のように接してくれた。何度も夢稔に我が家に養子で来るように言っていたが、「今の関係が一番良いんです。ありがとうございます」と涼に気兼ねして断っていた。
当時コンピュータに接した時の夢稔を思い出した涼。
「夢稔、暴走しないでくれよ」
「もう大人だぜ」手でイイねをしたが、不安の残る涼。『まあ、相手が警官なら安心だけど』
「そういえば、警察のウイルス対策にもワクワクのソフトが利用されているの?」
駐車場で山下さんが待っていた。
「ワクワクチンだけどな。外からの直接攻撃を強化したタイプをサーバー対策課に納めたのが最初。ロシアからのDos攻撃をサラッと交わしたのをお偉いさんが喜んだらしい。」
「山下さん、渋谷駅で下ろしてもらっていいでしょうか」
「かしこまりました」
「しかし、あの警官が尋問したらみんな喜んで話すような気がするな」
「全員が夢稔な訳じゃない。僕は苦手なタイプだし。」
「そこから愛が生まれるかもしれないぞ。」戯けて涼をくすぐる夢稔。
渋谷駅に到着。「夢稔、ありがとう。山下さん、ありがとうございました」
涼が駅に向かうのを見ている夢稔と山下
「社長、初めて同乗された方に感謝の言葉を頂いたのは、運転手人生で初めてです」
「あいつは昔から根が優しくて真っ直ぐなやつなんだ。」