岡本千尋との出会い
翌朝、梅ヶ丘駅の北口を降り、薬局を曲がり、区役所通りを進むと大きな北沢警察署が見えてくる。
警察署には幼少期に剣道を習った時以来だ。
防具を天日干ししてしまい、硬くなった防具を見て愕然となった事を思い出す。何度も養母は涼に謝ってくれた。専門のクリーニングで綺麗に帰ってきた時は喜んだ。『新聞紙を入れて陰干ししたっけな』
「すみません、強行犯係はどちらですか?」
入り口に近い男性に聞いた
「2階の一番奥」「ありがとうございます」
朝早いからか人は少ない。
階段を上がり、廊下を進むとドアの上に刑事組織犯罪対策課とある。
「失礼します」剣道の時の挨拶だったからか、涼の声に半分以上の人が反応した。けっこうワサワサしている。
「何か用かな?」手前にいた男性が声をかけてくれた
「佐藤圭二警部に用があって来ました。」
制服を着たその男性はちょっと待ってねと奥に行った。部屋にいる人は制服と私服の人がいるので、涼がいても違和感がないが、すれ違う人は涼の事を気にしている。
しばらくして、先ほどの男性が女性を連れてきた。「佐藤と同じチームの岡本千尋です」
「初めまして。藤原涼と言います。徳田勇の弁護士橋本先生からご連絡いただいてますでしょうか。」
「はい、私が聞いています。こちらへどうぞ。」廊下を出たところに会議室とあり、入っていく。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
「徳田さんとは古からの知り合いで、ご家族と懇意にさせていただき、財団の管理も任されることからも、お聴きしたい事がありまして。」
「どのような事でしょう。」「2点ですが、一点目が敷地隣接に停められていたトラック、二点目が勇さんにかかってきた引越し業者の件です。引越し業者への情報開示は警察からの方が確実かなと思いまして。」「藤原さんは徳田さんから調査依頼とか探偵依頼を受けているか何かですか?」
「いえ、個人的な恩義を返したいんです。家族代表という感じです。」
「殺人調査は警察に全面的にお任せください。」
「もちろん全面的にお願いしたいんですが、被疑者が勇さんのみって聞いていたので、心配になって。」
「心配とは?」
「勇さんは徳田さんを尊敬しており、殺人はありえないからです」
「当日喧嘩をしています。証人もいます」
「喧嘩は毎日のようにしていましたけど、お互いが恨んで喧嘩しているわけじゃない。徳田さんは心配して叱責しているだけで。勇さんは心配されすぎているのが重荷になっていただけです。お互い信頼と愛情がありました。お会いしましたが、今も昔も変わっていません。」
「身近にいると見えなくなるものなんです。」
「他の被疑者を必ず見つけて下さい。お願いします」
「わかってます。偏った捜査は行わないのでご安心ください。」
会議室を出て、軽くお辞儀をして帰ろうとした時、「そうだ。連絡先を教えていただけます? 不明な点等あった時に連絡させていただきます。ご家族より教えていただけそうだし。」
「わかりました。」差し出されたメモ帳に涼の電話番号とSNSID、メールアドレスを渡した。
「こんなに連絡先いただいて、ありがとうございます」
「よろしくお願いします」涼は会釈して階段の方へ向かった。
梅ヶ丘駅チームの近くの喫茶店に入り、コーヒーを頼む涼。平日の昼前なので比較的空いている。
友人に携帯の電子メールを送っている涼
〈夢稔、手伝って欲しいことあるんだけど連絡して欲しい。〉
ピコンという音がしてメールを確認する。
〈どうした?〉
〈直接会って相談したいんだけど、時間ない?〉
〈いつでも大丈夫だよ〉
〈焼肉でも奢るよ〉
〈いいね〉
〈新宿のいつもの焼肉屋でいいかな?〉
〈いいね〉
〈藤原で予約しとく〉
〈ok向かうわ〉
梅ヶ丘駅から小田急1本で新宿へ。
新宿駅から10分ほど歩いた場所のビルでエレベーターに乗る。
「いらっしゃいませ。」エレベーターを降りると店員が迎えてくれた。
「お待ち合わせですか?」
「藤原で2人で予約してあります」
「お待ちしておりました。お待ち合わせのお客さまご案内します。」昼から焼肉を食べる人がけっこういるようで、店内は混雑している。
「こちらです。」案内された席に大熊夢稔が待っていた。
「久しぶり」
「お待たせ。呼び出して悪い。」
「いや。涼ならかまわんよ。」
「ありがとう。食べながら話そう。まずはビールかな? ビール2つとキムチを先に」「かしこまりました。追加ご注文が決まりましたらご注文はそちらのタブレットでお願いします」
「わかりました。」
「最近は機械が増えて需要が多くて忙しすぎるよ」
「嬉しい悲鳴だね」