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藤原涼  作者: m@ho
3/13

遺言の開示


 家に帰り、ネットニュースで徳田さんのニュースをやっていた。強盗で亡くなったという事、犯人は捜査中で容疑者も見つかっていない事を知る涼。未上場だった会社を一部上場までして役員で退任した事は知っていたが、どこの役員だったかは教えてくれなかった。

何故退任した会社名を言わないで話を濁していたのかは、ニュースで会社名を聞いて納得がいく。

 2代目のワンマン社長で有名な会社だ。徳田さんが大きくした会社であろうが、徳田さんと現社長とではぶつかる事は予想がつく。確か株も未だ持っていたはず。

 数日後、安藤保奈美税理士から電話を貰う。

コーヒーを飲みながら休憩していた時に携帯にかかってきた。「悪いわね、藤原君。明日空いてるけどどう?」声を聞くと、自分より年下と思ってしまうほど若々しい声なので、いつもドギマギしてしまう。

 「お久しぶりです。お変わりなさそうで安心します。徳田さん、残念で、びっくりしました。」

 「ええ、気難しい方だったけど、根は優しい方だったしね。税理士何人も変えられたけど女性の私が一番良かったみたい」

 「最近の税制も良く勉強されて、正直なところが気に入ってるっておっしゃってましたよ」「あら。褒められた事なんかなかったのに。ありがとう、教えてくれて」電話越しに泣きだされた。少し落ち着いた感じの声がし、「あ、ごめん、明日はどう?」

 「午後なら大丈夫です」予定表を見ながら回答し電話を切った。

ボードにある支店長の名前の横には【本部NR】ノンリターンの略が書いてあるので、電子メールで報告し、渉外活動に出かける為、鞄を持ち出し、社員通用門へ向かう。

 翌日の午後はNRとして徳田さんの自宅で待ち合わせることになる。

 新橋をお昼に出て、食事をしてから30分ほどかかり、徳田さんの家に着いたのは約束の14時前10分。

 インターホンを押すと、「あ、藤原さーん」カイラさんの声と共に玄関の解錠音がした。

 担当の時は裏門と勝手口から入ったものだが、担当ではないのでお客として正面から初めて入った。

 階段を上がると徳田さん自慢の日本庭園、松については500万円したと自慢していた。

 玄関を入ると「藤原さーん、久しぶりね」ハグしてきた住み込みのお手伝いさんのカイラさんに出迎えられる。

 「さすが銀行員ね。相変わらず時間厳守」応接間に入ると、長男の徳田誠がいた。誠に会ったのは1度だけ。一流商社の役員と聞いていた。

 「この度はご愁傷様です。」玄関で靴を脱ぎ上がる。

 玄関から先導して歩いて行く誠さん。「ありがとう、事件性があって、落ち着くまで葬式ができないので、死体検案が終わってお骨になって戻ってきてはいるんだ」仏間に通される涼。「御焼香させていただきます。」仏壇のある和室には、仏壇横に骨壷が備えてある。

誠側に向いた涼、両手をついて挨拶をし、話かけた。「ニュース見てびっくりしました。」「私もあの朝、カイラから聞いて飛んで来て、愕然としました」

 長男の誠の自宅は隣接する西側の戸建に奥さんと子供2人で住んでいる。呼びに行ったカイラさんと慌てて家に入る姿が想像できた。

「心を落ち着かせてから警察に連絡し、弟と妹に連絡したんですよね。その日の行動の記憶が曖昧で良く覚えていないんですよ」思い出しながら肩を落としている気がする

「突然の事だとそうなりますよね。犯人とかは分かったんですか?」

「勇が疑われて警察で事情聴取を受けているんだけど、弁護士の橋本さんに任せている」

 次男の勇さんは、ギタリストであるが、なかなか人気が出ないまま続けているため、徳田さんは心配していた。兄弟の格差で肩身が狭くないかと。涼が担当の頃は、喧嘩はしていたが、お互い理解はしている。

「なんで勇さんが疑われるんです?」

「最後に親父に会ってたのが勇なんだ」

「防犯カメラとかで無実が分かるでしょう」防犯カメラも早くから導入し、365日24時間録画して安心だと徳田さんは言っていた。

「カメラの録画のコピーは警察に渡しているので、勇が無実なことが分かるでしょう。警察が家族にそれぞれ参考人として任意聴取したいと言われているので、弁護士同伴で対応する様に皆んなに言ってある」涼を応接に案内しながら話す誠。

「ところで私に御用とはなんでしょう」ソファに座りながら確認した。

「会計士の安藤さんとも相談したんだけど、親父の資産全容が分からなくて、お呼びだてしたんです。」誠はカエラさんにお茶を入れるよう手招きしながら話している。

 「分かりました。私の知ってる限りのことはご協力します」

 「遺言は確認されましたか?」

 「今日、この後、信託銀行が遺言を開示に来るので、内容も確認してください。弁護士の橋本も後で来る。」

「色々と始まる前に確認ですが、資産は、不動産、車などの動産、時計、宝石、絵画、金、預金、貯金、外貨預金、保険、投信、株、国債、ビットコイン記憶ではこんなところです。ある程度は遺言状で書かれていると思いますが、それから不明分を検証しましょう。弁護士と会計士の先生方の補足をいただければ完全なものになるかと思います。」

 大きめの鞄を持ったダークスーツの40代後半の男性が玄関から入ってきた。

「橋本先生ありがとうございます。弟はどうでしたか?」涼を気にして話せない様だ。

「ええっと、こちらは日の丸銀行の藤原さん。親父が一番信用していた銀行の方。担当が変わってしまったんだけど、助言が欲しくて同席してもらいました。家族と同じで何話しても大丈夫です。」

『そこまで信用されていたんだ』そう思った涼は弁護士と名刺交換した。

「勇さんが当日口喧嘩していたのはお手伝いさんが証言しているので、疑われているようです。今のところ唯一の容疑者の様で。」説明しながら応接のソファー横に鞄を置く。

「そうか、気弱な所があるから心配だな」

「今の所、状況証拠しかない事と、本人がしっかりと自分が殺人犯ではない事を理解されています。強い尋問を受けると犯罪者ではない人間が自白してしまうケースもあるので、自信を持って真実しか発言しない様に、正しい内容の供述調書しかサインしない様に、誤った事が少しでも有れば拒否するように助言しました。逮捕状は出ているので明日まで取調べがつづくかもしれません。新たな証拠がでない限り検察には送検出来ないとは思うのでご安心ください。状況証拠以外の証拠はありませんので、拘留期限を超えては拘留されないものと思われます」

「一つ聞いてもいいですか?」涼が疑問に思い思わず聞いてしまった

「はい。どうぞ」

 「防犯カメラには勇さんは以外には映っていなかったんですか?」

「そうなんです。駐車場に行く勇さんが最後でした。」

「5台の防犯カメラに勇さんだけしか出た人がいないんですか、家の警備は?」家に高価な物も置いているためセキュリティは通常の家屋用と貴重品用の2社同時に契約していると言っていた。

「在宅警備前だった様で、異常は検知していない様です」

「ここまで万全なのに、ご本人はどうやって襲われたんだろう」

「そうなんです。そこで警察は勇さん以外はいないと思っている様です」

 誰しも勇さんが犯人と思っていない。親子で口喧嘩はする事はあったが、一般的ぼんぼん息子的な暴力息子ではなく、心優しい人である。

 カリブ海への旅行の2日前、最終打ち合わせをしに徳田家へ訪問した時の事だ。

徳田家の応接間でお父さんをお待ちしている時に時間つぶしにと話をしてくれた事を思い出す。

 「そうなんだ。藤原さんは若いときにご両親を亡くしてるんだ。苦労している様に全く見えないね。」「養親に恵まれたんです。義理の叔母夫婦に子供がいなかったので可愛がられました。」

 恥ずかしそうに勇さんはコーヒーカップを見て独り言のように弁解している「俺は恵まれすぎてると分かってはいるんだけどね。この年になると分かってはいるんだけど素直になれないとこもあるんだよな」

少しドラ息子的な面はあるが、悪い人ではない。こんな人がどんなに喧嘩しても父親を殺せるはずがない。

勇さんの無実を確信している涼は、徳田さんの為にも何とかしてあげたいと感じていた。

 

信託銀行の行員が2人やってくる。濃紺のスーツ姿に白シャツ姿の定番の銀行員姿に少し安堵する涼の横を通り過ぎ、応接間に入っていく。

誠さんの妹井上喜久子夫婦もちょうど入ってきて勇さんを除き兄弟全員が揃った。

喜久子夫婦には初めて会う。徳田さんから話を聞いていたので初めてではないような気がするのが不思議。橋本弁護士が声をかけ、早速信託銀行員から遺言の開示がなされた。

概略は以下の通り

 長男住まいの住宅土地建物は長男に。

 次男住まいのマンション土地建物債務付きで次男に。長女住まいの住宅土地建物は長女へ

 本宅(今いるこの建物)は財団法人へ

 ただしカイラ氏の雇用を継続する。

 預貯金、株式、投資信託の財産を1/3ずつ兄弟へ。

 その他の財産は財団法人へ寄付する

税金引かれて一人10億程である

「財団法人って?」長女の旦那である井上秀夫が呟いた

橋本弁護士が紙を取り出し説明する。

「以前に徳田様より財団法人の設立を依頼されております。評議員は5名、理事は評議員の方に決めていただきます。」

「評議員って?」長女が質問した

「株式会社であれば株主と似ています。財団法人は株式会社と違って配当がないことが特徴です。ただし給与は支払らわれます。年間上限2000万円で設定されました。当初は1200万円です」

「5名の評議員って誰ですか?」長女喜久子の旦那である井上が割り込んで質問した

「兄弟3名とカイラさんと藤原涼さんです」

『なるほど、そうきたか。』涼は納得した。

評議員に兄弟の配偶者を入れていない。徳田さんは兄弟のそれぞれ配偶者を信用していなかったんだ。

「藤原涼って誰?」長女喜久子が質問。斜め前に座っていた涼が手を上げ

「私が藤原涼です。初めまして。日の丸銀行で資産運用の担当をさせていただいただき

、勉強させていただきながら資産運用のお手伝いをさせていただきました。」

長女夫婦がポカンとした顔となるが、正気に戻って続けた。

「え? どなたですか? それと、評議員って、名前だけって事?」

弁護士が答える「徳田さんが信用されていた資産アドバイザーです。そして、評議員は実質の財団所有者です。評議員会で評議員を選任しますが、3親等以内の親族は選任出来ません。承継は認めています。実際に運営する理事は評議員会で決めますが、当社団は理事を評議員の親族から選ぶ事を認めていません。」

『選任のプロ集団で運営するのね。』

橋本弁護士は続けた。

「遺言にもありますが、最初の財団法人の理事は弁護士の私、他に2名を募集、幹事を会計士の安藤先生という任命です。利益を分配しない非課税財団法人とします」絵画や車、各種財産を運用するだけで結構な収益となり、そのため評議員と理事の給与は確保される事となる。

「相続税のかからない一番良い方法だと思います。」安藤税理士がプロの目線で補足説明を述べた。

信託銀行から、遺言執行の手続きに入る旨の説明があり、銀行員2人が退室すると、財団関係者のみが残ることになる。

井上秀夫が切り出した

「勇さんが容疑者となっていますが、刑罰を受けたらどうなるんですか?」

「残念ながら相続欠格となることから、他の相続人で分けることになります」

皆が触れない嫌なことを質問する井上に嫌悪感を感じながら涼が口を挟む。

「物的証拠がないので釈放されないんでしょうか?」涼が言うと、井上秀夫が一瞬睨んだように見えた。

「今の段階では全く分かりませんが、万が一有罪判決でも控訴出来ますので。」

「無実を信じていますので、皆さん、勇さんを応援しましょう」涼が落ち込んでいる皆の気持ちを奮い立たせようと思った。

誠さんの顔は安堵感があるが、喜久子夫婦は不満なようである。

「喜久子は勇が親父を殺したと思っているのか?」

「いえ、分からない。そんな人とは思えないけど、証拠がそう言っているとしか思えなくて」

「家族が信じなくちゃ誰が無実を信じるんだ。」誠さんが怒った姿は、勇さんに似ている。

不満そうな喜久子夫婦が帰った後、誠さんが涼に声をかけた。

「少し時間いいかな? 橋本弁護士と安藤税理士も一緒に。」

涼は少し緊張が解れたところであったが「僕は大丈夫です」

 「私も大丈夫です」座り直した安藤税理士

「はい、時間はあります。」橋本弁護士はコーヒーのおかわりをカイラさんからもらっている。

「あ、カイラも一緒に聞いて」コーヒーポットを戻そうとしていたカイラにも声をかけた誠さんは立ち上がり歩きながら始めた


「いつもありがとう。皆さんには感謝しかないです。父の思いが今日あらためて分かりました。兄弟と皆さんで父の財産運営をして欲しいという想いだと思っております。」

全員が頷いている。『その通りだと僕も想う』涼も感じている。

「不動産、車、時計、宝石、絵画、預貯金、外貨、保険、投信、株、国債までは全て記載されていたので分かりますが、金とビットコインだけが分からない。」

「金は、地下倉庫にあるのではないですか?」

地下金庫には海外のセキュリティ会社が造った頑丈で外部から入れない金庫がある。

ガレージからも繋がっており、絵画の運搬に利用されている。財団の所有にさせた理由の一つでもあろう。

「父から引き継いだ後、地下に見に行ったんだけど、金はない。何処か他の場所に保管したようだ。」

 安藤税理士が手を上げた「金口座ってことはない?」

「徳田さんの考えだと現物以外は考えていないと思います。口座管理の会社が倒産するリスクを考えて現物は必然です。」涼が口を挟む

「涼さんは、父なら何処だと思う?」

応接机に置いてあった遺言書を見直した涼

『自宅以外に金を隠せる場所、あれ?不動産が足りない』

涼は力強く確認した。「橋本先生、財団設立の時に、何処か不動産を財団へ寄付しませんでしたか?」

「アメリカ、ニューヨークのペントハウスですね。」『さすがだ』

「なるほど、一番安全で、金と言えばアメリカですからね」涼は頷いた

「どのくらいあるか聞いている?」誠さんが全員に聞いた

「安藤先生、アメリカに送金するときに聞いてたりしませんか?税金とかの事で。」 

「昔、海外の不動産購入時に聞かれたことはありますね。事前にアメリカ財務省に報告した方が疑われないで良いということを説明しました。あ、そういえば、アメリカからの帰国の時に、財務省から財務省証券の現物を購入してきたとも聞きましたね。」

「え、でも、米国債、財務省証券は日本で言う米国債ですけど、現物はないはず。何処で買ったんだろう」

「プロの投資家を財務省に紹介してもらって運用していると聞いています」橋本弁護士は言った。

「親父、騙されていないか?大丈夫かな?相続は財団が引き継ぐ事でいいのかな?」 

「はい、記載されたもの以外は財団です。」橋本弁護士は明確に答えた。

「SBS証券の紹介かもしれませんね」

カリブ海への旅行前にビットコインの取引所を調べる時に調査を依頼したのがSBS証券だった。SBS証券は世界でトップクラスのプライベートバンカーである。

「SBS証券の紹介でアメリカの支社を紹介されたのだと思います。連絡してみます。一度お会いしているので。」

早速携帯で連絡した。

「こんにちは、徳田さんと一緒にお会いした藤原涼です。お仕事中申し訳ありません。」

机の上に携帯を置き、続けた「突然の連絡ですみません。社団法人担当者と一緒なのでスピーカーフォンで失礼します。」

「お久しぶりです。転勤されてしまって残念です。もっと運用について徳田さんに進言できればよかったと、徳田さんも残念がってましたよ。お亡くなりになった事をニュースで見まして、非常に残念です。」

「徳田の息子の誠です。お久しぶりです。」

「この度はご愁傷様です。手続きについては信託銀行が行うのでご安心ください。早速連絡ありましたので。」

「今日電話したのは、アメリカでの資産運用の事です。どこまでご存知ですか?」

「当社のSBSアメリカをご紹介しました。グループ会社ですが、全く別の会社と思っていただきたく、全くわかりません。しかし、担当から電話させる事はできます。」

「ありがとうございます。そうしましたら、長男の誠さんまでご連絡いただけますでしょうか。」

「かしこまりました。誠さまの携帯は変わっておりませんね?」

「はい、以前アカウント作成時の携帯のままです」

「アメリカのジョン・スミスから連絡させます」

「英語ですよね?」「はい、アメリカのバンカーなので」

「それなら、藤原さんに一任しますので、よろしくお願いします。」

英語は受験英語しか知らなかったが、セントクリストファーネービスに行った時に何とか意思疎通ができる事が分かった。ヒアリングは出来るのだが、言葉にするのはなかなか慣れない。

「僕の携帯にかけてもるうようにお願いします。今は朝の4時ぐらいでしょうか」

「はい時差が13時間なので、9時頃にはかかるかと思います」

「では、よろしくお願いします」電話を切り、胸ポケットに電話を戻した。

「あとはビットコインだけだな」誠さんが呟いた

「サイトとIdまでは分かりますが、暗証番号は不明です。また、財団法人でウォレットを作成しないと移動できません。」

「何処で作成するのが良いですか?」橋本弁護士が涼に尋ねた。

「大手3取引所の何処でも差は有りませんので、お任せします。まあ、距離的に近いトップマネーでしょうか。」

「開設はいいとして、引き出す為の暗証番号か。」

 「お父さんの暗証番号帳とかがあると思うんですが。お年の方は特にあるはずかと」

「あるとしたら書斎?」「探しますか?」全員で書斎探検をすることに。

 警察の現場検証の跡に気をつけながら全員で探す。

 「机周りを誠さんに見ていただき、本棚を橋本弁護士と安藤税理士、他を私が見ますね。パソコンの中を見させていただきます。」パソコンを立ち上げた。

「パソコンのパスワードは妻の名前と命日なんだと以前おっしゃってましたが、分かりますか?」

「keiko1010でしょうか?」誠さんが少し考えてから答える

涼がパソコンに入力すると画面が展開された

文字入力画面が消えると、シンプルなトップ画面にファイルとアプリがいくつかある

「流石にトップにはないですね」

個人フォルダを開いてみる

分かりやすく[ID]というファイルがある

開けると色々なIDとパスワードが記録されていた

「有りましたね」みんなが集まった

パスワードをメモし、取引所に接続する

「残高を見ますね」『あれ、120,000ビットコインだ、30,000減っている。』

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