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藤原涼  作者: m@ho
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エピローグ

夕方5時20分 港区にある日の丸銀行新橋支店の駐輪場。

 自転車で外回りから戻ってきた藤原涼。


 自転車の前の籠がひとまわり大きい特徴のある自転車は、籠カバーをしていても銀行員と分かる。


「平和な国ですよね」先輩の伊藤仁に質問した事を思い出していた。

銀行の帰り道には新橋の駅周辺特有の一杯飲み屋が沢山あり、伊藤先輩の行きつけの飲み屋である、「飲みすぎ注意」で飲んだ時の会話である。

「海外だと強盗に遭いますよね。なんで日本は銀行の外回りがあるんだしょうか。海外の銀行は受けるだけだと思います。」ビールを飲む涼がハイボールを飲んでいる伊藤先輩を問い詰めていた。周りのサラリーマンも自分たちの会話で盛り上がっており、すぐ隣で比較的大きな声で喋っている涼達の会話には気にする素振りもない。


 「キャッシュレスの時代が進んでいるので集金は随分と無くなってきたけど、外回りのメインは運用相談が中心かな。メインのお年寄りはなかなか銀行に来ないしね。銀行の外回りは御用聞きじゃない。用がない人に用事を作るのが仕事だ。やっぱり、仕事帰りの酒は良くまわる。」涼を指さしながら伊藤。

「外回りしていて、用のない人に用事を作るって難しいですよね。用のある人に呼んでもらう方が楽です」指した伊藤の人差し指を自分の右人差し指で突く涼。

「リスクの低い、資金のいらない先へ高い金利で貸し出し、運用したことがないお年寄りに運用の楽しみを持ってもらうのが真の銀行マンだ。」

隣の一人がビールを追加する声で二人の会話が一瞬途絶えるが、続ける涼。

「なるほど、確かにお金が必要な人に低利で貸す事は銀行マンからは程遠いのか」納得して左の親指を立て、いいねポーズをする涼。

「究極の例だけどそうなるね。だから、銀行は雨が降っている時に傘を貸さず、晴れている時に傘を貸すって言われるよね」

仕事帰りのビールは格別に美味しいと感じた日でもあった事を思い出す涼。思い出しながら外回りの席に戻る涼。


先ほどの銀行道を語った先輩の伊藤仁がパソコンに向かっていた。


「お帰り、どうだった? 葵商事は?」パソコンから目を外さないで話す伊藤。

「だめっす。経理課長までで、部長まで中々話を通してもらえません。」自席の横にある台に鞄を載せながら話す涼。この台は、地べたに接しないように作られた鞄専用台である。

「あ、そうだ。梅ヶ丘支店の河田って言う女の子から電話あったよ?」パソコンから目を上げて思い出したかのように話す伊藤。「ありがとうございます。」自席でパソコンのログインをしながら答える涼。

「入行店の行員ですが、なんだろ。」梅ヶ丘支店は、世田谷区梅ヶ丘にある入行店で、新入行員であった涼が銀行員のイロハを教えてもらった店である。電話番号はまだ忘れずに覚えているもので、調べずにダイヤルをする事も出来る。

 受話器からコールする音が聞こえた後、聞き覚えのある声が聞こえてきた。「はい、お待たせしました。日の丸銀行梅ヶ丘支店の、」途中で涼が「あ、お久しぶりです。新橋支店藤原です。」遮って挨拶する。

「お久しぶりー元気?」お客さんの絶対的信頼を得ている預金の責任者の渡邊さんである。結婚を機に辞めた後もスタッフでいると風の噂に聞いていた。

 「ありがとうございます。なんとかへばりついてます。河田さんいますか?」

 「はい。かしこまりました。少しお待ちください。藤原さん、頑張ってね」

「ありがとうございます」返事をする涼。受話器からはしばらく背後の雑踏とする音が聞こえた後、ようやく人の声が聞こえた「お待たせしてすみません。河田です。折り返しの電話ありがとうございます。」かしこまった河田の声が聞こえてきた。

 「いえ、大丈夫です。どうかしましたか?」パソコンを操作しながら話す涼。

「前任の藤原君に連絡してほしいってお客さまから連絡を受けたの。」

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