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縁と扉と妖奇譚  作者: 秋月
第十二章 雷の大妖編

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第百八十四話 正直者

神来社からいとさん。南二郎なんじろうさんは?」


「休みながら色々やってる。任せて大丈夫だ」


「そうですか……。あの…総元そうもとの事…」



 眉を下げる咲光さくや総十郎そうじゅうろうも眉を下げた。



「家族皆承知してる。明子あきこもな。泣いてたけど、夢に父さんが出て来たとかって……。今は大丈夫そうだ」



 ぎゅっと咲光が拳をつくったのを総十郎は見た。


 咲光は目を覚ましてから落ち着くと教えてくれた。総元の遺骸がある場所を。そこには確かにあって、ちゃんと埋葬する事が出来た。

 家族皆で送って、胸が苦しくなった。ありがとうと伝えても、伝えきれない。



「おー…神来社」


「ん? 鳴神なるかみ



 菅原の肩を借りてやって来たのは鳴神。その姿を見て照真しょうま達もハッと目を瞠った。


 久方に見るその姿は、以前よりも少しやつれていて、まだ疲れているように見えた。

 そんな姿に総十郎は瞼を震わせながらも、すぐに部屋に手招いた。よいせと部屋に腰を下ろした鳴神は、咲光達を見て嬉しそうに笑みを浮かべる。



「おー、元気そうで何より」


「鳴神さんこそ……大丈夫なんですか?」


「大丈夫大丈夫。ちょっと疲れたけど」


「菅原さんっ…」


「左腕は見た目は大丈夫ですが、神経が潰れてもう動きません。霊力の代わりに寿命削ってかなり無茶したので、当分術使うのは禁止です」


「じゅ…!?」


「小太郎何で言っちゃうのー。そして照真はどうして小太郎に聞き直すの?」


「師匠がちゃんと言わないからです。皆さんは本当の事を知る方が安心出来ますし、後で知るのは嫌ですよ」



 咲光達も目を瞠るが、当の鳴神はぷーっと不満そうに頬を膨らませ、菅原に「何してるんですか」と呆れられている。


 相変わらずな二人に、驚いていた面々も思わず笑う。そして目を細めて鳴神を見つめた。

 鳴神は何も変わらない。悲嘆も後悔もない。



(私達が悲嘆しちゃいけない)



 鳴神は堂々と己の意思を貫き、心に従って事を為したのだ。



「あら。もしかして皆いるの?」


「日野さん……!」



 パッと八彦やひこの表情が明るくなった。

 それを見て咲光の表情も明るくなる。まるで照真が自分を見つけた時のような表情だ。


 日野は総十郎に手招かれて部屋に入ると、八彦の傍に腰を下ろした。日野の動きを目で追っていた八彦は、どこか心配そうな不安そうな目を見せる。

 それに気づいていた日野は、腰を下ろすと安心させるように笑みを浮かべた。



「左眼は潰れてもう見えないわ。そこから頬にかけて傷も残っちゃったし。左腕は上げ下げは出来るけれど、痺れが残って物は握れないわね」


「師匠。こういう事です」


「日野は正直すぎるんですぅー」


「? 何の話?」



 余計にぷーっと頬を膨らませる鳴神に日野は首を傾げ、総十郎はクスクスと笑って鳴神の頬を突いた。プシュっと空気が抜ける様子に笑う総十郎に、照真達も笑った。






♦♦




 その夜。穂華ほのかは縁側に座る照真を見つめた。眠りなさいと怒ろうかとも思ったが、その姿がとても落ち込んでいるように見えて、そっと傍に近づいた。

 それに気づいた照真が頭を上げる。



「あ、穂華ちゃん」


「どうしたの?」


「うーん……ちょっと寝れなくて…」



 ごめんねと、謝る照真に穂華は何も言わず隣に座った。少しだけ驚いた照真は視線を前へと戻す。


 静かな沈黙が場に落ちた。生き物の声が聞こえる夜が照真には少しだけ懐かしく思えてしまった。

 優しい月明かり。もうこの下で戦う事は無い。嬉しいのか安心しているのかも分からない。


 視線を照真に向ける事なく、穂華はぽつりと照真に問いかけた。



「何かあったの? なんだか泣いてるみたい…」


「!」



 少し目を瞠って、力なく肩を落とした。

 その姿は先程までと同じ、どこか悲しそうな頼りない姿で、穂華は瞼を震わせる。


 長いのか短いのか分からない沈黙の後、照真はぽつりと溢す。



「……何度か…一緒に仕事した…仲間が居たんだ。祓人はらいにんで…」


「うん…」


「その…人たちが……亡くなったって…」


「…うん」


「…やっぱり……やだなぁ…」



 その肩が少し震えていた。俯くように下がる視線と頭。小さくなるその姿に穂華の胸が痛む。

 これまでずっと前を向いて気丈に頑張っていた照真の姿を知っている。すごいなと、出会った頃からずっと尊敬していた。



(でも、平気ってわけじゃないよね)



 頑張らないといけないから。大事な家族の為に。仲間の為に。

 ただひたすらに、我武者羅に、走ってきただけ。

 そして今、やっと足を止める事が出来たから、少し辛くなってしまって。


 それでも強く、ぎゅっと強く、照真はそれ以上を溢さないように唇を噛む。そんな姿に穂華は手を伸ばした。



「!」



 ぎゅっと握りしめた手を、穂華の手が優しく包み込んでくれた。



「うん」



 ただそれだけ。それでも照真はぽろりと目から熱が零れるのを感じて、ぎゅっと唇を引き結んだ。






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