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縁と扉と妖奇譚  作者: 秋月
第十二章 雷の大妖編

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第百七十九話 出逢っていなければ

 点滅する光と揺れ動く髪に、総十郎そうじゅうろうは考えるより先に身体が動いた。


 総十郎、照真しょうま八彦やひこ南二郎なんじろうの傍に雷球が発生する。それぞれが目を瞠る中、雷球が弾け飛んだ。



「っ……!?」



 周囲が一瞬、昼間のように明るくなった。

 雷球から縦横無尽に放出された雷撃は屈曲しながら空気を裂く。咲光さくや達も防ぐ姿勢を取った。


 迸る雷撃が収まるより先に、大妖は次の一手を打つ。

 ドッと火をまとう雷が幾筋も天から落ちて来た。周囲では悲鳴が上がり、逃げ場がない。



(っ……! なんっつー力っ…! )



 障壁を築いても、弱った霊力では防ぎきれない。鳴神なるかみは奥歯を噛んだ。



(落ち着け。総元そうもとのおかげで神の威は少しずつ戻りつつある。空気は浄化されつつある。もう少し…!)



 繋いでくれた光がなければここまで戦えていない。最初は細い糸だったかもしれない。だが今は、確かで太い糸になっている。

 疲労の溜まる体を何とか動かして、すれすれで雷を避ける。


 そんな一同を見て大妖が怒りの形相を浮かべたまま、腕を縦と横に払った。

 その瞬間、凄まじい威力を持つ大雷と、鋭い爪が裂くような横走りの雷が三本空気を裂いた。



「っ……!」


「っ…ぁ…!」



 地が抉れ、壁が壊れ、木が燃える。

 雷は容赦なく一同を攻撃し、治まった時には木が燃える音と大妖の荒い呼吸だけが場に残っていた。


 肩で息をしながら、大妖は地に倒れる一同を見やる。

 退治人は近づけなくすればいいし、祓衆は警戒しなければならないような実力者など少ない。



「初めから……解っていた事よ…」



 ふぅと大きく息を吐く。


 暗い空の下に燃える火はよく映える。パチパチと燃える音とその火を一瞥し、大妖は空を見上げた。

 変わらず、暗い雲に覆われている。しかし、そこにある妖力の濃さを感じた大妖は顔を顰めた。



(やはり薄まっている…神来社からいとの術者め。妖力もかなり消費してしまった。奪われた分が痛い…)



 妖力が弱まれば、今度は神の力が息を吹き返してくる。そうなれば今度追い詰められるのはこちらの方。

 総元の長い浄化の術により、着実に場に神の威が戻りつつある。



「だが……」



 地に伏せる面々を見て、大妖は笑みを浮かべる。

 神の威は決してここには戻らない。神が目を掛けた者どもをここで葬るのだから。



「お前達の死をもって、再びこの地は黒く染まる。よくやった」



 周囲を囲む結界も、時と妖力ですぐに消える。

 口端を上げた大妖が、その手を無情に振り下ろした。






♢♢




 目が覚めたようにパチリと視界が開けた。一瞬あれ? って思ったけど、自分の手に鍬を持っているのを見てすぐに思い出した。

 そうだ。俺は今畑を耕してたんだ。もうすぐ苗を植えるから。


 なんだか少し難しい事を考えてた気がして、うーんっと伸びをする。そうしたら隣から声が聞こえた。



「照真…?」


「あ、姉さん。あれ? 今日は一緒だったっけ?」


「う…ん…? 多分一緒」



 俺を見た姉さんまで、なんだか不思議そうに首を傾げる。俺達は二人で首を傾げた。

 そんなに周りも見えないくらい集中してたかな…?


 少し不思議に思いながら周りを見る。

 長閑な自然が広がる見慣れた風景。静かな時間。見慣れた我が家と見慣れた桃の木。

 うん。いつもの風景だ。



「なんだか、すごく集中してたのかな? 時間を忘れてた気がする…」


「あ、それ俺も思った」


「本当? じゃあ同じだね」



 そう言って姉さんはクスクスと笑う。

 俺の好きな音。明るくて優しくて、時々厳しくて柔らかい音。

 姉さんが傍に居てくれる事が、なんだかすごくホッとした。でも何だろう…。なんだか足りないような…忘れてるような…。



「二人とも、お昼にしないか?」


「さっき八彦君がね、山で山菜採ってきてくれたの」


「二人も好きだから…沢山採ってきた…」



 いつの間にそこに居たのか、畑の傍に皆がいた。神来社さん、穂華ほのかちゃん、八彦君。

 神来社さんは両の手におにぎりの載ったお皿を盆に載せて持っていて、八彦君と穂華ちゃんは水筒を持って来てくれてる。


 休憩の準備万端で、俺は色々考えていた事が吹っ飛んだ。



「休憩ー!」



 姉さんと一緒に皆の傍へ走る。そうすると神来社さんも笑ってくれる。


 畑の端で皆でお昼を食べる。空は青くて、鳥が飛んでいるのが見えた。



「うーんっ…! 塩加減がちょうどいい」


「本当? 良かったぁ。いっぱい食べてね」


「頂きます! あ、穂華ちゃんは今年植えたい野菜何かある?」


「うーん…迷う」


「昨年は芋が豊作だったな」


「うん。焼き芋……美味しかった」


「今年も植えようね」



 八彦君も思い出して嬉しそうな顔をしてくれる。それを見て俺も姉さんも嬉しくなる。


 ………あれ? 皆と芋の収穫とか焼き芋とか、した事あったっけ?

 思い出そうと頑張ってると、今度は町の方に伸びてる道から声が飛んできた。



「照真兄ちゃん! 咲光姉ちゃん!」


「皆さん、お久しぶりです」


「清江さん! 皆!」



 以前お世話になった清江さん達家族が来てくれた。元気いっぱいに駆けて来る雄一と晴正。好子ちゃんも姉さんに向かって走ってぎゅっと抱き着いた。

 微笑ましい光景に俺も笑顔になれる。



「元気にしてた?」


「うん!」



 眩しい笑顔が今も変わらなくて安心する。



「総兄。皆さん!」


「おーい!」



 またすぐに次のお客さんがやって来た。それも大勢。南二郎さん達家族、鳴神さんとご家族、日野さんや雨宮あまみやさん達。


 大勢の人がやって来て、家はすぐに賑やかになった。

 家の庭で皆で食事にしようって事になって、俺達は皆と一緒にすぐに準備を始めた。






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