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縁と扉と妖奇譚  作者: 秋月
第十二章 雷の大妖編

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第百七十八話 最初の光は小さい

 そして咲光さくやは前を見据えると、フッと口端を上げた。



「後を頼む」



 誰にでもなく告げ、咲光は瞼を閉じた。次に瞼を開いた時、一層の強さと光を宿したまっすぐな目が大妖を睨んだ。

 一変した空気に照真しょうまはすぐに悟る。



「姉さん」


「照真。行こう。総元そうもとが繋いでくれた光、決して無駄にしない!」


「うんっ!」



 決意を胸に、一同が一斉に地を蹴った。






♦♦




 時を遡る。

 石の牢に閉じ込められていた咲光は、総元と作戦会議をしていた。

 これからどう動くべきか。総元はすぐに考えられる事態を教えてくれた。



「選択は決まったね?」


「はい。どうせされることは見えていますし、頼みはきっぱり断ります」


「うん。それなら奴は恐らく君をここから出して、皆の前で手にかけようとするだろう」



 あまり考えたくはないが、それが考えられる事態だ。

 咲光も少し身体が強張るのを感じた。だが、そんな咲光を見て総元は安心させるように提案した。



「大丈夫。私が共に行く。私は霊だから。咲光、君に憑いても良いかな?」


「はい」



 迷いのない答えに総元はクスリと笑ってしまった。笑われた咲光は不思議そうに首を傾げる。


 霊に憑いても良いかと問われて、それほどに迷いないのがなんだか不思議とおかしく思えてしまった。

 しかし、すぐに真剣な眼差しを見せる。



「けれど、一つの肉体に二つの魂は長く共存できない。術者として君への負担は軽くする」


「分かりました」



 波長を合わせて霊を視る事、そして体に憑かせる事。それらは術を用いれば出来る。


 かつてそれをして疲れ切っていた鳴神なるかみを思い出し、咲光は少しだけ緊張した面持ちを見せた。

 それでも、なさねばならない。咲光はキュッと拳をつくった。



「今の私は、霊体だけど術が使える。力を変換させる要領でね」


「変換……?」


「君に憑いてからは、君の中でしばらく留まって浄化の術をずっと唱えておく。そうして気づかれないようゆっくりじっくり場を清めていこう。君にもしもの事があった時はすぐに私が入れ替わり、君に仮死状態を演じてもらう」


「はい」


「そうなれば、もう大妖の気づかぬうちに、ずっと浄化の術を唱えて神の威を少しでも取り戻す」



 頼もしい頷きに咲光も頷いた。


 気になる事はあるが、きっと聞かない方が良いのだと何となく分かった。本当に必要なら総元は必ず自分にも告げてくれるから。

 大妖を倒すための道筋が見えながらも、咲光は一抹の不安が消えない。だから思い切って、それを総元に打ち明けることにした。



「総元…」


「どうしたんだい?」


「私は……戦えないかもしれません…」



 咲光が吐露した言葉に、総元はじっと耳を傾けた。

 その眼差しに、咲光はそっと自分の右足に触れた。大妖に雷撃で貫かれた傷は大きくはないが、さらしできつく巻いて何とか止血している程度。



「雷撃を受けてから……足首から下に…感覚が無くて……動かなくて…」


「それなら、私の力で神経を繋ぎ、動くよう神に願おう。それならこの戦いの内、きっと神は御力を貸して下さる」


「!」



 バッと咲光は顔を上げ総元を視た。

 安心させるような優しい目。嬉しいような安堵するような気持ちが表情にも出る。



「ありがとうございます。それならもう、何の不安もありません」



 意志と覚悟を乗せた声に、総元も強く頷いた。






♦♦




 咲光と照真が駆ける。総十郎そうじゅうろうと日野が鋭さを刃に乗せ、八彦やひこが小さな隙も逃さない。合間には南二郎なんじろう雨宮あまみや、鳴神と菅原の術が飛び交い、周囲の空気が荒れ狂う。


 向かって来る人間達。臆さない。諦めない姿。光の消えない目。

 まっすぐ睨んでくる。いまだ刀を手放さず。信じ合って…



「…鬱陶しい……鬱陶しいその目が!」



 ビキリと怒りの青筋が大妖に浮かぶ。


 復活して気分が良かった。少し力が封じられたのは気分が悪かったが気分の良さがまだ優っていた。行動範囲が狭められ、そこでだんだんと機嫌も落ちた。

 虚木うつぎが持ってきた小娘は少し面白かった。だが今はそんな気が微塵も湧かない。

 小細工を重ねる神来社からいと。戦いを諦めない万所よろずどころの者共。まっすぐ自分を睨んでくる姉弟。

 大妖の怒りに呼応するように空を鋭い光が走り、雷が空から空気を裂いて落ちた。


 バンッと咲光達はそれを散らして避けた。

 咲光の視線が動き、バキィッと雷撃と神威がぶつかり合う。凄まじい衝撃の中で祓衆から術が飛ぶ。

 祓人はらいにん一人では強力な雷撃は弾けなくても、二人三人と力を合わせ対処すれば逸らす事は可能だ。退治人はただひたすら刀を振るうのみ。


 苛立ちを隠さない大妖は次々と雷を落とす。それはどれもこれまでよりも威力が強く、散らすのも一苦労。祓衆も一切気を緩めることが出来ない。


 咲光と照真も刃を合わせて二人で挑む。今はもう、皮膚を裂く痛みも感じない。ただひたすら前へ前へと進むのみ。

 大妖が距離を詰めた総十郎から離れれば、そこへ日野と八彦が襲い掛かる。重ねた刃が妖力を打ち破ろうと鋭く突く。

 苛立った大妖が舌打ちし、妖力が爆発した。



「……っ!」



 着地の痛みと疲労に、さすがの日野もよろめく。が、すぐに総十郎達と共に斬り込んだ。


 絶え間ない攻撃。術と刃の合わせ技。しぶとい面々。所在の分からない隠された妖力。



(あぁ忌々しい…。腹が立つ。腹が立って仕方がないっ…!)



 その身からバチバチと火花が放出され、大妖がギッと一同を睨んだ。






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