表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
縁と扉と妖奇譚  作者: 秋月
第十二章 雷の大妖編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

172/186

第百七十二話 神に代わる

 日野ひの雨宮あまみやは身体が少し回復したと感じるや否や、すぐに神社内へ向かった。

 玉砂利の境内を走るのも、転ばないよう必死だ。そうして走っているとバッと鳴神なるかみ南二郎なんじろうに出くわした。



「ご無事ですね」


「何とか。そっちも」



 互いに無事を確認した。それにホッとしながらも、まだ何も終わっていないと理解している。


 鳴神達も雨宮達も、率いる衆員はごく僅か。そこから戦いの凄惨さを感じ取り、両者は決意を胸に走り出した。

 神社の奥では、その空の上で雷雲が鳴り響いている。



「雷か…」


「雨がない分、奴の妖力が不完全である証拠です」


「それでもやっぱり凄まじいわね……」



 南二郎の言葉で、改めて大妖の強大さを思い知る。


 総元そうもとが最期の力を振り絞って妖力を封じてくれた事は、南二郎から報告を受けた。南二郎は物がどこにあるのかを「知らない」と言いつつも悟っているようだった。「言わない」と“とう”達にも口にはしなかった。

 自分達に出来る事は総元が繋いでくれた光を消させない事。



「ありゃ本殿の方か?」


「はい。ご案内します」



 “頭”にとって年に一度は必ずやって来る場所。慣れた参道なのにいつも感じる神威は感じられない。

 知っている場所が様変わりして、痛みと哀しみが胸を掠める。


 妖気が濃い方へ向かって鳴神達は走った。参道を走り、一般客は入れない場所を通り、本殿へ足を踏み入れた。



「!」



 戦いの中心地。決して容易な戦いであるなんて思ってもいない。解ってる。

 ただ少し違和感も感じていた。近づいても静かだったから。



「……ん? あぁ…増援か。虚木うつぎ禍餓鬼かがきを倒した者たちか」



 只一人、立っているあやかしの姿。一目見て全身の血の気が引く。呼吸が乱れないよう必死に抑える。


 心臓が煩い。胸の内に生じた恐怖や本能的な警戒を、鳴神はすぐに捨てた。そうしなければ戦えない相手だと直感した。グッと拳をつくる。


 荒ぶる感情を抑えなければ。



「総兄っ…!」



 そうしなければ、血を流し動かない照真しょうま総十郎そうじゅうろう八彦やひこ、同じように倒れて動かない咲光さくやを前に、感情任せになってしまいそうだった。






♦♦




 時を少し遡り、虚木と禍餓鬼を相手に戦いが始まった頃、照真、総十郎、八彦の三人は境内を走っていた。


 少数精鋭で狙うは咲光の奪還。どこにいるのか分からない人物を、どこにいるか分からない大妖を気にしながら探す。

 見つけるより先に見つかる方が早いだろうと、総十郎は推測していた。



「姉さん、どこに……」


「照真」



 八彦がぎゅっと照真の腕を握る。落ち着かせようとしてくれる声に、照真は焦りを胸にしながらもゆっくり頷いた。

 心配ばかりが先行しても、何も良い事はない。駄目だ落ち着けと己を律する。


 その傍で総十郎も思案していた。



(虚木が咲光を連れ去ったのは、恐らく俺達三人を潰す為だ。それならどこに居させるのが良い……?)



 確実に、自分達を潰そうと思うなら……。

 行きつく考えの終着点はどう考えても同じ。総十郎の頬につらりと汗が流れた。



神来社からいとさん……大丈夫?」


「あぁ」



 心配してくれる八彦に、総十郎はふぅっと大きく息を吐いた。

 八彦だって心配だろうに、今は側にいる自分達を心配してくれている。年長の上官が情けない、と少し自嘲的な気持ちが出てきてしまう。



「咲光は恐らく、大妖の傍だ」


「!」



 言葉は衝撃となって胸をつくけれど、どこか予想が出来ていた。

 助けに行けば戦闘になる。それも、かつてない相手との。

 つらりと頬に汗が流れ、緊張に心臓が早鐘を打っても、心はもう決まっている。


 だから照真は、まっすぐ総十郎を見上げた。



「行きます」


「あぁ」



 決意を胸にする一同の耳に、バキィッと雷が落ちる音がした。

 ハッと見ればそれは神社の奥。本殿のある方向から。



「誘ってるつもりか…」


「神来社さん」


「あぁ。さて、誘いに乗るか」



 ダンッと三人は駆け出す。本殿へ向けて走り抜けると、辿り着いたそこにその姿があった。

 長くうねる黒髪を靡かせ、美しく恐ろしい艶やかな笑みを浮かべている。見た目にそぐわずその内に秘めた妖力は強く禍々しい。



「姉さん!」



 その手が、咲光の首にかかっていた。苦し気な咲光の視線が三人を見て光を宿す。


 やって来た三人に、大妖は楽しそうに笑った。



「姉…? あぁそうか。お前が禍餓鬼が言っていた弟か…。そして、お前が神来社か」



 その視線が照真から、総十郎に向けられる。一瞬視えた怒りの色に総十郎は睨み返す。そして、即座に姿が照真達の隣から消えた。



「!?」



 あまりの速度に目を瞠る照真達の前で、刃を抜いた総十郎が大妖に斬りかかる。

 が……



「っ……!」



 圧迫されるような衝撃を感じたと思うと、身体が吹っ飛ばされた。地面と体がぶつかる前に何とか体勢を立て直す。

 一瞬の出来事に、照真も八彦も動きが遅れた。総十郎はフッと冷静に大妖を睨む。



(妖力……いや、圧迫感と覇気に押されたか…)



 体が痛い程訴える。逃げろと。本能が鳴り響いている。

 自分の本能に「馬鹿言えよ」と吐き捨て、生存を諦めるつもりは毛頭なくも、総十郎は本能を切り捨てた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ