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縁と扉と妖奇譚  作者: 秋月
第十二章 雷の大妖編

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第百七十一話 集う

「我が主に刃向かう者に容赦はしない」



 バチバチと禍餓鬼かがきの手に火花が散る。それを認めた日野ひのと禍餓鬼が同時に地を蹴った。

 日野の速く鋭い一閃を躱した禍餓鬼は、その手でそのまま刀身を掴む。



「っ……!」



 刀から腕、身体へと痺れが走る。日野が顔を顰める中、禍餓鬼のもう片方の手が伸びて来る。



「っ…のっ……!」



 刀の持ち方を変え、日野は身体を大きく反らすとそのまま全身を使って大きく蹴り上げた。

 が、痺れた体は着地まで上手く動いてくれない。ドサリと地面に倒れた時でも、日野はやられるとは思わなかった。



「吹き降ろせ一陣の旋風!」



 禍餓鬼へ目掛け、竜巻のような細長い風が落ちる。それとは逆に、日野は穏やかな風に包まれた。

 その風に乗せられ、後方へ下げられる。労わるようにゆっくりと風が収まり、日野は着地した。



「ありがとう雨宮あまみやさん」


「いえ」



 舌まで痺れていないのは幸いだった。手足はまだ少し痺れているが、動かせぬ事は無い。数度動いていればすぐに元通りに動けるようになるだろう。

 手を開いて閉じるを数度繰り返す。そして立ち上がって数回地面を踏む。


 そして日野は、次には痺れを忘れた。



(禍餓鬼の妖力は確実に削れてるし、手応え的にも後少し……)



 だからここで戦闘離脱など出来ない。絶好の機を逃がす事になる。

 必ず、ここで倒す。


 体力だってすでに底を尽きそうだ。長くは持たない。けれど日野は限界を越えても噛みつく覚悟がある。


 上下させる肩を落ち着かせるために一度ゆっくり呼吸する。

 まだやれる。まだ動ける。


 ふぅっと息を吐き、日野はガッと地を蹴ると速く鋭い刃を放ち、禍餓鬼と火花を散らして打ち合う。



「っ……!」



 禍餓鬼の妖力がだんだんと削られているのが顕となり、日野の刃が掠めれば鮮血が舞う。それを見た禍餓鬼が隠す事無く顔を歪めた。


 日野は攻め続ける。雷撃が全身を裂き、動きが鈍っても、鞭打って刀を振り続ける。

 右から左から、正面から、鋭く刀を振り続ける。激しい応酬を、雨宮は機を窺うよう見つめていた。



『雨宮さん。私が出来る限り妖力を削ぐわ。でも多分、止めを刺すのは私じゃ力不足だと思うの。だから、最後はお願い』



 戦う前から、日野はそう言っていた。禍餓鬼も虚木うつぎもその妖力を削ぐだけでもとてつもない気力と体力を使う。この弱い神威の中、戦い続けなければいけない。

 近接戦になる自分に余力は残らないだろうと、日野は冷静に自分の実力を客観視していた。


 そんな日野の様子をじっと見て、雨宮はその言葉を聞いていた。



(日野さん。貴女は“とう”として、その立場に見合う実力を確かにお持ちなのですよ)



 一番新参だからと自分を過小評価するところがあるけれど、決めたら進む、自分で選ぶ意思の強さは誰よりも強く、そして揺るがない。

 それを他の“頭”は知っていて、一目を置いているのだから。


 ぶつかり合う両者は共に全身に傷を作る。それでも両者の気迫に一切の衰えはない。

 一際強い神威と雷撃がぶつかり合うと、互いに衝撃で弾かれる。



「っ……はあぁぁっ!」



 先に動いたのは日野だった。痛む体に鞭を打ち、足を広げて踏ん張ると、刀を突き出す。



「…っ……っ!」



 その刃が禍餓鬼を貫く。

 それでももう、そこから刀を横に払う力もなかった。悔しくて奥歯を噛む。そして次へ託した。



「雨宮さんっ!」



 逃がさない。無駄にしない。仲間がつくったこの絶好の機を。

 全身全霊を込め雨宮は唱える。



「神の威が縫い止めし悪鬼を退ける為、どうかお力を――。天より高く悪鬼暗雲打ち払いたまえ」



 願え。この地の、この国の神々に。幾柱も存在する神々の力を集わせ、敵を退治する事を。



「集いたまえ、この威の元へ! 雷の裁きを!」



 神々の力が結集する。その力は裁きの雷となり、日野が禍餓鬼に突き刺した刀へと打ち込まれた。

 一体のあやかしに幾柱もの神の力は阻めるものではない。凄まじい威力と光に、日野も視界を遮り耳を塞いだ。でなければ目も耳も潰れてしまいそうだった。


 禍餓鬼ごと貫き焼き切った雷は、土煙を残して治まった。土煙の中にはすでにもやとなり消えゆく禍餓鬼と、地に落ちた日野の刀。


 霊力をごっそり削られた雨宮がふらりと地面に片膝をついた。その目は日野と共に禍餓鬼が消えゆくさまを見つめる。



「……主…」



 最後の言葉は、ただそれだけだった。


 妖力が消えた途端、日野の全身に疲労がのしかかってきた。地面に手をついて息を吐く。



「日野さん。大丈夫ですか?」


「えぇ……何とか…」



 ふらりとふらつきながらも雨宮が傍へやって来たのを、日野もなんとか視線を向けて確認した。



「ひとまず手当てを。頬の傷が深いです」


「頬……? あ、いたっ」



 傷なんてあったのかと思って思わず触れると、確かに痛かった。

 手には血がつく。傷が出来すぎて感じてもいなかった。小さな傷は出血も止まっている。


 頬の傷に雨宮が手巾を当ててくれた。



「周りは…?」


「空気が軽くなりました。残るは中心地です」



 雨宮が神社の中の方へ視線を向ける。総元そうもとが張った結界を境に妖気の濃さは変わっている。加えて禍餓鬼を倒した事でも空気は少し良くなった。

 残るのは本命のみ。完全に払拭するためには後少し。


 神社を囲む結界を見つめ、雨宮はグッと拳をつくった。



(総元。そして昔から封じを守り続けてくださった歴代の総元方。必ず私達で決着をつけます)



 必ず倒す。これまでの全て、無駄にはしない。






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