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縁と扉と妖奇譚  作者: 秋月
第十二章 雷の大妖編

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第百六十九話 二つの力

♦♦




 ガッと妖力と神威がぶつかり合い、衝撃が生まれる。それを流し、禍餓鬼かがきは追撃を後退した。

 そこへ、祓衆はらいしゅうの術が襲い掛かる。ちらりと一瞥したところへ、雨宮あまみやが気迫を交えて術を放った。


 ドンッと土煙が立ち込めると、それはすぐにぶわりと内側から払われた。その中から真っ黒な人型のあやかしが向かって来る。

 それに対し退治衆が走る。餓鬼がきを斬り、祓衆もすぐに術で応戦した。



(これが餓鬼…。神来社からいとさんは作る妖力の量で強さが変わるって言っていた。それにこの数は厄介ね)



 日野もまた眼前の餓鬼を斬り捨てた。祓衆が広範囲攻撃で餓鬼を倒してくれるので、退治衆も余裕をもって挑む事ができる。


 万所よろずどころが上手く連携するので、禍餓鬼はうむ…と僅か思案した。



(致し方ない。殲滅を優先する)



 禍餓鬼の妖力に空気がドッと震え、一気に日野達の緊張が増す。

 禍餓鬼の足元で黒い影が波打ち、再び餓鬼がゆらりと生み出された。



「!」



 それを見た日野と雨宮が目を瞠る。

 出現した餓鬼。姿形は何も変わらない。だが…



(妖力が違う…!)



 先程までのものよりも、ずっと強い妖力を宿しているのが感じられる。

 禍餓鬼はわざわざ強力な餓鬼を作り、万所の威勢を削ごうとしている。それを感じながら日野は刀を握ると地を蹴った。


 厄介な相手となった餓鬼と刃を交える。衆員達も餓鬼と刃を交える。


 餓鬼を一刀に斬り伏せ、日野は禍餓鬼へと駆けた。禍餓鬼を討てば、餓鬼は全て消え去るのだから、最短距離を狙う。

 一気に詰めて来た距離に、禍餓鬼は動じた様子もなく、手の平にバチリと稲妻を光らせた。

 雷撃と神威がドッとぶつかり合う。火花を散らし、幾度も打ち合う。


 近距離で弾ける火花が肌を掠める。それでもさらに一歩を踏み出して、日野は猛攻を続ける。

 その刃を躱し、禍餓鬼はちらりと祓衆と餓鬼を一瞥した。餓鬼と祓衆の戦いから日野へ、感情の読めない視線を戻した直後…



「っ……!」



 餓鬼が一斉に一帯広範囲に雷撃を放ちながら弾け飛んだ。

 近距離に居た退治衆や離れていた祓衆さえ巻き込んで、それを喰らった衆員達が倒れる。ぐたりと倒れ、皮膚が裂け、火傷のような傷を作る。

 捨て身の強力な雷撃を浴びた体は、時に心の臓を止める。


 何の前触れもなく放たれた攻撃に、日野も雨宮も半瞬反応が遅れたが、神威と術で直撃は避けた。


 意識があり、動けそうな者にすぐさま日野が叫んだ。



「救護を!」


「っ、はい!」



 日野の指示で動ける者が動き出す。日野は叫ぶと同時に禍餓鬼に攻撃を繰り出し、救護の邪魔をさせないために猛攻を仕掛け、その場から少し離させた。

 禍餓鬼は何の反撃もせず、押されるままに後退した。その態度に日野は奥歯を噛む。



「!」



 そこで初めて、禍餓鬼の表情が変わり、ダンッと地を蹴って後退した。

 禍餓鬼がいた場所には霊力の塊が襲い掛かる。



「雨宮さん!」


「日野さん。先行しすぎないでください」



 髪を風に遊ばせ、雨宮は静かに忠告した。その言葉に「ごめんなさい」と日野も謝罪し、禍餓鬼を睨む。

 雨宮は日野の隣に立ち並ぶと、語調を変えず告げた。



「救護が済み次第、こちらに動ける者が来ます」


「分かったわ」



 目の前に立つ“とう”に禍餓鬼は僅かに眉を歪めた。


 空気が張りつめる。けれど、それに押しつぶされるような事は決してない。自分の呼吸を乱してはいけない。


 日野は呼吸を整えすぐに地を蹴った。

 日野の刃は妖力が濃いこの中で淡い光を持つ。それでもそれは、普段に比べれば心もとない程弱々しい。

 歯ぎしりをしながらも、日野は禍餓鬼へ攻撃を続けた。ガキィッと刃と神威がぶつかり合う。



「チッ」



 面倒そうに舌打ちした禍餓鬼が手を払う。雷撃が走り、それは日野をめがけて伸びた。



「っ……」



 すれすれで避けても皮膚を裂く。頬が鋭く裂かれ血が噴き出した。

 それでも、日野は足を止めない。



「光を纏い射ち止めよ!」



 続けて攻撃しようとした禍餓鬼が後退する。それまで居た場所に無数の矢が突き刺さった。


 日野は刀を握ったままふぅっと息を吐いた。



(妖力をまとって斬らせないのは虚木うつぎと同じ。だけど、虚木のように感情任せにはならない…)



 常に淡々とした表情は時折苛立ちを見せるが、だからといって感情的な攻撃はしてこない。

 そして、虚木では見ない雷撃を放つ力。



(餓鬼を使って広範囲に広げたけど、あれは禍餓鬼単体でも出来る事なのかしら……。掌以上に広がるのは神来社さんも視た事ないらしいけど…)



 禍餓鬼と過去に戦った事があるのは総十郎そうじゅうろうのみ。情報は全て事前に教えてもらっている。

 鋭い一閃となり貫いてくる事、身体に痺れを与えて来る事。

 しかし、総十郎が知らない事もあるだろう。なので決して油断せず一手を見ながら戦わなければ。


 日野と同じように禍餓鬼を睨んでいた雨宮は、そっと手を握りしめた。



(やはり、神の御力が弱まっている…)



 大蛇おろちを倒す時、総十郎に祈りを込めてもらい髪で結んだ数珠。元は大蛇を倒す為だったが、それは今も持っている。

 大蛇退治の時、その力は遺憾なく発揮され力強かった。が、今、その数珠を通して得る力も、神来社家の祈りに応える力も弱い。


 神来社が祀り、大蛇を倒す為に力を貸してくれた神が坐すのがこの地。同時に、今大妖が居座っている場所。

 弱まった神の上に座る大妖に、雨宮がグッと奥歯を噛んだ。



(かの大妖を倒すか封じるか……。必ずこの場を清めなければ)



 妖気に覆われしこの場を、清らかにして神に返さなければ。






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