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縁と扉と妖奇譚  作者: 秋月
第十二章 雷の大妖編

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第百六十六話 未来へ手を伸ばす

 祓衆はらいしゅうの一斉攻撃に、虚木うつぎが後退する。そこをすかさず退治衆が斬り込んだ。

 が、妖力の壁は砕けない。大勢が弾き飛ばされ、数人が堪えるも押し戻されて吹き飛ばされた。


 それでも、誰もがまた挑む。震えを、恐れを、怯みを、全て忘れて挑む。



「……意味が分からない…」



 恐怖だってそう簡単には隠せない。誰もが顔を青くして、身体だって今にも震えそう。動いていないと恐いでしょう。なら逃げればいいのに。


 呆れたように、馬鹿にするように、虚木は大きく息を吐いた。

 ザッと足を引く。引いた足にはバチリッと火花が散る。それを見た鳴神なるかみ南二郎なんじろうが、すかさず叫んだ。



「禁!」



 障壁と蹴りが同時にぶつかり合い、雷撃が弾け飛ぶ。その衝撃波に衆員達も吹き飛んだ。

 弾けた雷撃に当たった者は、身体が動かず倒れ伏す。


 衝撃も収まらぬその合間、虚木がダンッと地を蹴った。その速さに衆員達も目を瞠るが、その多くはすぐに拳や蹴りに吹き飛ばされ、血を吐いて倒れる。

 まるで動く嵐のよう。長い髪を手で払い、虚木はため息を吐いた。



「何でわざわざ死にに来るのかしら」



 続けて攻撃を繰り出そうとした虚木に、南二郎がすかさず術を放ち、距離を取らせた。



(奴の妖力の壁を打ち破るには、一気に打ち砕くか、時間をかけて削ぐか…だけど時間をかけていられない)



 今、中心に向かっている三人に、出来るだけ早く合流しなければ。だけど焦ってはいけない。


 南二郎はフッと息を吐く。相手はこれまでに“とう”や衆員達を苦しめてきた相手だ。

 さらに、この後にはそれ以上の大妖が待ち構えている。

 大変続きに、南二郎も鳴神も辟易としていないのが不思議だった。



「小太郎。行くぞ」


「はい」



 弟子と共に、鳴神も挑む。

 その動きを虚木は目で追った。緊張を強いる戦場の中、意識があるのは僅かな人数だけ。



「もう面倒だわ…。早く主様の所へ帰りたいし…」



 一気に潰してしまおう。そう考えた虚木は妖力を爆発させた。

 足元の地面から連鎖的に地面が割れていく。その中で体勢を崩す衆員達を妖力で圧する。


 少し他者より離れていた菅原は、すぐに飛び退いた。が、その眼前に瞬時に間合いを詰めた金色の眼光が迫る。



「禁……っ!」



 息を呑んだ。妖気がすぐ傍で肌を刺し、肺が圧迫される。

 咄嗟に築いた障壁はあっけなく砕かれ、虚木の手がそのまま首を締め上げる。

 空気が通らない気道。必死に空気を得ようとするが、だんだんと視界が狭まってくる。その視界の中、虚木の視線が動き、苦しさから解放された。



「無事か小太郎!」


「は…げほっげほっ」



 虚木は菅原から手を離し、後方へ退いた。その目が割り込んできた鳴神を睨む。


 空気を肺一杯に取り込み、菅原は鳴神を見上げた。そして僅か息を呑んだ。

 真剣でまっすぐな瞳は虚木を睨んでいる。けれど疲労を滲ませる顔色と、血を流してだらりと下がった左腕。


 虚木を睨んで、鳴神は胸の内で安堵と怒りを鎮める為息を吐いた。

 虚木が妖力を爆発させた一瞬より早く、鳴神は考えるより先に身体が動いた。本能なのか経験からの勘なのかは分からない。


 術を唱えるを遅いと判断したのか、それとも考えていなかったのか、一歩を踏み出して傍に居た衆員の首根っこ掴んで後方に投げ飛ばす。同時に防御障壁を張り、可能なだけ衆員を守る。

 だけど全ては守れない。障壁を築くと同時に、最初の衆員を投げ飛ばした左手を伸ばした。そこに妖力が押し潰すように襲い掛かった。


 悲鳴を上げた左手が動かない。動かそうとすればさらに激痛が走る。頬につらりと冷や汗が流れた。



「……師匠…」


「どした? 下がってるか? それでもいいぞ」


「っ、行けます!」


「おぅ、まだまだ元気」



 ハハッと笑ういつもと何も変わらない姿。そんな姿に菅原は唇を噛んだ。

 離れた所では、南二郎も似たように数人の衆員を守っていた。衆員達も肩で息をしている。もう戦える人数は数人しか残っていない。


 鳴神達をゆっくり見やり、虚木がスッと口端を下げた。



「まだ本気で思ってるの? 私達を倒すとか、主様倒すとか。夢物語描いてるの?」


「俺達は掴み取れる未来を描いてるよ」



 屈しない鳴神の瞳。光を探し、掴みとろうと手を伸ばす。

 大嫌いな大嫌いな気に入らないその目は、ついこの間も見たばかり。主を見て同じ目をしていた、自分が連れ去った生意気な退治人と同じ。



「……弱くて愚かで、傲慢な人間風情がっ…! 我らが主が手を下すまでもないわ!」



 不快を表情に乗せた虚木の姿が一瞬で消える。

 が、鳴神は慌てない。冷静にその視線が動く。そして気迫の声を上げた。



裂破れっぱ!」



 霊力と妖力がぶつかる。同時に菅原と南二郎も動き、後方から同じように攻撃を放つ。

 虚木はキッと奥歯を噛みながらそれに妖力をぶつけた。周囲が衝撃で荒れ狂う中、暴風の合間から腕が伸びた。



「!」



 伸ばしたのは鳴神。掴まれたのは虚木。鳴神は反撃を受けるより先に、グッと体を反転させた。



「兄貴直伝! 背負い投げ!」



 虚木が身にまとう妖力は、神威や霊力に反応すれども物理的に掴まれるという直接的接触には反応しない。妖力は負の力、だから、その反対ともいえる力に拒絶という反応をするのである。


 妖力はその力の強弱を操作出来ても、何を拒むかまでは操作できない。

 もしも、妖力が直接的な接触に反応するならば、雑鬼ざっきは気安く鳴神に触れたりしない。肩に乗った瞬間に軽い雑鬼が吹き飛んでいる。


 虚木を投げた鳴神だが、流石に腕一本では体勢が保てなかった。綺麗に決まらないどころか一緒に共倒れる結果になり、菅原と南二郎にすぐさま引っ立てられた。

 思ってもいない攻撃に一瞬息が詰まった虚木は、飛び起きて距離を取ると鳴神を見て顔を歪めた。



「あっ…んた……バッカじゃないの!?」



 少なからず、菅原も同意したくなった。






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