表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
縁と扉と妖奇譚  作者: 秋月
第十二章 雷の大妖編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

162/186

第百六十二話 それぞれの場所で

「詳細は?」



 自然と声を潜める咲光さくやに、総元そうもとも神妙に頷いた。



「私は封じが破られる少し前から、漏れ出ていた妖力を固めて封じた。だから今、奴は全盛とは言えない。それでも充分強力だけれどね」


「あれで全盛じゃない……」


「全盛だったら今頃外は嵐になってるよ。封じと同時に、私は神社を囲む結界を使って、大妖をここから出られないようにしてある」



 次々出て来る言葉に、咲光は必死に頭を動かし続けた。いちいち驚いてはいられない。


 妖力は、消費される事で失ったならば、休息により回復する事は出来る。だが、奪われてもそこに在る妖力は消えない。奪った側が消費しない限り、回復は出来ない。

 そして、妖同士では妖力を奪うなんて高度な芸当は出来ない。これが出来るのは術者くらい。尤も、それが出来る術者もごく一部のみで、術自体が高度である。


 妖力だけを封じても、封じが解ければその妖力は持ち主へと返る。もしもその時、奪われた分を回復していれば、自分の容量以上の妖力に身体の内が圧迫されてしまうのだ。

 だから今、大妖は妖力を消費されない形で封じられ、その分を回復する事も出来ていない。


 妖力を封じた物が、大妖の探し物だろうと見当をつけ、改めて透ける総元を視る。



(封じが破られる前からずっと……ずっと戦っていたんだ…。少しずつ少しずつ、総元が私達に繋げれてくれた…)



 泣きそうになるのを堪える。今はまだ泣く時じゃない。

 だからキュッと前を見据える。



「奴がこの神社にあると断言したのは?」


「長き封じを守る為、私はこの神社を出なかった。この地を離れず役目を全うするのが代々のやり方でね。これは虚木うつぎ禍餓鬼かがきも推測していただろう」


「だからこの神社にあるはずだと……」



 封じを守る為に力を注ぎ続けた術者達。その役目の重さも、成し遂げる意志も、尊敬を抱くばかり。


 近くに大妖達がいない事は分かっているが、咲光は思わず周囲を確認して声を潜めた。



「それは今、どこに?」


「言わない」



 総元にはっきりと告げられた言葉に、一瞬咲光は面食らった。

 言葉が出て来ない様子に、総元はすぐに「えっとね」と説明してくれた。その表情は眉を下げて、少し申し訳なさそうだた。



「これは誰にも言わないつもりなんだ。だけど、奴の手には渡らない」


「…確証がある事ですか?」


「ある。奴は気付きもしない。私も術者だ。何を犠牲にしてでも為さねばならない事がある」



 その声音の強さに咲光はストンと理解した。

 これが、神来社からいと家の当主であるという事なのだと。


 封じを守って来た神来社家。その使命を神の意で与えられた一族。それを長く務めてきた代々の当主。

 重い役目を投げ出さず何百年もしかと繋ぐ事は、どれほどの事なのだろうか。神の差配で血と力は受け継がれていても、それは当事者達の理解と納得が付随するわけではない。



(神来社さんは、力に恵まれなかった…)



 そういう人も居ただろう。

 それでも――



「ただ言えるのは、私なら、余程の安心が無い限り、手元から放しはしないということだね」


「手元……? もっ…!」



 持ってるんですか!?

 表情に出る咲光に総元は面白そうに笑った。けれど答えは返さない。



(それなら確かに安心だけど…。総元は今、霊ですよね…?)



 持てるの?

 今度は怪訝な表情が浮かんで、その変わりように総元は吹き出した。


 けれどやっぱり答えは返って来ないので、咲光は聞く事を止めた。総元が断言するなら安心だろう。

 そうなると、自分の選択は決まってくる。



「総元。私は皆の元へ戻ります」


「あぁ。私も同じだ。一緒に戦わせてくれ」


「はい!」



 総元が居れば頼もしい。咲光の力強い頷きに、総元も頷き返した。

 そして咲光は、今になって思い出す。



「……あっ」


「どうしたんだい?」


「ご家族の避難先に、穂華ほのかちゃんが行ってくれてます。なので安心してください。皆を明るくしてくれますから!」


「! そうか…。そうか。ありがとう」



 総元としてではない。夫の、父親の顔をした総元に、咲光も満開の笑みを咲かせた。

 安心と苦しさを感じながら、総元は咲光と今後の事を話し始めた。






♦♦




 厚い雲に覆われた空。月さえもその姿を隠している。


 夜の闇の中で、万所よろずどころ仮本部は緊張に包まれていた。屋敷の庭には篝火が焚かれ、空気と場を浄化する。

 空気も澱み妖気も感じられる中で、神の力を保ち続けるのは大変な事。


 そう思いながら、総十郎そうじゅうろうは空を見上げて深く息を吐く。不安も恐怖も嫌な空気になる。

 だから意識して振り払う。でなければ心まで絡めとられてしまいそうだ。



「か…神来社さん…」



 呼ばれて静かに視線を向けた。そこにいたのは八彦やひこで、総十郎は「どうした?」と首を傾げた。

 ちらりと視線を向ければ、照真しょうまは他の衆員達と話をしているようだ。どんな事でもいい。気を紛らわせる事は、今以上に自分を追い詰めない為にも必要な事。


 八彦は、総十郎をじっと見つめていた。探るようにキュッと眉間に皺を寄せて。



「大丈夫…?」



 その目は、心配そうに向けられた。少し驚いて、総十郎はふわりと目を細めた。



「…神来社さんは……咲光の事も…照真の事も……すごく大事にしてるから…」


「それは違う。俺は、二人も、お前の事も、穂華の事も大事だよ。一緒に戦う日野ひの鳴神なるかみ雨宮あまみやさんや衆員達も」


「……うん」



 本当によく人を見ていて。よく感じ取って。人の不安を自分の事のように案じてくれる。

 そんな優しい、誰よりも優しくて、だから人を上手に頼れなくて不器用で。


 総十郎は八彦の頭にそっと手を置いた。以前は身を固めてしまった八彦も、二度目はそんな事もなく受け入れた。

 そっと置かれた手はすぐに離れる。それに合わせて八彦も頭を上げた。



「咲光を必ず取り戻すぞ」


「うんっ!」



 総十郎にとって大切な弟子であるように、八彦にとっても大事な友達。

 八彦は前を見据え、力強く頷いた。


 総元として南二郎なんじろうが立ち、“とう”が揃い、衆員達が集合した。各々の役割が伝えられ、誰もが緊張をまとっている。

 その中で、最前線に立ち“頭”が動く。



「行くぞ」


「はい!」



 万所総員が、世紀の妖退治に挑む一歩を踏み出した。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ