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縁と扉と妖奇譚  作者: 秋月
第十一章 大蛇編

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第百三十五話 自分なりに

 別れて動く為、全員が総十郎そうじゅうろうに木札を見せた。総十郎は全員のそれを見て班を編成する。

 行方不明者が出ている町の警備。祠の調査と玉の探索。援護班。総十郎はすぐさま編成とそれぞれの班の指揮役を決める。


 それぞれが別れて、照真しょうまは自分の木札を見て唸った。



「…照真。どうかした…?」


「階級、いつの間にか上がってる……」



 万所よろずどころ所属を示す木札。表の絵柄、裏は衆と階級を示す。


 咲光さくやも照真も一番下の階級「十」から始まった。それが見慣れていた数字だった。が、今の階級の数字は「六」

 見慣れないので照真も首を捻った。



「元々あんまり気にしてなかったけど…」


「何が? …って、照真もう六級!?」


「え。わっ、早いね」



 隣から覗いた赤羽と山本も驚いている。咲光も改めて木札を見た。照真と同じ「六」の数字。


 「一」より上である“とう”になるまでに短くても五年かかるという。単純に見れば早いかもしれないが、毎度怪我だらけなので、何とか食らいついている状態だ。

 総十郎のように、冷静に見極めて強く鋭い一撃を振る。禍餓鬼かがきとも互角に戦えるような実力には程遠い。


 近くに強くて尊敬する人がいるので、まだまだだと照真は木札をしまうと、総十郎を見た。


 咲光達は分かれる事無く行動する事になった。違うのは、赤羽と山本が加わっている事。


 それぞれの班の動きを決め、ひとまず夕暮れの仕事開始を告げると会議は解散になった。が、誰も出ていく事は無くそれぞれで話し合っている。

 咲光達も同じ。腰を落ち着けて、赤羽と山本が総十郎に頭を下げた。



「よろしくお願いします!」


「こちらこそ頼む。班の重要な祓人はらいにんだからな」



 班の編成において、階級が違いすぎる者同士は組み合わせづらい。実力も違うし連携も取りづらいのだ。

 かといって、低い者ばかりで組むわけにはいかない。実力のある上級者を軸に、ばらつきを少なく組めるようにする。


 今回の仕事では、八彦やひこが最も階級が低い。が、八彦は咲光達との共闘経験がある。なので、今回は咲光達を分けずわざといつもの顔ぶれにした。祓人には、照真達と階級の変わらない者を選んで。



「さて、俺達の動きだが……」



 総十郎を軸に会議を始める。

 咲光達の仕事は、“頭”がいる事を鑑みて、祠の調査と玉の探索。



「探索とはしているが、玉に施されている術にもしもの事があれば、大蛇おろち相手も覚悟しろよ」


「はい」



 そう。すでに玉が消え失せ相手の手に渡ってしまっていると、その封じを解こうとしていると考えられる。

 容易ではないが、出来ない訳ではない。完全に封じが解けてしまうと、大蛇が復活する。そうなれば戦うしかない。


 総十郎を軸に動きを確認していると、タタッと小走りの足音が聞こえた。照真の視線が動いた先に、邪魔にならないようやって来る穂華ほのかがいた。



「どうしたの?」


「うん。あのね、夕食はどういう風にすればいいかって、神主の奥さんが」



 穂華の視線と言葉が総十郎に向く。総十郎も一旦口を閉ざし、穂華の言葉に耳を傾けると、「そうだな…」と刹那考えすぐに答えを出した。



「もう準備してくれてるのか?」


「うん。もうすぐすれば、すぐに出せるようになるけど…」


「なら仕事前に頂こう。ただ、腹いっぱいにはならない程度で」


「分かった。じゃあ準備してくるね」



 頷いた穂華はすぐに戻って行く。その背を見送り照真も嬉しくなった。



(穂華ちゃん。一人で色々手伝ってくれてるんだな…)



 部屋で待っている事も出来るのに。嬉しさを感じながら照真は会議に戻る。

 首を傾げた赤羽に「あの子は?」と聞かれ「旅の仲間です」と言うと、少し驚いた顔をしていた。






♦♦




 部屋の前で総十郎達と別れた穂華は、神主が仕事説明の為に広間にいるので、家族がいないかと探す事にした。

 咲光達から預かった荷物もあるので、少々動きづらい。が、これは仕方がない。


 廊下を歩いていると、運良くそれらしい人に会う事が出来た。その女性は穂華を見てコテンと首を傾げる。



「大丈夫? 随分と多い荷物ね…」


「大丈夫です…。仲間が会議中なので、戦えない私は荷物持ちで…」


「……貴女は万所の方ではないの?」


「はい。私は一緒に旅をさせてもらってる身です」



 えへへっと照れくさそうに笑みをこぼした穂華に、女性は驚いた顔を見せた。しかし、すぐにフッと息を溢すように笑う。



「そんな子もいるのね…。私も半分持つわ」


「えっ…」


「ね? 部屋を用意するから、そこまで」


「…ありがとうございます」



 その厚意に甘える事にした。「こっちへどうぞ」と案内してくれる後ろに続く。


 女性はこの神社の神主の妻だそうだ。万所に対して本当に親切にしてくれる。穂華も旅の中でそれは肌で感じていた。

 彼らは、戦わない自分にもとても親切にしてくれて、いつも気遣ってくれたから。


 女性は静かな客室へ案内してくれた。



「ここを使って。他にも遠慮なく何でも言ってね」


「ありがとうございます」



 ぺこりと深く頭を下げる穂華に、神主の妻も優しく手を振って出て行った。


 一人になった部屋で、少しの緊張から解放されフッと息を吐く。

 一人で誰かと話をする事は得意でも不得意でもない。けれど、ずっと兄姉が傍に居たからか、少しだけ緊張してしまう。



(でも、一度思い切ってやると、二度目は行動しやすいから大丈夫。経験って本当に大事…)



 身を持って感じる。そして、少しでも成長出来ているといいなと思う。


 穂華は荷を置くと、自分の鞄を開けた。



(今回も大きな仕事みたいだから、薬はすぐ出せるようにしておかないと。それに他の皆さんの分も必要かも。後は、持ち運べるような分も要るかな…)



 それに予備の確認。不安になるようなら、後で町の薬屋に行こう。昼間なら総十郎も外出は許してくれるだろう。滞在の間は神社で手伝いもさせてもらおう。

 よしっと決め、穂華はある程度荷を整理する。


 それが終わると部屋を出た。探していた神主の妻は台所にいた。



「あら? 何か困り事?」


「いえ。あの、何かお手伝いさせて下さい。じっとしてられないし…」



 穂華を見つめる眼差しが優しい柔らかさを見せる。そしてふわりと微笑んだ。



「それじゃあ、お願いしようかしら」


「はいっ!」



 元気の良い返事で、台所は明るい空気に包まれた。






♦♦






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