第百三十五話 自分なりに
別れて動く為、全員が総十郎に木札を見せた。総十郎は全員のそれを見て班を編成する。
行方不明者が出ている町の警備。祠の調査と玉の探索。援護班。総十郎はすぐさま編成とそれぞれの班の指揮役を決める。
それぞれが別れて、照真は自分の木札を見て唸った。
「…照真。どうかした…?」
「階級、いつの間にか上がってる……」
万所所属を示す木札。表の絵柄、裏は衆と階級を示す。
咲光も照真も一番下の階級「十」から始まった。それが見慣れていた数字だった。が、今の階級の数字は「六」
見慣れないので照真も首を捻った。
「元々あんまり気にしてなかったけど…」
「何が? …って、照真もう六級!?」
「え。わっ、早いね」
隣から覗いた赤羽と山本も驚いている。咲光も改めて木札を見た。照真と同じ「六」の数字。
「一」より上である“頭”になるまでに短くても五年かかるという。単純に見れば早いかもしれないが、毎度怪我だらけなので、何とか食らいついている状態だ。
総十郎のように、冷静に見極めて強く鋭い一撃を振る。禍餓鬼とも互角に戦えるような実力には程遠い。
近くに強くて尊敬する人がいるので、まだまだだと照真は木札をしまうと、総十郎を見た。
咲光達は分かれる事無く行動する事になった。違うのは、赤羽と山本が加わっている事。
それぞれの班の動きを決め、ひとまず夕暮れの仕事開始を告げると会議は解散になった。が、誰も出ていく事は無くそれぞれで話し合っている。
咲光達も同じ。腰を落ち着けて、赤羽と山本が総十郎に頭を下げた。
「よろしくお願いします!」
「こちらこそ頼む。班の重要な祓人だからな」
班の編成において、階級が違いすぎる者同士は組み合わせづらい。実力も違うし連携も取りづらいのだ。
かといって、低い者ばかりで組むわけにはいかない。実力のある上級者を軸に、ばらつきを少なく組めるようにする。
今回の仕事では、八彦が最も階級が低い。が、八彦は咲光達との共闘経験がある。なので、今回は咲光達を分けずわざといつもの顔ぶれにした。祓人には、照真達と階級の変わらない者を選んで。
「さて、俺達の動きだが……」
総十郎を軸に会議を始める。
咲光達の仕事は、“頭”がいる事を鑑みて、祠の調査と玉の探索。
「探索とはしているが、玉に施されている術にもしもの事があれば、大蛇相手も覚悟しろよ」
「はい」
そう。すでに玉が消え失せ相手の手に渡ってしまっていると、その封じを解こうとしていると考えられる。
容易ではないが、出来ない訳ではない。完全に封じが解けてしまうと、大蛇が復活する。そうなれば戦うしかない。
総十郎を軸に動きを確認していると、タタッと小走りの足音が聞こえた。照真の視線が動いた先に、邪魔にならないようやって来る穂華がいた。
「どうしたの?」
「うん。あのね、夕食はどういう風にすればいいかって、神主の奥さんが」
穂華の視線と言葉が総十郎に向く。総十郎も一旦口を閉ざし、穂華の言葉に耳を傾けると、「そうだな…」と刹那考えすぐに答えを出した。
「もう準備してくれてるのか?」
「うん。もうすぐすれば、すぐに出せるようになるけど…」
「なら仕事前に頂こう。ただ、腹いっぱいにはならない程度で」
「分かった。じゃあ準備してくるね」
頷いた穂華はすぐに戻って行く。その背を見送り照真も嬉しくなった。
(穂華ちゃん。一人で色々手伝ってくれてるんだな…)
部屋で待っている事も出来るのに。嬉しさを感じながら照真は会議に戻る。
首を傾げた赤羽に「あの子は?」と聞かれ「旅の仲間です」と言うと、少し驚いた顔をしていた。
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部屋の前で総十郎達と別れた穂華は、神主が仕事説明の為に広間にいるので、家族がいないかと探す事にした。
咲光達から預かった荷物もあるので、少々動きづらい。が、これは仕方がない。
廊下を歩いていると、運良くそれらしい人に会う事が出来た。その女性は穂華を見てコテンと首を傾げる。
「大丈夫? 随分と多い荷物ね…」
「大丈夫です…。仲間が会議中なので、戦えない私は荷物持ちで…」
「……貴女は万所の方ではないの?」
「はい。私は一緒に旅をさせてもらってる身です」
えへへっと照れくさそうに笑みをこぼした穂華に、女性は驚いた顔を見せた。しかし、すぐにフッと息を溢すように笑う。
「そんな子もいるのね…。私も半分持つわ」
「えっ…」
「ね? 部屋を用意するから、そこまで」
「…ありがとうございます」
その厚意に甘える事にした。「こっちへどうぞ」と案内してくれる後ろに続く。
女性はこの神社の神主の妻だそうだ。万所に対して本当に親切にしてくれる。穂華も旅の中でそれは肌で感じていた。
彼らは、戦わない自分にもとても親切にしてくれて、いつも気遣ってくれたから。
女性は静かな客室へ案内してくれた。
「ここを使って。他にも遠慮なく何でも言ってね」
「ありがとうございます」
ぺこりと深く頭を下げる穂華に、神主の妻も優しく手を振って出て行った。
一人になった部屋で、少しの緊張から解放されフッと息を吐く。
一人で誰かと話をする事は得意でも不得意でもない。けれど、ずっと兄姉が傍に居たからか、少しだけ緊張してしまう。
(でも、一度思い切ってやると、二度目は行動しやすいから大丈夫。経験って本当に大事…)
身を持って感じる。そして、少しでも成長出来ているといいなと思う。
穂華は荷を置くと、自分の鞄を開けた。
(今回も大きな仕事みたいだから、薬はすぐ出せるようにしておかないと。それに他の皆さんの分も必要かも。後は、持ち運べるような分も要るかな…)
それに予備の確認。不安になるようなら、後で町の薬屋に行こう。昼間なら総十郎も外出は許してくれるだろう。滞在の間は神社で手伝いもさせてもらおう。
よしっと決め、穂華はある程度荷を整理する。
それが終わると部屋を出た。探していた神主の妻は台所にいた。
「あら? 何か困り事?」
「いえ。あの、何かお手伝いさせて下さい。じっとしてられないし…」
穂華を見つめる眼差しが優しい柔らかさを見せる。そしてふわりと微笑んだ。
「それじゃあ、お願いしようかしら」
「はいっ!」
元気の良い返事で、台所は明るい空気に包まれた。
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