第百三十四話 封じと祠
総十郎が本部から式を受けて数日後。咲光達の元に仕事の式が寄越された。
傷も癒え、すぐに出立の準備をする。それに今回の仕事はまた緊急のもの。
どうしても、虚木や禍餓鬼の顔が脳裏をよぎる。また関わっているかもしれない。
「行こう」
「うん」
緊張を抱きながらも、一行は次の町へ向け出発した。
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目的の町は、万所本部にも近い大きな町だった。町の傍には大きな川も流れている。川は森から流れていて、せせらぎを届けてくれる。
緊急の仕事という事は、以前のように他の万所の衆員も集まっているかもしれない。そんな仕事の前はやはり緊張してしまう。
そんな咲光と照真を見ながら、総十郎も神社へ向かう。
集合場所でもあり仕事をくれた神社が見えてくる。その鳥居をくぐり、総十郎が表情を強張らせたが、足を止める事無く歩く。
神に挨拶をし、すぐに神主の元へ。そのまま部屋へ案内された。
「!」
やはり、すでに何人もの衆員が集まっていた。
一同をぐるりと見回し、総十郎は一番後ろにいる穂華へ視線を向けた。
「穂華。後で簡単に説明するから、先に部屋を貰ってゆっくりしててくれ」
「分かった」
素直に頷き、穂華はくるりと身を翻す。それを見送り、総十郎は“頭”の顔を見せる。
合同任務において、指揮を執るのは最も階級が高い者。つまり、ここでは“頭”である総十郎だ。
そうなると、旅の中でのようにはいかず、咲光達も一員として指示を受ける。
「あれ……照真…?」
「? …あ、赤羽さん、山本さん!」
部屋に入ってすぐ、二人の少年が駆け寄って来る。かつて合同任務で行動を共にした祓人だ。
久しぶりの再会に、照真もパッと表情を明るくさせる。
「久しぶりだな。元気そうでなにより」
「照真の姉さんもお久しぶりです」
「こんにちは」
咲光にも赤羽と山本はぺこりと頭を下げる。咲光も同じように頭を下げた。
以前の任務で照真と共に行動し、仲も良いようだったので、咲光も再会は嬉しい。
赤羽と山本は総十郎にも深々と頭を下げ、そして八彦を見て目を点にしてパチリと瞬いた。
「…八彦…? え、え…!? 何で!?」
「八彦君も今や退治人だよ」
「えっ!?」
驚愕を露にする二人に、八彦は視線を彷徨わせる。
八彦も赤羽と山本の事は知っている。療養中にも少しだけ話をする機会があったから。だけれどやはり、関わりの少ない人との会話は緊張してしまう。
他者との関わりが薄かった八彦は、こうして旅をするようになっても、今の赤羽と山本のように「そうなの!?」「すげぇな!」と言われるのに慣れない。
もじもじとしてしまう八彦に、赤羽と山本も寛大で、咲光と総十郎も微笑みを浮かべ見つめていた。
「お二人も呼ばれたんですね」
「あぁ。俺らは別々の仕事だったんだけど、ここに来て久しぶりに会った」
「今回は、森での調査って感じの仕事らしい」
「調査?」
赤羽と山本の視線が総十郎に向いた。その視線を受けて、総十郎は部屋の中で全員を見回した。
さぁ、仕事の時間だ。
事の始まりは、森の中で幾人もの人が亡くなっているのが見つかった事だった。
その日は、森にある祠で年に一度の儀式が行われていたらしい。ただ、その儀式は関係者以外立ち入る事が許されないそうで、参加していた人全員が亡くなった。
ほとんどの人はその場で亡くなっていたそうだが、三人ほどは、川に浮いていたり、川辺に引っかかっていた状態で見つかったらしい。
そして、儀式の行われていた祠は半壊していた。祠の中には玉が納められていたそうだが、それは消え失せていた。
それ以降、町では行方不明者が続発している。
「どうか…。どうか、よろしくお願いします」
「はい。お話くださってありがとうございます」
神主は事情を説明し、深々と頭を下げた。託された想いに、総十郎も衆員達も気を引き締める。
神主が部屋を出ていくのを見送り、総十郎は一同を見る。
「昔、この町では三体の大蛇を封じたと言われている。その封じは今も存在するが、今回の祠は恐らくそれだ」
「封じ……」
咲光と照真がピクリと眉を動かす。
強力な妖を封じた術や場所というものは全国各地に存在する。ここにもその一つがある。封じの管理は、その地の神社や万所が担っている。
そして、封じの術というものは永遠に持続するものではない。
時を経てば必ず綻びが出てくる。そしてその綻びは、術者がさらに術をかけて直し、強力なものにする。
弱まった封じは、内外からの強力な妖力で破られる。が、それほどまでに弱まってしまう事はない。それまでに必ず万所が手を打つ。
(でも、今回がそうだったなら、まさかこれも禍餓鬼や虚木が……)
弱まったとはいえ、封じに手を出すモノは妖の中にもそうそういない。
おのずとそれをしたモノが想像できる。総十郎の表情も同じように思っているのか少し険しい。
「総元からの情報によると、祠には封じの玉が納められている」
「では、何者かが祠を壊して玉を……?」
「恐らくな。封じられていた妖、祠を破壊した妖。どちらもかなり強敵だ。心して臨んでくれ」
「はい!」
衆員の声が揃う。全員が発する空気で、部屋全体が張りつめていた。




