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縁と扉と妖奇譚  作者: 秋月
第九章 学舎編

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第百二十一話 面影

 自分達の前に突然現れた男女に、子供達も急停止した。それにすぐさま警備隊の二人も追いつくが、新たな侵入者に声を上げる。



「何だお前達!」


「俺達は国の警備機関から依頼されて来た者です。すぐに避難を」


「く、国の…? 避難って何を…」


「失礼。通達よりも来るのが早かったので、先に仕事を」



 焦りも不信感も抱かせないように、総十郎そうじゅうろうは微笑みさえ浮かべて告げる。その言葉に警備隊の男性は顔を見合わせた。その判断の迷いの隙に、総十郎は「子供達をお願いしますね」と背を押した。


 そのまま子供達と警備隊が階段を下りていくのを見届け、総十郎は仕事の顔をして振り返った。

 スッと刀を抜きながら餓鬼がきを睨む。



「まさか、ここでコイツらと会うとはな。八彦やひこ。コイツらは使い走りだ。本体はかなり妖力が強い。気を付けろ」


「…ん。分かる…。前の……虚木うつぎ…っていう奴と…似てる。すごく…嫌な感じ…」



 かつては見ているだけだった咲光さくや達と虚木との戦い。でも今は…。八彦は刀をぎゅっと握る。


 餓鬼を前に咲光達は地を蹴った。建物内という条件の中でも、さして苦労することはないように刀を振るう。互いの動きを見て、それぞれの邪魔にならないよう自分の刀を振る。

 十体に満たなかった餓鬼はすぐに倒す事が出来た。消えゆくのを見やり、咲光は眉をしかめた。



「まさか餓鬼が…」


「じゃあ、この件にはアイツが関わって…」


「……アイツ?」


「うん。虚木と似た妖気を持つ、白い髪と金色の目の男の姿のあやかし。今の餓鬼っていう手下を使って色々やってるみたいで」



 強張る照真しょうまの表情に八彦もその緊張と深刻さを感じた。キュッと唇を噛む。



「お…俺も頑張る…」


「八彦君……?」


「今度は…一緒に戦える…から…」



 そう言って、悔しさと決意の混じる表情を見せる八彦に咲光達も頷いた。



「うんっ」


「一緒に頑張ろう」



 咲光と照真の言葉も笑みも、総十郎の優しい目も、全て自分に力をくれる。それを痛感しながら八彦も頷いた。


 八彦の言葉を嬉しく思いながら、総十郎はスッと目を細めると振り返った。咲光達もすぐに反応した。



「やれやれ…。まだ来るか」



 総十郎が強く睨む先で、再び黒い波が生まれる。咲光達も刀を構える。

 再びの餓鬼の群れ。そう思いながら咲光達は床を蹴った。



(加えて作り出したのなら必ず近くにいるはず……!)



 廊下は餓鬼の群れで覆い尽くさんばかりの勢いだ。餓鬼とこれを作り出した妖とは、妖気が似ていて探りづらい。

 餓鬼を斬り、すぐさま流れるように次を斬る。


 何体もの餓鬼を斬る中で、総十郎は見つけた。窓の外。開放的な広場。そこで揺れる白い髪。こちらを見る金の双眸。



「――っ!」



 忘れもしない。あの表情。



神来社からいとさん!?」



 バリィッと窓を突き破り、総十郎は飛び出した。後方から驚く声は聞こえたが、その足は止まらない。

 そびえる樹の枝を掴み着地すると、そのまま一気に広場まで走った。足を踏み入れた広場で、風が着物を揺らす。


 その中、禍餓鬼かがきは悠々と立っていた。何の感情も浮かべていなかったような目が、総十郎を見て僅か細められる。



「神来社か…。久方だ」


「互いに感慨深くも感傷に浸るつもりもないだろう」


「そうだな。お前も以前と何も変わらない」



 金色の目が総十郎をじっと見つめる。その目を一切逸らす事無く総十郎は睨んだ。


 ほんの少し、禍餓鬼の口端が上がる。



「仇討ちというわけか。そんな事をして何になるというのか」



 ドンッと地を蹴った総十郎が禍餓鬼との距離を詰める。が、淡々とした眼差しはそれをかわした。ギッと音が聞こえそうなくらい強く握られた刀からは、迷いのない一閃が殺気と共に放たれる。


 禍餓鬼の手の平に光の筋が走る。瞬くその光が総十郎の刀と激しく衝突する。その光は刀に当たると容赦のない衝撃を腕全体に与え、刀の軌道を逸らす。



「我が主より賜りし稲妻の力。その身で味わうと良い」



 手の平から生まれる稲妻が総十郎の顔すれすれを走る。それを一瞥し総十郎は刀を振るう。

 加えて、禍餓鬼の足元からは餓鬼が生み出される。目をくれる事無く総十郎はそれを斬り裂いた。


 餓鬼を生み出すのにも当然妖力を使う。学舎まなびや内に生み出した数を考えても、妖力は削られているはず。だが、禍餓鬼は次々と餓鬼を生み出し、稲妻を放出させる。それを認め、総十郎の頭が否定を告げた。



(餓鬼とコイツは微かに妖力が違う。つまり餓鬼は、完全にコイツの妖力だけで作られているわけじゃなく、ある程度はこの場の気や負を取り込んでいる。ある程度の形さえ作れば、後は周囲が形成してくれたってところか…)



 全てを禍餓鬼の妖力で作っているわけでなくとも、形成分の妖力は確かに消費されている。禍餓鬼の妖力無しに餓鬼は生まれない。


 禍餓鬼も虚木同様、甚大な妖力を有している。一筋縄ではいかない。総十郎は、立て続けに剣戟を浴びせた。


 餓鬼を死角に稲妻が走って来る。それを神威を強めた刀で弾く。衝撃に腕が痺れながらも、それでも総十郎は刀を振った。総十郎の刀を避け、稲妻を走らせ餓鬼を生み出しながら、禍餓鬼は不敵な微笑みを浮かべる。



「やはり、貴様と()()では実力が違うな。あの小僧は弱すぎた」


「!」


「俺を倒すと、出来もせぬ事をほざくのは愚かだと思わんか?」



 ドンッと地を蹴った禍餓鬼の足元に亀裂が入る。総十郎は数歩後退しても、足場をすぐに見つけ走り出す。挑んでくる総十郎に禍餓鬼の稲妻が走る。

 まるで空気を裂くような一閃が、総十郎の腕の皮膚を裂く。が、そんな事に怯む事無く、総十郎が躍り出た。

 ただ禍餓鬼だけを見据える双眸に、禍餓鬼は面白そうに口端を上げると、その一撃を稲妻を盾のように放出して受け止めた。ぶつかり合ったその衝撃で互いが後退する。が、すぐに同時に地を蹴った。


 何度も何度も互いの攻撃がぶつかり合う。



「どうした神来社。貴様の刀は俺を傷つけても、致命傷になるようなものはないぞ」


「………………」



 互いに出来るのは皮膚を裂く傷。少し深い傷が出来ても、それは致命傷に至るものではない。

 そんな中で、禍餓鬼は「あぁそうか」と総十郎を見て嗤った。



「無様に死んだお前の弟子の話でもしてやれば、もう少し本気になれるか?」






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