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縁と扉と妖奇譚  作者: 秋月
第九章 学舎編

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第百十九話 学舎の怪談

 町の中にある寺は、季節の花々が咲き誇る寺だった。その楼門をくぐり、咲光さくや達は早速住職に話を聞く事にした。


 穂華ほのかは客室で待機し、咲光達が揃って仕事の話をする。



学舎まなびやには怪談話があり、面白がる子供達は夜に忍び込むようです。親や教員からこっぴどく叱られても懲りないようで…」


「往々にしてある事です。ですが、それまでには今回のような事態はなかったんですね?」


「はい。襲われたというような話は、ここ最近になって初めてです」



 子供の好奇心に困りながらも、咲光は思案する。



「その怪談話にあやかしが便乗したんでしょうか?」


「でも、怪談話は作り物だし、便乗しても来るか分からない人を待つ事にならない?」


「……作り話を…妖が…隠れ蓑にしてる…とか…?」


「成程。そういう考えもあるのか…」



 咲光と照真しょうま八彦やひこがそれぞれ考えている。そんな三人を見つめながら総十郎そうじゅうろうも思案する。

 すぐに住職を見て問うた。



「先程学舎を外から見たんですが、どの建物かは分かりますか?」


「はい。学舎は年齢によって使う舎が違うんです。事件が起きているのは十歳までの子が通う舎だと聞いております」


「襲われた状況は?」


「はい。私も話に聞いただけですが…」



 住職の表情は痛みと憐みが混じる。一息ついた住職はゆっくりと話し始めた。



「舎内に入り込んだ子供達は、廊下で化け物に襲われた、と言っています。大人は何かを見間違えて怪我をしたんだろうと…。幸いと言いますか、転んだ際に階段から落ちたりという事態で済んでいます。ただ、話の真偽を確かめようとする子供もおりまして…」



 住職の言葉に咲光は眉をひそめた。

 怪訝けげんそうな表情に照真は首を傾げる。「姉さん?」と呼びかければ視線は向けられなくとも、その疑問を口にしてくれた。



「妖は何をしたいんだろう…。子供に怪我をさせる事が目的…とは思えないけれど…」


「うーん……。真偽を確かめようと沢山人が来て、そこを一気に襲う…とか?」


「時間がかかりすぎない?」



 咲光と照真が首を捻る中、八彦が「あの…」と総十郎を見た。その視線と言葉に総十郎も視線を向ける。



「…あ…妖なら…視えたり…視えなかったり…なのに……子供は…視えてるみたいだから…どうして…?」


「あぁ。子供の頃、だいたい七歳から十歳になるまでは稀に視える事が多いんだ。まぁ一瞬とか一時的にだが。感覚的になのか、それとも本能が強く残っているからなのか。大人と子供じゃ、目撃は子供の方が多い」


「そう…なんだ…」



 だから、子供が狙われる事も多い。今回もそういう類かと総十郎は考える。








 住職から話を聞いた一同は、客間で待つ穂華の元へ戻った。が、そこに穂華の姿がない。おや? と周りを見た照真の視界に、庭を走ってやって来る穂華の姿が映った。



「穂華ちゃん。どこか行ってたの?」


「今、子供と母親がお墓参りに来ててね。ちょっと学舎の話聞いてたの」



 縁側に座った穂華は草履を脱ぎ、一同は揃って部屋に入った。

 そして穂華は聞いた話を続ける。



「その子供がね、友達が学舎に通ってて、学舎での件知ってたの」


「何か分かった?」


「えっとね、学舎には七つの怪談話があるんだって」


「七つも?」



 詳しい怪談話など内部にいないと分からない。それが思わぬ方向から舞い込んできて、総十郎も興味深そうな目を見せる。

  一同の視線を前に、穂華は「えっとね」と聞いた事を話し始めた。



かわやの女の子。動き出す石像。勝手に鳴る楽器。聞こえる笑い声。廊下を追いかけて来る男。鏡から出て来る女。下りても下りても一階につかない階段……」



 精一杯怖がらせようと思いながらそれっぽく告げても、返って来るのはふむふむへぇというあっさり淡白な返事。

 うん分かってた。妖と戦ってる人達だもんね。と思うけどちょっとがっかり。



「まぁ、いかにも作り話だが、住職の話と一致するのはその…廊下を追って来る男って話だな」


「そうなの?」


「うん。子供達は廊下で化け物に襲われて怪我してるんだって」


「化け物なんだ」


「うん、化け物」


「男でも化け物でも怖い」



 暗い廊下を追いかけられたら…と思うと穂華はブルリと身を震わせた。と、思い出したように「あ」と声を出した穂華に全員の視線が向く。



「どうしたの?」


「あとね。これは関係ないと思うんだけど、その子の友達がね、他の友達に誘われて夜の学舎に入ろうとしたんだって。でも、門から中を見た時に知らない男の人が中にいて、それがなんだか不気味で怖かったんだって」


「…その…子は…入ったの…?」


「ううん。それが恐くてやめたって」



 八彦がホッと安心したように息を吐いた。危機を感じられる子はちゃんといたのだ。



「子供を止めるために大人がいてもおかしくないね」


「うん。子供達の他にもいるのかな…」


「俺達みたいな、か?」



 クスリと総十郎が笑って言う。

 自分達も今夜は隠密行動で学舎に忍び込もうとしているのだ。あまり強く人の事は言えない。あはは…と乾いた笑みが出てしまった。



「その怪談話を調べよう。少し時間はかかるが、人々の安全をおざなりには出来ない」


「はい」


「穂華。留守は頼むが、先に寝てていいからな」


「うん。でも起きれそうなら起きてる。皆戦うのに私だけ寝てられないよ」


「寝不足になるなよ?」



 健気な穂華に総十郎も優しく笑う。頑張ると気合を入れ拳をつくる穂華に、咲光達もクスリと笑みを浮かべた。






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