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縁と扉と妖奇譚  作者: 秋月
第八章 占い騒動編

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第百十五話 曖昧な解釈

 一連の話を聞き、照真しょうま穂華ほのかは成程と頷いた。



「その占いが言った相手が姉さんで、それで結婚したいと……」


「いや。これは占いじゃない」


「え?」



 納得した照真に、すさかず総十郎そうじゅうろうが否定を告げた。それに驚いたのは咲光さくやも同じで、思わず総十郎を見る。

 首を傾げるのは八彦やひこも同じで、総十郎は一同を見ると続けた。



「そもそも、猪山いのやまは結婚を考えていた程の相手に振られたから、言われた言葉を次の……本当の運命の相手を示しているのだと勘違いをしている」


「勘違い?」


「そう。占いの内容は「振られたんだがどうしたらいい?」だ。その答えは「気遣ってくれる優しい人が現れる」だった。猪山は明確に「自分の運命の人はどんな人ですか?」とは聞いてない。……そもそもな、明らかにあれだけ落ち込んでいる相手がいれば、八彦がしたように声をかける人は少なからずいるだろう? どうしたんですかって。その中で“気遣ってくれる優しい女性”がいたら……」


「………猪山さんは繋げちゃったわけですね」



 咲光の言葉に、総十郎もそういう事と深く頷いた。


 そう。そもそも占いの言葉に次の相手を示すような言葉はない。猪山も肝心なそこを占ってもらっていないのである。だから答えも「親切な人がいる」と言っただけ。

 「どうしたらいい?」「素直に落ち込んどけ。世の中には親切な人がいるさ」と慰められたようなものである。


 総十郎も言いながら何とも言えない表情をしているが、それを聞く咲光達も同じである。



「恐らく、こういう曖昧な内容はこれまでにも多かったはずだ。明確に言われないと、どうしても都合の良い方に解釈してしまうからな」


「それが当たる占いになっているわけですね」


「………あ、そっか。実際に結婚までいかなくても、猪山さんが咲光さんっていう運命の相手に巡り合えてるから、一応占いは当たってるって事になっちゃうのね」


「…言葉って……難しい…」



 穂華の言葉には八彦も頷いたが、その真剣な言葉には咲光達全員も頷いた。

 そして八彦は考えるように視線を下げた。



「で…も……親が寝込んだとか……鼻緒が切れた…とか…」


「妖気に当てられて寝込んだ、とか。占いに来た時には鼻緒は切れる寸前だったとか」


「じゃあ盗人ぬすっとは?」


あやかしが盗んでたら返すのは簡単だな」



 次々に総十郎が看破していく。それが照真達が祠で妖気を感じたからこそ推理出来る事なのだが、穂華は少し不満そうに頬を膨らませる。

 そんな穂華に総十郎は首を傾げた。



「どうした?」


「……神来社からいとさん。見破っちゃつまんない…」


「悪いな。仕事だ」


「もーっ」



 意地悪く笑う総十郎に不満の声が上がり、咲光達も笑った。



「神来社さん。不思議な話とか信じないの?」


「ずっと不思議な生き物が視えてたからな。あぁコイツらの仕業だなっていうのは自然と身に付いた思考だ」



 ふぅんと、感心半分思う所半分というように穂華は息を吐いた。


 総十郎は咲光と照真、そして八彦を見るとすぐさま決断を下した。



「人を襲っていないという点で退治衆おれたちの役目からは外れるが、ここに居る以上見逃すことは出来ない。広まるのも良くない。早々にやめさせる」


「はい。今夜にでも追い払いましょう」


「追い払う上で二度とやらん事を誓わせる。次やったら祓衆はらいしゅう案件だ」


「……そうですね」



 余計な事は言いません。どうぞ思うようにしてください。


 決して自分の憤りだけで動く事をしない総十郎だが、穂華も八彦も何とも言えない。万所よろずどころとして妥当な判断であるから余計に言えない。


 総十郎達が動くのなら今夜の私は待機かな…とつらつらと考えていた穂華は、先程占いを看破した総十郎に、思った事を聞いてみた。



「ねぇ神来社さん」


「何だ?」


「神来社さんは小さい頃から妖も視えるし、今は神様の力を借りて戦うんでしょう?」


「あぁ」


「じゃあ、神様のお告げって本当にあるのか分かる?」



 町に居た頃から神を信じない訳じゃなかった。大変な時は願いたくなるし、神社にも参拝する事もある。

 が、今こうして咲光達に出会い、子供の頃には朧気だった存在はずっと近くにあるような感じがしている。今ははっきりと、信じていると言い切れる。

 そしてふと思い出したのが、子供の頃、神様のお告げを受けて神様に仕えた人が人々を助けるというおとぎ話を、姉が読んでくれた事だった。


 穂華の問いを笑う事なく、総十郎ははっきりと答えた。



「ある。と俺は思ってる」


「…って、分からないの?」


「そうだな。生憎あいにく、俺は神の御言葉を聞いた事がないからな」



 総十郎の答えには咲光も照真も考えさせられた。

 自分達が扱う刀は神の威を借り受ける事ができる。その御力にはこれまでも助けていただいた。



(神の力は身近に感じてるけど、御言葉か…)



 それは感じた事がない。聞いた事がない。

 腕を組みながら照真も唸る。



「うーん…。妖を倒す為に御力を貸して下さるけど、人に直接何かを伝えるっていうのはあるのかな…」


「そういうものは、それこそ神社の方の方が経験があるんじゃないのかな?」



 考える照真と咲光に総十郎も笑う。



「俺の父さんでも経験があるとは聞いてないな。ただ、神のお告げを受けたって人は知ってる」


「えっいるの!?」



 穂華だけでなく、咲光も照真も八彦も驚いて総十郎を見た。

 驚きいっぱいの目に総十郎は確かに頷く。



「祓衆“とう”の雨宮あまみやさんだ」


「雨宮さんが……?」


「俺も聞いただけだが。小さい頃に神のお告げを受けて、それで万所に入って、家でもある神社で巫女をしてる」



 なんと意外に近くに!?

 衝撃の事実に目を瞠り口が開く咲光達。


 少しだけ言葉を交わした雨宮。物静かで、どこか近寄りがたい空気を纏う人だった。はっきりと思い出せる。



「ほ…本当に……?」


「俺も聞いただけだ。それで子供の頃に万所に来てる。まぁ……神のお告げっていっても互いに喋るような会話じゃないし、願いを聞いてくれるようなものでもない。本当に一方的なものらしい。神とは本来そういう御方だ」



 だから、神が力を貸して下さるのは、妖退治がそれだけ重要であるという証明である。


 神は負を嫌う。負を好みそこに潜む妖を嫌う。万所が成している事は、思う以上に重要な事なのである。それを感じ咲光達も背筋が震える。



「頑張らないと!」


「うん」






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