三週目
フィン様とのケンカの日以来、レンは随分と明るくなっていた。
これが素の性格なのだろうか。
「騎士団にお届けしてきました。っと、シエル様、メーア様いらしてたんですね」
「そうよ。お兄さまと遊ぶのよ」
「兄さまと遊ぼうと思って」
明るくなってからのレンはすぐにシエル様とメーア様と打ち解けて気さくに話している。
文字が書けず読めないので誰が一番にできるか競争をしていたことも大きい。
時折、シエル様がおかしな影響を受けているのが気にかかるが幼い子供のごっこ遊びとして受け入れられている。
「フィン様のお勉強のジャマになるので静かにしてて下さいね。ああ見えて心の中ではイライラしてますから」
そして、際立って見えたのはレンは人の機微に聡いことだ。
自分から手を出すことはほとんどなく、自分に降りかかるものを受け流すためだけにしか使ってはいないが。
「えー、兄さまは怒ってないよ」
「怒ってないでしょ、ね、ジル」
メーアがフィン様の従者ジルに尋ねる。
ジルでもよく見ればそうかもしれないといったふうで、フィン様は読み取られせない。
「私には分かり兼ねますが、そう見えなくもないですね」
フィン様の感情の変化は長く仕えている者でも読み取りにくいというのに、レンは三週間あまりなのに易々と読み取る。
「一度外に出ましょうか」
そう言ってレンはシエル様とメーア様と一緒に部屋からでる。
時間を確認してブーブーと言う二人を連れてフリーズ様の元に向かう。
家族の団欒室、その場所で王子と王女とともに机を囲みおやつを食べる。
シエル様メーア様と取り合いをしているあたり、レンは容赦がないようである。
子供たちの話を聞きながらクスクスとフリーズ様は笑う。
「フィンもよく見ればわかるのよ。だけど、どうして怒ってたのかしら」
疑問を口にしたフリーズ様にレンは頰をかいて答える。
「問題を解く手が止まっていたので解説をしたのですが、それが癪に障ったようですね」
「そうだったの。レン君はフィンの表情を引き出すのが上手ね」
ふんわりとフリーズ様が微笑む。
おやつも食べ終わり雑談の途中、レンは時計を確認して、食器を片付け始める。
「そろそろフィン様の宿題も終わる頃ですね」
「いこ」
「やったぁ」
はしゃいで廊下に出たシエル様とメーア様をレンは走る直前で引き止める。
「走らない。メイド長が見たらお説教ですよ」
ついでに俺もお説教されると付け足して、歩いてフィン様の部屋に戻る。
部屋に戻ればすまし顔のフィン様がいて、シエル様とメーア様がフィン様に遊ぼうと騒ぐ。
ジルがたしなめるが言うことを聞く二人ではないのでスルーされ、レンが遊びの提案をして落ち着く。
フィン様はレンにも混ざるように言って、すごろくが始まる。
どうにもフィン様とレンは似たようなところがあるのか、フィン様はレンを一方的にライバル視している節がある。
なにか思うところがあるのかレンは、時折懐かしそうな顔をしてフィン様をからかっている。
その頃からフィン様を大人びた子供とみる使用人たちは減っていき年相応の子供と扱うことが多くなったのは別の話だ。




