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二週目

 オーグスト様の言葉に救われたのか、レンは、諦めの色が少しだけ消えてわずかな自信が見えた。


 前よりも思ったことを伝えてくれるようになった。


 記憶喪失とは思えないほどの膨大な知識を持ったレンは、こちらが考えもしないことを提案したりと、周囲が驚くほどに優秀だった。


 レンが働き始めてニ週間、簡単な仕事は任されるようになっていた。


 先輩に監督されながら、教わった通りに紅茶を淹れてフィン様に運ぶ。


 その間一度もレンは先輩に口出しをされず、しっかりとやってのけた。


 目の前に出されたカップを口につけ、フィン様はわずかに驚く。


 おどおどと自信のなさそうな、手慣れない動作からは想像がつかないほどに出来が良かった。

 教わり始めてから2週間とは到底思えないほどだった。


「さすが天才」

「それは、違い、ます」

「2週間やそこらで大抵のことは覚えて考えもつかないようなことを思いついて――」


 レンは呼吸をするように否定をして、フィン様の言葉にレンは揺らぐ。

 なにかがせめぎ合っているように。


 小さな声はフィン様の言葉遮って、だんだんとハッキリと声を上げる。


「………じゃない。俺は……………恵まれた環境のフィン、様にはわかるわけない‼︎」

「なんだよ、それ。なにも知らないのにわかるわけないだろ」


 レンの叫びにつられて、フィン様の声もついつい大きくなる。


 フィン様の言葉にレンは目を開いてビクリとしたあとフィン様の部屋から出ていった。


「……なんなんだ、あいつ」


 珍しく感情をあらわにしてフィン様が呟く。

 呆れながらもどこか怒っているようで、それは久しぶりにみるフィン様の子供らしさだった。


 そこへ、ちょこちょこと様子を見に来るフリーズ様がやって来る。


「あら?レン君はいないのね。フィンは機嫌が悪そうだし、なにがあったの?」

「はい、実は――」


 フィン様の従者がどちらの味方もせず、ただありのままを伝える。


「そう、ありがとう。あの子は記憶喪失というより、なんていうのかしら、迷子ね」

「その方がしっくりきますね」


 フィン様と従者も記憶喪失や記憶が戻ったにしてはおかしく思っていた。

 記憶喪失と呼ぶには、あまりにもレンはこの世界の常識だけが抜けていて、誰も知らないような知識をもっている。


「フィン、少しだけあの子の成長を見守ってあげて。きっと、あなたの方が精神的には大人だもの」

「……迷子、なら」


 フィン様が渋々といったふうに呟く。

 それがフィン様なりの肯定だと知っているフリーズ様は微笑えんだ。


「頼むわね。それじゃあ、探しに行ってくるわ」


 フリーズ様はやたらと探し回ることはせずに、確信しているように歩みを進める。


 その姿は慈愛に満ちた母親のようだった。

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