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花田種苗の5人姉弟妹  作者: グレープヒヤシンス
第1章
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遺書

翌日になっても、マスコミにもネットにも、会長の件は出ていなかった。登校しても、特に変わった雰囲気は無いようだった。委員長は、担任を相談室に呼び出し、学校がどの程度把握しているのかを問い詰めたが、今朝になって会長のお母さんから、死亡の連絡が入っただけなので、俺達の方が情報を持っているくらいで役に立たなかった。

スマホは何度もチェックしているが、新しい情報は無いようだ。授業なんて頭に入る訳もなく、ただひたすらに放課後を待った。姉達も落ち着きがないので、先生達が不思議そうにしていた。

やっと午前が終了。生徒会室に、何か隠していないかを漁った。私物は殆ど無く手提げ袋にきちんと整理されていた。生徒会の仕事に関しては、詳細な引き継ぎ書を作成していて、向こう一年間は困らないようになっていた。各役員にもマニュアルが用意してあった。パソコンのパスワードは、前日に委員長が聞いていたそうだ。『QWERTY』キーボードの数字の下の列の左から6つだな。パソコンを起動し会長のIDでログイン。パスワードを入力。出て来た画面の真ん中に『小雪へ.txt』と言うファイルがあった。開いて見ると、

『今まで有り難う、そしてごめんなさい。』

それだけだった。全てがきちんと片付けてあった。元々整理整頓が好きなタイプなので、普段使うような私物を少し持ち帰ればここまで完璧に出来るのだろう。


午後の授業も終えて、何の収穫もなく帰宅した。家でも会長の話しだった。何があったのかきちんと知りたい。一連の事件に関係しているのであれば、俺たちに種明かししてくれてもいいんじゃないかな?

Eye(あい)も、そう思うでしょ?」

瞳先輩に貰ったクマなので『Eye』と名付けていた。

「君、鼻が効くんだだってね!そう言えば、ちょっと大きめかな?」

隣で項垂れているいろはの鼻先にEyeの鼻を擦り寄せて、クンクンさせた。いろはは、Eyeを奪って、

「もみじの方が怪しいぞ、クンクン」

鼻と鼻を押し付けた。ん?気のせいか?刺繍で出来た鼻を摘まんで見ると、ぬいぐるみらしくない、硬い感触。少し強く弄ると、刺繍糸の隙間から。MicroSDカードが出て来た。

早速姉達と委員長を呼んで、中身を確かめた。いきなり聞かれたパスワードに『QWERTY』と入力して解除。中身は遺書だった。


花田姉弟妹(しまい)の皆さん、秋野さん、そして小雪。面倒な事に巻き込んでしまってごめんなさい。


水島君が亡くなったのは、私が原因です。彼とは、小学生の頃から友達でした、私は純粋に友達として付き合って今したが、彼は私の事を異性として好きでいてくれたようです。畠山に脅されているのを知って助けてくれようとしていたようです。あの不審者が彼とは思いもよらず驚きましたが、畠山に取り入って解決するつもりだったんだと思います。

畠山に脅されていたのは、うちの生徒のレイプ動画を拡散したくなければ、付き合えという内容でした。初めは、被害者のクラスと名前を告げられ、真偽を確かめるべきか悩んでいた所、その子は直ぐに転校。次に届いたのがその子の新しい学校の情報と、新しい制服の写真でした。次は、制服のリボンと、生徒手帳のコピーが郵便受けに入っていました。別の生徒のもので、その子を調べようとしたら、本人に、酷く罵られました。なんとかお話しを聞くと、私への嫌がらせの為に被害にあった事を知らされていたようです。

その次は、3人目は誰が良いかと言って来ました。私が付き合うか、被害者を増やすかの選択を迫られ、二人の動画と引き換えにデートしました。水島君が殺されて数日の頃です。動画は、自宅のサーバーに保存してあるので、一緒に来たら目の前で消去する約束で付いて行って、約束通り消去はしてくれました。中身を確かめさせてあげると、動画を全て観るのが条件で、二人の悲惨な姿を見せつけられ嘔吐してしまい、トイレから戻るとペットボトルの水を貰って、睡眠薬とかを心配して、キャップをしっかり確かめてから、グラスに注いで飲みました。後で畠山は種明かしだと言って、グラスに睡眠薬を塗ってあったと自慢していました。普段から、ボトルから直接飲むが下手な事を知られていたんですね。

何も抵抗出来ず、さっき観させられた動画と同じ事を私が録られ、ご丁寧に映り具合の確認までさせられました。その時の動画と、畠山に会った時のボイスレコーダーのデータは、このメモリに保存してあります。

告訴に必要な書類は、自宅の机の下に隠してあります。両親への遺書もありますので、手続きは父に任せて下さい。


ご迷惑おかけしてごめんなさい。

大森 瞳


なに?バッドエンド?

畠山に会う前に言ってくれたら、まだ手が打てたかも知れないのに!


すっかりお馴染みになった刑事さんと、『論春』の記者さんに立ち合って貰い、会長の机を捜索。1番下の引出しを抜いたその下に隠されていた。

お父さんが書名捺印するところには付箋が貼ってあり、直ぐに準備できたので、刑事さん達の車で警察署に向かった。


とてつもない虚無感で自宅に向かった。先の二人の被害者にも連絡し、動画は消した事を伝え、告訴の意思を確認した。転校した子は、関わりたくないと言って、以後連絡もしない事になった。もう一人は、会長を責めた事を深く悔やんでいて、自分も戦うと告訴するそうだ。その場合の証拠として、脅迫電話の通話録音と、送り付けられた、制服のリボン、生徒手帳のコピー、届いたときの封筒を保管してあった。これだけ気が付くのに、どうして最悪の結果を選んだんだろう?


「お墓を選んだのも、瞳らしいね。」

委員長が、ぽつりと声にした。

「自殺現場が、心霊スポット扱いされたりすると、そこの関係者に迷惑掛けちゃうからね。どうして廻りには気が効くのに、自分には気を使わないんだろうね。」


時は過ぎて、一学期を終えた。夏休みをはしゃぐ気力は無かった。畠山は、二件の傷害と強制性交、二件の自殺幇助、違法薬物の製造・所有・販売等の罪に問われる事になった。素人考えでは、かなりの重罪だが、未成年者なので、しばらくしたら、出てくるのだろう。逆恨みで、面倒を起こすんじゃないかと今から憂鬱だ。


学校は落ち着きを取り戻し、委員長が会長代行を兼ねて、瞳ロスの学校前を盛り立てていた。千葉達の柔道部は、個人戦は3人とも県大会突破、団体戦は惜しくも決勝で敗れた。今遠征中だ。ベスト8以上でまた祝勝会を開く事になっている。ずっと悲しい話しばかりだったので、県大会突破の時も誘ったが、団体戦も勝ったらって約束だったので、遠慮して出来なかった。明るいニュースを期待したい。


明るいニュースと言えば、アメリカに住む父の所にいる義妹が、遊びにくる予定だ。物置代わりにしていた部屋を大急ぎで片付けている。姉達は、手伝ってくれているつもりの様だが、懐かしい品々を堪能しているようにしか見えない。いろはと雨は頑張ってくれているが、姉達に捕まって、あまり成果が出ていなかった。この理不尽な関係がなんとなく、日常に戻ったようで、少しほっと出来た。

「ねえ、もみじ!晩ごはん冷やしラーメンがいいな!」

「賛成!!」

全員一致だった。

「リサイクルショップ持って行く分片付いたら作るよ!」

明日、母が帰ってくる。未成年者だと買い取りが面倒なので、なんとか間に合わせたかった。そう言ってるうちに、古い写真が出て来て、片付けなんて無理な空気になってしまった。諦めて、ラーメンを茹でにキッチンに向かった。

こんにちはグレープヒヤシンスです。

第一部は、ここまでで終了です。読んで頂きまして有り難うございました。

カレンがやって来る第二部は、少し考えてから載せようと思います。

涼しくなった頃には再開したいと思っていますので、しばらくのご無沙汰ご容赦願います。

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