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オレンジ6

「お母さん。ネバーランドって本当にあるの?」

と姉さんは母さんに目をきらきらと輝かせながら言った。私も姉さんと同じような顔つきで言った。

「じゃあ、ネバーランドに行こうか」

と母さんが言ったら、いつの間にか船の中だった。

「すごい」

と姉さん。

「すてき」

と私。

海の上にはゼブラとエレファントが走り出して、何か幻想的。

そんな中、姉さんはゼブラの背中にまたがり「ネバーランドまで行け」と輝かしい笑顔で叫んでいる。私もエレファントの背の上に跨り楽しいとは言葉には出来ないほどだ。まるでラッセンが描いた絵の中にいるみたいだ。

ハッと気がつくと毎度のこと姉さんの夢を見ていた。すばらしい夢だったので、空に向かって姉さんに問いかけた。


姉さんは死んでなんかいないんですね。いつまでも私の心の中で生き続けてください。そして、私をいつまでも見守っていてくださいね。

それと姉さん。どうやら今日はすてきなことが起こりそうなのです。それは姉さんもご存じの通り私は店を任され何かすごいドキドキしています。ちょっぴり不安だけど、きっとすてきな出来事に遭遇するんじゃないかと予感しています。


窓を閉めベットから出て母さんに笑顔で「おはよう」と言った。

「おはよう亜希子」

と笑顔で返してくれる母さん。

「母さんどうしたの?私の顔を見つめて」

「うん。亜希子が幸せだと母さんも幸せだなあーって思えて仕方がないの」

「私は今、とても幸せだよ母さん。天国、いや私の心の中にいる姉さんもきっと幸せだよ」

「そうね」

と言って突然涙を流してしまった。

「どうしたの母さん」

涙を流す母さんに心配する私。

「うん。亜希子がこんなにも元気になってくれて母さん嬉しいの」

「そうなの?」

「ええ」

「今日さあ、ホットイップクでお店を開くの」

「そうなの?」

「うん。ちょっと私一人でやるのは不安だけど、きっと何かすてきなことが起こるんだと私は予感しているんだけどね」

「一人でやるの?」

と母さんは驚きの表情。

「うん」

「大丈夫なのかい」

「うん。分からないけど、やってみるよ」

と言って母さんにちょっとした戯れで軽く口づけをしたら「このこったらもう」と言って軽く笑顔でひっぱだかれた。

外に出ると、空は青く透き通った色で太陽の日差しが、積もった雪を金貨のようにきらきらと輝かせている。今日もすてきな一日が始まる予感がしていた。



「おはようございますサユリさん」

とホープの店に入って笑顔でサユリさんに挨拶する私。

「おはよう亜希子ちゃん」

と私と同じく笑顔をくれた。すてきな一日の余韻かな?

「サユリさん」

「なあに」

と言って手を止めた。サユリさんはカウンターの中で何か作業をしているので、

「手伝いましょうか?」

「いいえ、もう良いわ」

「そうですか」

「亜希子ちゃん。座って座って」

「はい」

と言われるがままにカウンター席に適当に座った。

カウンターの中をのぞき見ると、サユリさんはコーヒーミルからコーヒーをひいて二人分のコーヒーを作っている。

「お待たせ」

と言って、私にコーヒーを一杯、サユリさんの分合わせて二つ分置いた。

私はコーヒーは苦手だったが、せっかくサユリさんが出してくれたので飲むことにした。

角砂糖を入れ、ミルクを入れて、かき回して、すすると言葉では表せないほどおいしかった。

「おいしいですこれ」

「そうでしょ。私のおばあちゃんが五年かけて出した味よ」

「そうなんですか」

と感心する私だった。

「エエ、そうよ」

とサユリさんは得意げに女神様スマイルだ。

「ヘー」

「亜希子ちゃん」

「はい」

「今日は私、スクールカウンセリングだから、午後一時から五時までお願いね。それとメニューはコーヒーと紅茶とスパゲティミートソースだからね」

「スパゲティミートソースってどう作れば良いんですか?つーか、そんなこと聞いていないんですけど」

「じゃあ、早速作ってみましょうか」

早速作ってみて簡単だった。スパゲティの麺は八分湯でてアルデンテの完成だ。ミートソースはレトルトで買ってきた物だ。

早速試食して、サユリさんは、

「あんまりおいしくないね、こんなんじゃお客さんに出せないね」

私も同感だ。おいしくない。

「やっぱり、おばあちゃんの味はこんなレトルトのミートスパゲティじゃなかったわね」

当たり前だ!と言ってやりたい。レトルトのミートソースが愛情こもった手作りにかなう分けないだろう。

「じゃあ、亜希子ちゃん。今日はコーヒーと紅茶だけね」

「わかりました」

午後になり、サユリさんは車で学校へと向かっていった。

開店まで三十分前、私は落ち着かなくて店内をうろうろしていた。

あーやっぱり緊張している。でもどんなお客さんでも来てコーヒーを作ってしまうことを想像してしまうと、なんかワクワクしてくる。

そんなこんなで三十分は立ち、店は開店ドアに鈴をかけ、プレートをCLOSEからOPENへ。

私は外に出て、立ちつくしていた。

一時間が経過して、私は立っているだけでも疲れて、寒くなるので店の中に入り、ジュークボックスをいじっていた。

つけかたを知らないので、私はカウンター席に座って、体を伏せていた。退屈だ。なんて事を引き受けてしまったのだろうとちょっと後悔してしまった。

ドアが開く音がして、振り向いてみると、

「いらっしゃい」

と言ったら、品の良さそうなおばあちゃんが入ってきて、

「やってるの?」

「はい。営業してますよ」

「座って良いでしょうか?」

「はい良いですよ」

と言ってカウンター席の方へ案内してあげた。

そのおばあちゃんは、

「コーヒー一杯いただけないでしょうか?」

とにっこりと笑っていった。この人年は取ったものの昔は美人じゃないかと思えた。

「はい」

私は早速コーヒーミルを引いてお年寄りのお客様にもてなした。

「ごゆっくりどうぞ」

と言ってお辞儀した。

「あなたがこのお店を開業したの?」

「いいえ違います。フリースクールホットイップクの塾長のサユリさんが開業したんです。その元で私は働いています」

私はニートではなく働いていると実感している。

「エエ?サユリちゃんが?」

目を丸くして驚いているおばあちゃん。

「ご存じなのですか?」

「そうかあ、自分のおばあちゃんが経営している店を継いだ訳ね」

「そうみたいですね」

「サユリちゃん元気?」

そう言われたら、「はい元気です」と言うだけだ。本人はどこからどう見ても本当に元気だと思う。

「あー懐かしい。二十年くらい前かな、よくここでお友達と一緒にお茶したの」

感慨深そうに思い出を語るおばあちゃん。

「それは楽しそうですね」

「私はねえ、もう亡くなっちゃったかもしれないけど中村サナエ先生の生徒だったの」

「エッ、サユリさんのおばあちゃんって学校の先生だったんですか?」

「そうよ。それはまだあなたやサユリちゃんがまだこの世に生を受けてない頃よ」

「そうなんですか」

私はお客さんのおばあちゃんが座っている隣のカウンター席に座り込んだ。私はその話に興味があったからだ。

「戦争中この村であの人だけ戦争に反対していたの」

「戦争を反対するとどうなるんですか」

私は歴史には弱いので、自分がまだ無知だと認めている。

「非国民と呼ばれてねえ、迫害されるのよ」

「そうなんですか」

「あの人は先生を辞めざる事を余儀なくされたのよ。そしてここのお店を開いたのよ」

「そうなんですか」

「私も戦争には反対だったわ。密かに中村先生を応援していたんだけどねえ」

私も同感だ戦争なんて、悲しいことしか生まない。戦争に勝って万歳三唱している人の気が知れない。

「中村先生は良いところのお嬢様だったんだけど、戦争を反対していることがばれて親に勘当されたのよ」

「お客さん。お名前は?」

「加藤こずえです」

「お年は?」

「それは秘密だね」

「そうなんですか」

と会話は途切れ、サユリさんのおばあちゃんの中村先生のことを思った。すごく立派な先生だったのがおのずとわかる。

私は加藤こずえさんと会話に夢中だった。私は心の底から嬉しかった。

それはただ単純にすばらしい人に出会えたからだ。最初店を任されたときは不安だったけど、やってみると楽しい。そして楽しいことは時間なんてアッと言う間に過ぎてしまう。もうそろそろ午後五時になりそうだ。私はこの人ともっと話していたいと思ったが、

「ただいま」

と言ってサユリさんがスクールカウンセリングから帰ってきたみたいだ。

「お帰りなさい」

と私が言ったら、サユリさんは穏やかな笑顔で、

「こずえさん。まだいってなかったんですね」

「うん。ゴメンね。ここでもう一度お茶をすすりながら、誰かと会話してみたくてねえ」

私は二人の会話が見えなくて「はあ」と疑問の声を漏らしていた。

「大きくなったわねえ、サユリちゃん」

「はいおかげさまで」 「今日は楽しかったよ」

とこずえさんが私に一万円札を出したので

「ちょっとお待ちください」

と言ってコーヒー一杯三百円。レジに行こうとすると、

「お釣りなんかいらないよ」

とこずえさんは言う。

「でもこんな大金受け取れませんよ」

「亜希子ちゃん。信じられないかもしれないけど、こずえさんはもうこの世の人じゃないのよ」

サユリさんの話を聞いた私はすさまじい悪寒に体が凍り付きそうだった。

こずえさんは幸せそうに私を見つめ「ありがとう」と言ってサユリさんと私の目の前から、泡のように消えていった。

その光景を見て私はビビッて膝から力が抜け床に伏してしまった。

夢じゃない。紛れもない現実だった。

「大丈夫亜希子ちゃん?」

心配そうにサユリさんは言う。

「うん。大丈夫ですけど、何なの?お化け?」

「うん。お化けだけど、こずえさんにそう言うのは失礼だから何だろう」としばらく人差し指を唇に当て考え込んで「私にもわからない」といたずらな笑みで舌を出している。

「サユリさんはこずえさんが来るのを知っていたんですか?」

「うん。でも亜希子ちゃんなら、こずえさんを満足させられるんじゃないかって思って黙ってて悪かったんだけど、まあ良かったのかなあ」

「そうですか、せっかくいいお友達が出来たと思ったのに残念だな」

としょんぼりしてしまう私である。

「大丈夫だよ。これからいいお友達が亜希子ちゃんにはたくさん出来るから、それは私が保証するよ」

と背中をたたくサユリさん。

少し元気が出て、窓の外を見つめた。

外は夕焼けがすごくきれいで、誰をも引きつけるようなきれいな景色だった。物語のエンディングにふさわしい一日の締めくくりだ。

「これ」

と言ってこずえさんからもらった一万円札をサユリさんに渡した。

「良いのよ。亜希子ちゃんがとっといて」

「じゃあ、サユリさん」

「なあに?」

「このお金でおいしい物を食べに行こうよ」

「エッ?いいの?」

「はい」

その後、私とサユリさんは食べ放題の寿司屋に行って私は六カン食べサユリさんは三十カン食べきった。まだお釣りがあったので、カラオケで一時間歌いきった。

私はもうへとへと。帰りは車でサユリさんに送ってもらった。


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