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オレンジ

私の名前は北野亜希子、年は十七歳。一年前姉さんが死んでショックで悲しみにとらわれ、高校を辞めてしまい引きこもり生活をしている。

引きこもって一年、私は外にでるのもおっくうだった。

「亜希子」

と母さんの声がドア越しから聞こえた。どうやら朝食の用意ができたようだ。

「朝食ならドアの前に置いといて」

「うん。亜希子。いつまで引きこもっているつもりなの?たまには母さんに亜希子の顔を見せてよ」

心配そうに言う母さんだった。

「ねえ、母さん。姉さんは受験で失敗して自殺してしまったんでしょ。どうして母さんは無理に一流大学を進めたの?」

 私のセリフに怒りが込められているのか?全身がプルプルと震えている。

「それは母さんも後悔しているよ。だから亜希子には普通の社会人として無理せず貢献してほしいのよ。だから引きこもってないで出ておいでよ。母さん亜希子には姉さんの思いはさせないから」

「何なんだよ。どうして姉さんには無理難題なことを押しつけたんだよ。姉さんは受験中苦しんでいたんだから」

と私は部屋の前にいる母さんに泣きながら大声で言った。

「ゴメンね亜希子。許してなんて言っても許してくれないよね。母さん亜希子に対して何をすればいいのかな?」

「どうすることもできないよ」

と言って部屋に出て母さんと面と向かった。

「亜希子」

と母さんは驚いて目を丸くしていった。

「母さんなんか死んじゃえばいいのよ」

と言って、母さんを両手で突き飛ばした。そしてリビングに行って憤りまかせにテーブルをひっくり返してタンスを倒して花瓶を手に取りテレビの画面にたたきつけ壊した。真空管が割れた激しい音と友に私は立ちすくみ涙を流してしまった。

もう姉さんなしではいきられない。私も姉さんのところへ行こうと思った。母さんは黙ったまま泣いているだけだ。

自分の部屋に戻り私は手首をナイフで切り裂いた。このまま姉さんのところに行けば本望だった。

流れる透き通る血、私の意識は少しずつ・・・


目が覚めて気がつくとそこは病院だった。体を起こすと母さんが私の手を握りしめていた。

「母さん」

と呼ぶと母さんは、

「この甘えっ子」

と叫んで私の横っ面をびんたした。

「あんたがいなくなったら私は何のために生きればいいのよ。もうバカなことだけはしないで。あなたを姉さんみたいな生き方をさせないから」

と号泣する母さん。

「母さん。じゃあ姉さんは?」

「お願い。私が言うのも何だけど姉さんの死を無駄にはしないで」

私の胸に顔を埋めて泣く母さん。

私も涙を流してしまいその時母さんの思いやりが心に身にしみ、これからは母さんのために生きようと考え始めた。

 でも、姉さんを死に追いやった母さんは許せない。

 でも母さんの悲しそうな涙を見るのは何故か辛い。

 でも、でも、私の心の中は散らばったガラスのように複雑で整理するには一筋縄ではいかない。

「じゃあ、母さん仕事だから行くけど、もうバカなことは考えないでね」

涙を拭いながら言った。

私はベットに横たわりながら姉さんの思い出に浸っていた。

姉さんは私の太陽みたいな人だった。小さい頃から私は姉さんに甘えてばかりだった。勉強とか教えて貰ったり母子家庭だからと言っていじめられた時、優しく慰めてくれたりいつも私に対して世話をしてくれた。

そんな姉さんはいない。

 それに高校を辞めてしまった私は何をすればいいのかわからない。

窓の外を見ると道路も木も山もすべて私の好きな雪化粧になっている。

じっと見つめていると姉さんが死んだ悲しい気持ちが少しだけいやされた私だった。

だから私はその悲しみをそっと遠くへおいて前に進もうというのが私自身の門出の一歩なのかもしれない。

私は四六時中窓の外の景色をずっと眺めていた。

 何故か分からないが少しずつ私の複雑な気持ちが整理されていく。

やがて景色は夕暮れになり夜の闇へと代わり町はまるでパレードのように色とりどりのネオンを放っている。

すごくきれいで私の心を喜びに満ちたオレンジ色へと変わり自然と笑みがこぼれ生きていることのすばらしさを知った時だった。

時計を見てみると二十時を示していた。

そんなとき私の病室からノックの音が聞こえた。

「はい」

と返事をすると男の看護士が入ってきた。

「北野亜希子ちゃん。お食事持ってきたよ」

とおどけた声で言うその人はネームプレートに佐久間さんと描いてある。

そんな佐久間さんを見て思わず笑ってしまい笑顔で、

「ありがと」

と言った。

「あっ亜希子ちゃんが笑った」

と大げさに目を丸くし声を張り上げて佐久間さんは言う。

そんな看護士の佐久間さんは人を笑わせる為に生まれてきた道化師みたいな人で再び笑ってしまった。

「亜希子ちゃん。心配だったのだよ。二日も眠り続けて気分はどう?」

「うん。少し楽になった」

久しぶりに笑顔がこぼれた。

こんなに高らかに笑ってしまったのは一年ぶりだ。

「お母さん。亜希子ちゃんが眠っている間ずっと泣きながら側にいたんだよ」

「そうなんですか?」

と母さんの私に対する愛が身にしみる。

「だからもうバカなことはしちゃダメだぞ」

私はにっこりと笑いながら首を静かに縦に振った。

「じゃあ食事はここにおいておくからもりもり食べて元気つけるんだぞ」

と言って佐久間さんは食事を置いて私の部屋から出ていった。

私はここ最近ろくに食事をとってないから窓にうっすらと映った私はまるでゴボウのようにやせこけてしまっている。

だから私は食事を食べることにした。

献立はお粥にみそ汁にサンマの塩焼きにフルーツのリンゴだ。

おいしいとは言えない代物だったがこれから元気に健康に生きるために一時間かけて全部食べ終えた。

満腹で眠くなり体を布団にうずめて静かに眠りについた。

「亜希子」

と笑顔で現れる姉さん。

私はもう慣れてしまいこれは夢だと言うことに気づいてしまっている。毎度毎日眠るたびに姉さんは出てくる。でも私はそれでも嬉しいので何も言わずに姉さんを抱きしめるのだ。そのぬくもりは体の心まで浸透して嬉しくて涙を流してしまう。

私はいつも思っていた。夢ならさめないでと。

目が覚め体を起こすと涙が止まらない。これもいつものことだった。

姉さんは海に埋めてリストカット自殺したんだ。

その時は残酷な悪魔が振らせるような雨が激しく降っていた。それに稲妻も落ちていた。 姉さんの遺体を見たとき私の目の前がすべて真っ暗になってしまった。人は絶望や恐ろしい悲劇に遭遇してしまうとそうなってしまうみたいだ。

もう考えるのはよそうと思って、テレビをつけた。

チャンネルを回してニュースはさけた方が良いと思った。

それはニュースって悲しいことばかりで私は憂いを帯びたブルーに染まってしまう。でも朝はどの番組もニュースしかやっていないのでため息をつきながらテレビを消してカーテンを開けて窓の外の景色を眺めた。

それはすべてを優しく包み込むような雪が降っていた。見ていると心が温かくなるような感じだったので、思わず目を閉じて、胸に手を添えた。

そして誓った。姉さんが死んだことに悲しみはとぎれないけど私は白い雪のように優しく強く生きたいと。もし悲しみの終着駅に到着したら、それは優しくリンと鳴る花が咲くんじゃないかって思う。それを見つめるだけでオレンジ色の嬉しさに満ちるんじゃないかって。きっとそれが姉さんの死を無駄にはしないってことになるのだと思う。


退院日。

「じゃあ、佐久間さん。お世話になりました」笑顔で一礼した。

「おう。もうお母さんに心配賭けるんじゃないぞ」

と私の頭をなでるピエロのような看護士の佐久間さん。

「じゃあ、亜希子。帰るわよ」

と言う母さん。

病院の外に出て母さんは、

「亜希子」

「何?母さん」

と笑顔で言ったら、

「亜希子元気になったわねえ」

「うん」

「亜希子。今日は母さん会社に休み取っているからどこか遊びに行かないか?」

「久しぶりにカラオケに行きたい」

私は一年ぶりに外の冷たく心地の良い空気に包まれ私は気持ちよかったのでそう言った。

「そう、じゃあ行こうか」

と言って車にエンジンをかけ走行して二十分でカラオケ屋に到着した。

私と母さんはボックスに入って、

「ねえ、亜希子」

と私を呼ぶ母さんは姉さんのことを語りかけるような感じだと分かったので、

「もう良いよ母さん」

と笑顔で言ったら、

「亜希子?」

「私とにかく姉さんのことは無駄にはしないから」

「本当かい」

と母さんは嬉しそうに涙をこぼしていた。

「うん」

「じゃあ、母さんのことも許してくれるかい」

「許すも許さないもないよ。とにかく私何か探してみるよ」

「そうかい」

「とにかく歌おうよ」

私はミスチルのトゥモロウネバーノウズを入れ、歌い出した途中立ちくらみが起きて床に伏してしまった。

「亜希子」

と慌てて駆け寄る母さん。

「母さん」

私はめまいが起こるほどに疲れてしまったみたいだ。きっと一年も外に出ずに体力が消耗しているのだろう。遊ぶとき有頂天になっていて、自分の体力が衰退していることを分かっていなかった。


家に帰り、私は不安で母さんの目の前で泣いてしまった。自分の体力がなかったことにふがいなかったのだ。

「亜希子。少しずつで良いから体力を付けていこう」

と言うセリフに私は死にたいと思っていたことを一転させるかのように不安は遠退いた。

泣きながら頷く私。

人間はよく一人では生きてはいけないと言うのが本当だと改めて分かった。そして母さんは私にとってかけがえのない存在というのも。

もう遅いので私の部屋に戻り眠りにつこうとしたその時、私は姉さんが死んでから書いていない日記を思い出した。

それは私が引きこもってから一年間時が止まったかのように綴られていなかった。だからこれは一年前の日記だ。

読んでみると一年前、私は一度もネガティブなことは綴ってなかった。引きこもってネガティブだった頃はまるで時計が壊れたかのように動いてなかったのだ。だからこれからは動かしていこう。日記の題名はオレンジの日々。今日から前向きに書いていこう。


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