へーんしん…?
師匠の手術から生還したら、仲間が失恋パーティー開いてた。
俺と師匠が変態の種と壮絶な闘いを強いられてる時にこの三人は何してるんだ。
気持ちは分かるけど、思わず白い目を向けると、泣きながら。
「隆二さんに私達の気持ちなどわかりませんわ!」
八つ当たりしてくるルルさん。
「わかりませんよ、当たり前じゃないですか。」
俺男だし。
「師匠にあれほど可愛がられていて、それか!」
「息子扱いなだけなのは誰が見ても明らかでしょ。」
俺に何を求めてるんだ。
「師匠のお嫁さんがあんな素敵な人なんて、勝ち目ないじゃない!」
「だったら、新しい恋でも見付けりゃいいじゃないですか。」
俺は知りません。
「そんなに早く次の男を見つけられるか!」
「隆二さんは私達を何だと思っていますの!?」
え?肉食系女子。
「隆二さん、今凄く失礼なこと考えてなかった?」
気のせいです。
と言うか、マリサテレスさんは何処に行ったんだ?
「…祈りの時間だからと、聖堂に行かれましたわ。」
「そんな大事な時間に酒をむさぼる勇者パーティーとか…。」
最低ではないだろうか。
「じゃなきゃやってられないわ!」
三人の失恋の傷は深そうなのでそっとしておくことにした、ぶっちゃけめんどくさい。
まだえぐえぐしている三人を放置したまま、師匠の所に戻ったら。
「師匠?何やってるんですか?」
師匠が変態の種で遊んでる。
「奴の居所まで案内させる。」
端的な師匠の言葉、…遊んでるわけじゃなかった。
案内?種に?葉っぱでも伸びるんだろうか?
俺のあほな考えを察知した師匠により愛の一撃。
「いってぇ。」
暴力反対!
「お前はいつになったら物事を良く考えれるようになるんだ。」
…ぐうの音も出ない、はいはい、お馬鹿さんですよ、すみませんでした。
「じゃあ、どうするんです?そんなもん弄り回して。」
「お前の血肉を一部取り込ませて、さも奴の支配下に置かれたように見せかけて、奴の所まで飛ばさせる。」
…なるほど、確かそんなスズメバチの巣の取り方あったな、それと同じか、それにしても…。
「俺の血肉?」
「さっき、嫌と言うほど持っていかれただろう。」
ああ、はい、手術したのが師匠じゃなかったら死んでるレベルの状態でしたね、内臓丸ごと取り出されるわ、肋骨半分持ってかれるわ、血液がまるっと入れ替わったと言われても納得するレベルだったし、師匠は師匠で何度腕を切り落としたやら、どうも一度俺の血肉を種の中に取り込んで、魔人に作り替えようとしていたらしい、麻酔してても何度か昇天しかかった俺は変態のおもちゃにされたくない一心で何とか乗り切ったけど、普通なら死んでると思う。
「状況は判りましたけど、そんな種一個で飛んで行けるんですか?」
「だから今形を整えているんだ。」
…はい?
訳も分からず見守っていたら、…なんかできました、赤ん坊サイズの小さい俺が…、ってええええ!?
「し…師匠!?何ですかこれ!?」
「あれの種の影響を極力排除し、お前の血肉で形を整えて、俺の血肉で俺に従うよう調整した使徒だ。」
えええええ、なんかものすごく師匠に懐いてる俺の分身(小)、しきりに師匠の腕にすりすりしている、そんなに師匠が好きか!
「仕方あるまい、俺の血で調整したとはいえ、基本の性格は魔王の理想とする人形だぞ。」
…つまり俺は、あのままだったら変態にべったり甘えるお人形さんになっていたと?
「ぎゃあああああ、気持ちわりぃいいいいい!。」
ふざけんなあああ!
叫ぶ俺をきょとんとした瞳で見詰める分身(小)、あの変態の種が核とは思えない無垢さ!あいつは俺に何を求めてるんだ!知りたくないし、考えただけでも鳥肌が立つが、間違っても俺はこんな無垢な人間じゃないぞ!?
「…凶悪性は押さえてあるせいだろう。」
俺の様子をあわれに思ったのか師匠がフォローを入れてくる。
しかし納得できない!当たり前のように師匠にだっこされている分身(小)、お前魔人じゃないのかよ!?
「魔人ではないな。」
「じゃあなんですかこいつ。」
「…しいて言うならお前のクローンだな。」
「一気に現代的になった!しかも違法!」
「問題ない、此処にはそんな法律はない。」
「確かに!でも絶対そう言う問題じゃないですよね!?」
ぎゃんぎゃん叫ぶ俺に何が面白かったのか、俺にまでなついてくる分身(小)、キャラキャラ笑いながら、よちよちと俺に抱っこされに来てる姿が異常に可愛い。
「師匠どうしましょう、こいつ可愛い。」
弟ほしかったんだよな俺、持って帰っちゃ駄目かな。
「俺たちがきちんと育ててやるから安心しろ。」
それに連れて帰っても命に関わると言われて素直に諦めました。
そしてどうやら分身(小)は、師匠のお家の子になることが決定してるらしい、師匠実は狙ってた?
「その前にこれには大仕事があるがな。」
そうでした、変態の所への道案内、てっ、泣き出した!?
「え?どうしたの??」
「や、や、」
ふるふると泣きながら嫌々する分身(小)あれ?もしかして。
「変態の所へ行きたくないの?」
まさかな、と思いながら聞けば全力で肯定している。
マジか、自分用の人形(予定)まで本気で拒否されるとか、ざまあ!
「そうだよな!あのなのに関わりたくないよな!」
俺の言葉にブンブン首を縦に降る分身ちゃんを俺はぎゅうぎゅうと抱きしめ、分身ちゃんもぎゅっと俺に抱きついてくる。
「師匠!分身ちゃんが可哀想なんでこの作戦は却下で!」
うるうるしてる俺たちを呆れたように眺めながら、師匠はあっさりと。
「真面目にやれ。」
とおっしゃる、師匠の鬼!…本当に嫌だ、なんで今代の魔王は
あれなんだ、うう、一撃で撃破する方法まだ出来てないのに。
「結局逃げられないのなら、倒した方が早いだろう。」
ごもっとも、だけど人をお人形にして喜ぶような変態の所に自ら出むかなきゃいけない、この精神的苦痛はどうしろと?
「自分が勇者になったことが不運と諦めろ。」
自分も三人も全力で支援するから、イヤなことはさっさと終わらしてしまえと言われても、イヤなものは嫌だ、お三人さんなんて失恋の
痛手で役に立つ気がしない、…しまった、唐突に思い出した、あの三人まだ酒飲んでるんじゃないだろうな。
イヤな予感に、眉を潜めた俺に恐ろしい程の勘の良さを発揮した師匠が、止める間もなく部屋を出て、酔いつぶれた三人に特大の雷を落としたのは、まあ、当然と言えば当然だろう。
そうしてお三人さんが毎度恒例の地獄の耐久お説教を受けてるのをよそに、俺は完治を塔の皆に報告し、祝福される一方、分身ちゃんはマリサテレスさんのお膝でお眠になり幸せそうに眠っている
「一生分の幸せを使い果したのかしら?」
あまりの幸福の洪水に呆然としながら呟く彼女に、俺は笑いながら。
「まだまだ、序の口ですよ。」
と言って笑う。
師匠が本気で幸せにしようとしてるマリサテレスさんの幸せがこんな小さいわけない、それだけは確信をもって言える。
「まあ、今後の幸せの予行練習だとでも思っておけばいいんじやないですかね。」
俺の言葉にマリサテレスさんがほんのりと頬を染めながら。
「そうだと良いな。」
と呟く表情はとても幸せそうで、俺が初めて会った時の悲しげな彼女はもういなかった。
…むう、仕方がない!
師匠とマリサテレスさんの為にもさっさと変態どもを倒すぞ!
嫌だけど、本当に嫌だけど、がんばる!だから分身ちゃん、いやだろうけど道案内頼むよ!
未来の家族のためだから、ファイト!
ちなみに分身ちゃんが起きた後、必死に説得する俺と、断固拒否する分身ちゃんとのやり取りにより、魔王の変態ぶりを知ることになったマリサテレスさんの。
「絶対行っては駄目ー!!」
と言う絶叫が塔中に響き渡るのだった。