物凄く痛い
「痛ってぇ…。」
開いた傷口を押さえる俺に、全員が厳しい表情で見てくる、自業自得なのはわかってるんで、さっさと傷口の中を調べてください、心からお願いします。
「隆二君無茶にもほどがあるわ!何かあったらどうするの!」
マリサテレスさんが、ボロボロと泣きながら傷口に布を当てている、ヒールを使うことが当たり前すぎてそんな動作でさえぎこちない、でも心配している気持ちがありありと感じられて、ちょっと反省する。
「すみません、ちょっと怪我することに慣れ過ぎて、俺自分が怪我することに鈍感になってたみたいです。」
怪我しても死にかけても、それこそ修行の一環になりつつあって、誰一人お互いの怪我に頓着しなくなってた、師匠でさえ時と場合によっては自ら片腕を犠牲にするレベルの事を平気でしてた、だから俺たちにとっては怪我は心配されたり、無茶をするなと怒られるものだと言う事すら忘れてた。
「ごめんなさい、これからは気を付けます。」
俺がシュンとしながら言うと、マリサテレスさんが泣きながら、もう無茶なことはしては駄目だと、泣いて叱った、こんな風に泣いて叱られるのは小さい時に母さんに叱られて以来だ、あの時は家の屋根から飛び降りて骨を何本か折ったんだった、…やんちゃな息子ですみません、反省してます。
「…とにかく、隆二が言っていた身体の中とやらを調べるぞ。」
俺の反省の意が伝わったのか、ようやく腹の中を調べてもらえた。
「…あったぞ!」
調べ始めて結構な時間が過ぎ、三人の旦那さん達が交代で調べ続け、ようやくそれが見つかった。
「…クソ!何だこれは!?」
かなり躊躇してたけれど、それを取り出すためにほんの少し手を入れた瞬間、何かが侵食してきた。
叫ぶことも出来ない俺に、慌ててマリサテレスさんが浄化魔法をかける。
「…あ、痛くない…?」
「よかった、浄化魔法は効くのね。」
ほっとしたように笑うマリサテレスさんに、どうしてヒールじゃなくて浄化魔法なのかと尋ねれば。
「ヒールを使ったら原因が入ったまま、傷が治ってしまうでしょ。」
だからとっさに魔人にも効く浄化魔法を使ったらしい、ありがたや。
「しかし、こいつは何なんだ、ほんの少し触れようとしただけで、隆二の腹に食い込んで行ったぞ。」
冷や汗をかきながら、そういう旦那さんの一人の手にさっき一瞬原因に触れた為か火傷のような状態になっていた。
「これは、迂闊には触れられんぞ。」
難しい表情の面々、確かに無理に取り出そうとすれば、俺にとっても、原因に直接触れる人にとっても危険しかない。
困った、どうしよう‥‥。
師匠!ヘルプー!
どうにも出来ずまた1日たった。
いっそ場所だけ確認して、自分で取り出そうか、そんなことを考えていたら、マリサテレスさんにじっとりと睨まれた。
はい、スミマセン、やりません、だから睨まないでください。
それにしても、何とかしないと、師匠達と合流もできないしどうしたものか。
むう、考えてもまったく何も思い付かない、仕方がない、ここは日本人らしく。
困った時の神頼み。
神様、早く変態をどうにかしに行きたいので助けて下さい!お願いします!
真剣に祈ったお陰か、たった半日で事態が動いた。
「隆二さん!」
「良かった無事ね!?」
「生きてるな!?」
よく知った三人の姿にほっとした後、重要な人がいない事に気が付いた。
「師匠は!?」
「「「え?」」」
思わず四人で周りをキョロキョロして。
俺は脱力して、三人は硬直した。
抱き合うというか、師匠に抱き込まれて呆然としているマリサテレスさんは、次第に状況が把握出来てくると、ポロポロと涙をこぼして、ぎゅっと師匠を抱き締め返した。
「遅くなってすまない。」
「本当よ、私をしわしわのおばあちゃんになるまで待たす気だったの?」
「例えそうなろうとも、君は美しいに決まっている。」
その時醜く年老いた俺が捨てられても文句は言えないが、頼むから君をそば近くで守る権利をくれないか、俺の残りの生涯をどうか君の隣に。
どうしよう、師匠がマリサテレスさんを熱烈に口説いてる。
なんなんだ、この両親のイチャイチャを見てる気分は!いたたまれんわ!
くそっ、逃げ出したいのに三人が俺を取り囲んだまま硬直してるから、身動きも取れない、なんだこの苦行、俺が何したって言うんだ、ちょっと泣きたくなってきた。
その間にも二人の世界に浸っている師匠がついにマリサテレスさんに口付ければ、三人がその場でばったりと倒れ、目を回している。
これ、また夜中に部屋に突撃されるパターンかな、嫌だなぁ。
今回は師匠の所にも逃げ込めそうにないから、野宿決定かな?
いや、師匠のお説教がきいてるはず、…大丈夫…だよな?
そんなことを考えているうちに、師匠が俺の前に来るなり。
「腹を切るぞ。」
とおっしゃる。
怖!!
「師匠?」
「腹の中にあの変態の種が入ったままだろう、取り出すぞ。」
衝撃の事実、・・・イヤアアアア!!気持ち悪いぃぃぃ!
知りたくなかった事実に吐いた俺は、悪くない。
「師匠おおおお?な・・・何でそんな気持ち悪い事に!?」
「あの変態が殊の外お前の事を気に入っていて、本気で手に入れようとした結果だな。」
最悪!忘れるはずだよ!いっそ知りたくなかった!
本当滅べ!ド変態!
「それで、俺がお前の腹の中のそれを取り出す準備をする間、魔王にお前の居所が判らぬよう、神がこの塔までお前を運んだんだ。」
此処の結界なら魔王すら手出しできないからな。
…どこまでも優しく慈悲深いこの世界の神様と、どこまでも頼りになる師匠に俺はどれだけ感謝をすればいいんだろう、もうもう、本当に、ありがとうございます!
「でも準備ってどんな準備です?」
「お前の世界の医術を学んだ。」
え?俺の世界の医術?
「師匠、俺の記憶では俺の世界の医術って一週間や二週間で学びきれるものじゃないはずですけど。」
「らしいな、神の領域のような場所で延々学んだからな、時間の感覚はないがかなりの時間だったかもしれん。」
おお、神様大盤振る舞い、ついでにそこに居る間は師匠の体内時計はひっじょうに!ゆっくりだったらしく。
「時間の感覚がなかった。」
らしい、心と時間のお部屋的なアレだろうか。
「つまり、師匠が手術すると?」
「そうだ。」
「何か無理に取り出そうとすると、侵食してこようとするんですが。」
「その辺りの対策も出来ている。」
さすが師匠。
「いいか、絶対寝るなよ。」
え?それは盲腸の手術的な感覚で?
「違う、お前が意識を失うと、乗っ取られる速度が上がる。」
はい!絶対寝ませんとも!
でも、手術なんてぶっつけ本番でどうにかなるのかな?と思って聞いてみたら、なんか神様がどこからともなく患者を連れて来て散々手術したらしい。
「…その人たちは…。」
「全員生きて健康体になったから安心しろ。」
良かった、患者さん達も怪我だか病気だかわかんないけど治ってよかったね、と言う事でいまだ硬直し続ける三人をマリサテレスさんにお任せし、俺と師匠は変態の種を抜くための手術の準備を始めるのだった。




