呪われていました
俺が結界の塔に保護されて、4日たった。
「おはようこざいます。」
「おはよう、隆二君。」
目を覚ますと目の前にニッコリ笑うマリサテレスさんの姿、場所は俺が間借りしてる部屋の中、そこでなぜかこの4日間当然のように俺と一緒に寝起きしてるマリサテレスさん。
訳が分からない、俺がどんなに固辞しても何故か毎晩彼女は俺の部屋にやってくる、俺の周りの女性陣は何故俺の話を聞いてくれないのか。
ここ数日は熱もないのに背中がずっとゾクゾクするのは気のせいかな?そうだと良いな、きっとそうだ、…師匠にばれませんように。
そうして当たり前のように俺の世話をしようとする彼女から、なんとか逃げ出し俺は朝の日課の素振りをするため外に出れば、守護騎士である旦那さん組が朝の鍛練をしていた。
「おはようございます。」
「おお、隆二かおはよう、今日はマリサテレスから逃げてこれたか。」
俺の姿に皆が楽しそうに俺をからかってくる。
マリサテレスさんの俺への構いっぷりは、刺激の少ない生活をしていた彼らの良い娯楽になってしまっているので誰も助けてくれない、酷い…。
「まあ、マリサテレスにしてみれば息子が出来たようなものだ、ライトハルンの事も待っていても良いと判って、よけいに気持ちが高ぶっているんだろうさ。」
苦笑しながら、落ち込む俺を励ましてくれるが、やっぱりあの扱いはどうなんだ。
「俺が師匠に殺されます。」
師匠なら半殺しどころか四分の三殺しとかきっちりされそうで怖い、マリサテレスさんの徹夜明けのテンション的な状態が、早く通常に戻ってくれることを祈ろう。
「でも、師匠の事待っててもよいなんて考え方しなくてもいいと思いますけど。」
それこそ、どんっと構えて、かわいそうだから待ってて上げるわ!ぐらい言い切っても笑顔でひざまずくレベルだし。
「そんなにか。」
「そんなにですよ、皆さんは違うんですか?」
「まずそんな状況になったらと考えるだけで、肝が冷えるな。」
俺のたとえに苦笑してた筈なのに、自分たちが奥さんと離ればなれになる想像だけで、一瞬でお通夜状態、本当にこの人たち奥さん大好きだな。
「じゃあ、それに耐えてる師匠はすごいってことで。」
なんせ周りは敵だらけと言ってもいい状況で十数年だ、危うく全く用のない王女と結婚させられそうになってるし、あれ?今改めて考えると王女様ファインプレー?まあ、我儘の結果だったかもしれないけど、しかしこの国の女性貴族の状況で良くそんなことを堂々と公言したなあ、結構肝の据わった人だったのかな?今度ティナさんに聞いてみよう。
話し込んでいるうちに朝食が出来たと呼ばれてしまったので、仕方なく今日の朝の鍛練は朝食後にすることにした、共同生活だしきちんと周りに合わせないとね。
ちなみに、朝食後鍛練に出ようとして、全員に止められた、傷口がまた開く!とすごい形相で言われて大人しくベットの住人になり、脱走防止にとマリサテレスさんの監視を受ける羽目になったら結局は構い倒され、体力よりも気力が尽き果てる一日となった。
ちなみに傷口は、ついルルさんや師匠に直してもらう感覚で動き回って、もう五回ほど開いてる、学習能力がない?違うよだってちゃんと皮膚表面が治ってるのに傷が開くなんて普通思わない、だからそれは絶対に俺のせいじゃないと、声を大にして言いたい。
「おかしい、一体どうなっている?」
結界の塔に保護されてさらに一週間がたった、なのに俺の腹の傷はまだ治らない、そろそろいいだろうと素振りの許可が出ので、いそいそと素振りを始めれば十も振らないうちに、また傷口が開いたのだ、周りの旦那さん組が慌ててヒールを掛けてくれたが、絶対におかしいと言う事で、現在緊急会議中です。
「何か特別な攻撃を受けたんじゃない?」
「かなり念入りに魔法の痕跡を調べたが、おかしなものは何にもなかった。」
「そもそも神の加護がこれ程念入にかかっているのに、危害を加える類の魔法を受け付けるかしら。」
「しかし、もう十日以上経ってるんだぞ、ヒールも定期的にかけているのにこんなに治らないなんて何かあるとしか思えん。」
「何か体質的に効きにくかったりすることはないか?」
「…師匠や仲間のヒールでこんな風になった事はありません。」
喧々諤々と言った状態に、一応体質的なものではないはずだと付け加えてみた。
「そうなるとやはり、魔人の攻撃による後遺症か?」
「…隆二が怪我の時の記憶があったらよかったんだが。」
「ダメよ話を聞く限り、記憶をなくすほどの衝撃があったって事でしょ、無理に思い出そうとしたら、それこそ隆二の精神が持たないかもしれないわ。」
心配げにそう言ってくれるのはありがたいけど、俺自身まるでのどに小骨が刺さったような不快感があるので、出来る事ならきちんと思い出したい。
「何か思い出させる方法ってないですかね、魔法でぱあっと。」
「そんなことをしたら、それこそ君の気が触れるぞ。」
俺のお馬鹿な意見に、窘める声が飛んでくる。
駄目か、うーんそれにしてもこの傷本当にどうなってるんだ?
まじまじと傷を眺めていて気が付いた。
「聖痕の花が減ってる…。」
「何ですって!?」
皆がぎょっとして俺の腹にある聖痕をみる。
「…減っているのか?」
戸惑ったように言われるけど、減ってるんですこれが。
「昨日までは傷のある右半分を埋め尽くす勢いであったんですけど…。」
今は花束サイズの聖痕が傷の周りと、例の変態対策の胸元にあるだけで、他は小さな花がぽつぽつ一つ二つある程度だ、明らかに減っている。
「これまで、大けがすると時々減ってた、とは仲間に教えてもらいましたし、実際腕の蔦の聖痕の葉っぱが数枚消えるのは見たことありましたけど、こんなにごっそり消えたことはないはずです。」
あの上下半身さよなら事件の時でさえ、こんなにごっそりなくなることは無かった、ルルさんの報告じゃあ、太ももの大きめの聖痕が三つほど消えた程度だったらしい、今までの経験則から言ったらこの程度の傷なら小花一輪消えるかどうかのはずだ。
「それが本当なら、我々では感知できない魔法が掛けられて傷の治りを阻害しているのかもしれない。」
「そして聖痕がその魔法に対抗して魔法を無効化していることで効力が弱くなり消えていると言う事か?」
旦那さん方の意見に確かにと思う、道理で最近落ち着いていた聖痕がまたそこらじゅうに現れる筈だ、本当にこの世界の神様は優しいな。
「この世界の神様に直接感謝を伝えるにはどうしたらいいんでしょうか。」
思わず真剣にそんなことを呟く俺に、笑いながら。
「どんな場所でも構わないわ、ただ隆二君が心から神様にお礼を言えば必ず神様は聞いて下さるわ。」
と言って頭をなでるマリサテレスさんに、じゃあ前のお礼の言葉も届いてるかな、なんてことを思ていると、さらにスキンシップが激しくなりそうだったので、早々に旦那さん組の元に逃げ出しす俺に、奥さん組が。
「隆二ちゃん、マリサテレスだって寂しいんだからもうちょっと我慢しなさい。」
と諭してくる、しかし待ってほしい、俺は彼女の息子でも何でもない、赤の他人である、しかも俺の方が若干でかい。
「膝抱っこは勘弁してください!」
俺は正論しか言ってない。
なのになぜ皆、隆二ちゃんなら大丈夫とか言うのか。
だから、俺は、赤の他人!そういうのはいずれ生まれてくる師匠との子供にしてあげてください!
なのにその後、マリサテレスさんは事あるごとに俺を膝抱っこしようとし、奥さん組もそのくらいやらしてやれと言う、本当に何で俺の周りの女性陣は俺の意見を無視して話を進めようとしてくるのか、思わず項垂れるに俺に旦那さん達は同情の目を向けるものの、一切助けてくれなかった。
そんなに奥さんが怖いか!!!
「間違えるな、俺たちは妻が怖いんじゃない、妻を愛しているゆえにどんな我儘も許せるだけだ。」
真顔で言い返してくる彼らに声を大にして叫んだ。
知るか!!
…いかん、危うく忘れるところだった、結局俺の腹の傷はどうすればいいんだろうか。
と言うか、脱線した会話のまま、ぎゃあぎゃあやってたら、もう太陽がてっぺんに来てる、朝日が昇る前に集まったのに、しまった時間を無駄にした、何の結論も出てないのに。
「いっそのこと、誰か俺の腹切ってみてくれません?」
いきなりの俺の猟奇的な発言に全員が固まった。
「いきなり何を言う!」
何とか正気に戻った一人に怒鳴られた、まあ確かにね、でもちゃんと考えがあるんです。
「だって皆さん魔法の痕跡はさんざん調べてくれたんですよね、なのに何かしらの異常があると言うことは、皆さんが意識しない所に原因があると思うのです。」
この世界ヒールの精度が高すぎるせいか、外科的な技術や知識は元より、俺でも知ってる簡単な体の構造も全くといって良い程知られていない、そうこの世界にとって体の中って完全な盲点なんだ、だからこそ何か仕込まれたら発見が難しい。
でも別の世界の存在の魔人が知らないとは限らないだから。
「一度腹の中を確認しておきたいんです。」
俺の言葉に、頭がついて行かないらしい皆が顔を真っ青にして、いくらなんでもそれは無理だと、首を振る、まあ確かに俺だって外科知識皆無の人達に手術まがいの事をしてもらうのは怖い、魔ら残る手段はとっても簡単。
「ちょっと素振りしてきます。」
素振りすれば勝手に開くんだから、これが一番手っ取り早い。
「待って!早まるな!」
「いやいや、どう考えてもこれが一番安全な方法です。」
傷口開いたら後は手を突っ込むなりして確認すればいいだけだし。
「だから待てと言っている!」
なんでお前はそんなに極端なんだ!
そう叫ばれるけど心外だ、師匠だったらとっくの昔に俺の腹引き裂いてる、それをせずに自然に傷口が開く方を選んだ俺は十分常識人だ。
「ライトハルンを基準にするな!」
どっかて聞いたことあるようなセリフだな、でも気にしない、さあさっさと傷口開いて確認しましょう。
「「「「「「「「「だから待てと言ってるだろう(でしょう)!!!!!」」」」」」」」」
全員の叫びを無視して、俺はさっさと素振りに出た、妨害?されたよ?でもほら、普段師匠と鍛練してる身だから何の障害にもならなかっただけです。
さて、何が出るやら。