死にかけることもあるけれど俺は元気です
「隆二、しっかりしろ!」
ティナさんの声で目を開けると、心配げな三人の顔が映った。
「…俺生きてます…?」
下半身逝ったから今度こそ死んだと思ったんだけど。
「お師匠様が治療してくださったんだ!」
「…!そうだ師匠!」
もう本当にふざけんな、今回本気で死んでたろ!
怒りのまま、起き上がって師匠を探そうとして、…ぶっ倒れた。
「あれ?」
「まだ動いてはいけません!」
「下半身も原形があったからくっつけるだけで済んだけど、血もすごく流れたし、欠けた部分も大きかったから、魔力も体力も限界まで消費したのよ!」
三人が慌てて俺を毛布に包む、話を聞いて、なるほどと思った、新陳代謝なんて生易しい物じゃない、多分今喋って、体が動くだけでも奇跡だ。
「お師匠様が何でもいいから食べさせろと山のように食材を取っていらしたんですわ。」
さすが師匠、でも死にかけたのも師匠のせいだ。
「その師匠は何処に?」
「少し離れた山の中腹で魔人と戦闘中ですわ。」
「また出たんですか。」
本当に多いな。
「仕方あるまい、隆二が倒れて七日だ、これほど長く同じ場所に留まっていれば襲撃も増えると言うものだ。」
七日?そんなに経ってたんだ。
「さあ、せっかく目を覚ましたんだからこのスープ飲んでね、師匠の渾身の絶品スープよ。」
!はい、飲みます!いただきます!
そうして俺は五臓六腑に染み渡る師匠の絶品スープにむさぼりついた。
おおう、体に染み渡るとはまさにこの事、なんでこんなに師匠の料理はうまいんだ、その上動かなかったはずの身体が動く、何が入ったらこんなに効き目のある料理になるんだ、何か特別な称号でも持ってるのか?究極至高の何ちゃら料理人的な。
…そんなわけないか、ここってそういうの一切ない世界だし。
もしここがいわゆるゲームみたいにステータス画面の見れる世界だったら、ぜひとも師匠のステータスを見てみたい、きっとステータスの至る所に限界突破の文字が躍ったどっかの物語の主人公みたいなステータスなんだろうな、それで俺がその弟子のすごいはずなんだけど師匠の後だと見劣りしちゃう微妙ステータスなんだろうな、物凄く想像できる。
そんなあほなこと考えながら、さらに焼きあがった芋に似た何かをうまうましていると、唐突に師匠が現れた。
「起きたか。」
「おはようございます師匠、今回ばかりは本気で師匠に殺されたと思いました。」
平常運行の師匠に俺が恨みがましく言うと、師匠は何が面白かったのかくつくつと笑いながら。
「あれぐらいで俺がお前たちを死なせるものか。」
とおっしゃる、いや待ってください師匠、下半身と上半身がサヨナラしたら普通に死にます。
「無茶苦茶だこの人。」
思わず力なくぼやけば、ルルさんが恐る恐る。
「でも隆二さんの場合、聖痕が身体中に刻まれておりますし、おそらくですが師匠程のヒールの腕前があればどんな状態でも亡くなることはないと思いますわ。」
そのまま増え続ければ不老不死になれるかもしれないと言われ、俺はがっちりと固まる羽目になった。
知らない間に身体が魔改造されまくってた!と言うか一言了承を取るぐらいできんのか!
「だから隆二の聖痕と同じような効果のある術をお前たちにも掛けてある、即死でない限り俺の命がある限りは滅多な事では命を落とす様なことはない。」
師匠の追い討ちの言葉に今度は三人までが固まった、そして追い討ちのように俺にも術は掛けてあるので今の段階ですでに不老に達していると言いわれた俺は師匠の顔を見たまま気を失った。
だから、了解を取ってください!
「安心しろ効果は俺が死ぬまでだ。」
全然安心できません!俺のはすでに過剰防衛です今すぐ解呪してください!
この国の平均寿命が60半ばで今師匠が三十半ばだからあと三十年だって言ってるけど、絶対師匠は平均寿命一般人の二倍は生きる人だ!もしかしてその辺も限界突破して軽く4倍とか行くかもしれない人の言葉なんて怖くて信用できるかあああああ!
「お師匠様、いつそのような加護を頂いたのでしょう。」
ティナさんが恐る恐る尋ねてみれば、師匠の方はあっさりと。
「お前たちがあまりに死にかけるからな、隆二の聖痕を見て術式に落とし込めそうだと思い少し手を加えてヒールのついでにかけておいた。」
そんなついでみたいに!神の加護とかそんな簡単に解析できるの!?
思わずルルさんを振り向いた俺たちに対し、ルルさんが首をぶんぶん振って青い顔をしてる。
「お師匠様自身にはかけないんですか?」
と恐る恐る聞くサシャさんに心底不思議そうに。
「この程度の弱い術に守られる必要のどこがある?」
「…師匠の術のわりに弱いのか、本家本元の聖痕程じゃないと言う意味なのか、こんなものよりもっと効率のいい術を知ってるのかどれでしょう。」
俺が真顔で尋ねれば3番目だなとあっさり答える師匠、この人は本当に人間だろうか。
「もっとも、今のお前たちでは術に耐え切れず穴と言う穴から血を拭き出して死に至るだけだからとても掛けてやれんが。」
「「「「お気持ちだけで結構です!!」」」」
怖エエエエエエ、じゃあ師匠はなんで生きてんの!?
「鍛え方の差だ。」
そういう問題じゃない気がしてきてるのは俺だけかな!?
「魔力を無駄に放出することしかできんうちはまだまだと言う事だ。」
無駄に放出?
「だからお前たちはここ数日武器をことごとく破損させているんだろう。」
いやいや、他の三人はともかく俺は木刀ですよ!?木刀でどうしろと!?
三人だって一応は金属だけどシンデレラの魔女が持ってそうな細い枝状の魔法の杖だ。
あれで戦えとかどんなけ鬼かと、大体まともに攻撃が効かないから、最後は初級の火の魔法で体力の続く限り燃やしてようやく一匹仕留めてるのに!へし折れるだけの木の棒と金属の棒でどうしろと?
「なら俺が小枝で魔人共を相手にしていることをおかしいとは思わないのか。」
いや、そこは師匠だし、四人そろって顔お見合わせ頷いていると、師匠のお叱りが飛んでくる。
「そこで終わるな馬鹿者。」
ベシッと言う音に師匠の手元を見やれば、話題の小枝発見、痛てぇ。
「この枝だとてそこで燃えている小枝と同じものだぞ。」
「はい、わかってます。」
だって師匠戦闘終わるとその小枝たき火の中にぽいっと捨ててますもん。
「…つまり重要なのは物ではないと?」
ティナさんの答えに師匠が頷く。
「隆二の持っていた剣と同じだ。」
「あのへぼ剣ですか?」
しばらく考えてようやく俺にもわかった…気がする。
「魔王を殺すのにはあのへぼ剣じゃなくて、祝福の力を持った俺が武器で攻撃する事が必要なのと同じで、師匠も剣とか道具は何でもいいけど、師匠が振るった事実が大事って事でしょうか…?」
「それだと半分も正解ではないな。」
落第、師匠のすげない言葉にそんな文字が見える。
「魔力…武器は関係ない、振るう事が必要…!わかりましたお師匠様は小枝に自分の魔力を流し力加減を微調整していらっしゃるんですね!?」
うん、確かに漫画とかだとそんな感じのよくあるな。
「そういう事だ、強すぎれば小枝は消し飛ぶ、弱ければ折れる、その調整こそが魔力を効率よく全身に巡らせ、魔術の発動時の魔力の無駄をなくす。」
なるほど、今まで俺たちは一回魔法を使うたびに蛇口を全開にしてたと、それでも師匠の教える魔法が高度すぎて今まで問題なかったけど、ここいらできちんと魔力の強弱の調整をできるようになれと、それにはまず弱い武器を折ったりしないように魔力を調整したり武器に流したりする方法を覚えろと言う事ですか、と言うか。
「口で説明してください!」
俺は力いっぱい吠えた、いくら死なないって言われても、知らなかった俺としては本気で死んだと思ったんだぞ!せめてどんな目的の修行かくらいは言ってください!
「教えたらお前は逃げたろう。」
はい?
「お前の欠点は平和な国で育ったゆえの気の弱さだ、ここでは一瞬でも引けば命がない場面もある、しかしお前はそんな場面で身を引いていた、我々がいるからと言う甘えなのだろうことは判っていた、今ならまだ一歩踏み込む事を教えてやれると思った。」
だからわざわざ三人に弱い武器を持たせ、自分も一歩下がった状態で俺をあえて放置したらしい、結果があの真二つだ。
「だが、悪い事だけではあるまい、間違いなくあの時お前は一歩踏み込んだだろう。」
こちらを見る師匠の目は子供の成長を喜ぶ目だ、俺はあの時どうしたんだっけ?
確か真二つにされた瞬間、俺は木刀を振るった、魔人に向けて、驚きより、恐怖より、こいつを倒さなきゃいけないって思いで振った木刀は魔人を袈裟懸けに切り伏せてた。
「…あ。」
思い出した!慌てて師匠を見れば頭を撫ぜられた。
「よくやった。」
「師匠、俺魔人倒せてましたか?」
「ああ。」
「武器は壊れましたか?」
「いや、そこにあるボロボロの木刀がそれだ。」
気づかなかった、俺の荷物の横にあった、ボロボロの…でも、折れてない木刀が。
「師匠、木刀折れてません。」
思わず口に出したらまた頭を撫ぜられた、あはは、いい年してなんか恥ずかしいのにうれしいわ。
「よくがんばった。」
「はい!ありがとうございます師匠!」
まだまだかもしれないけど、何とかなりそうな気がしてきた。
また明日からがんばらないとなあ。
「隆二さんばかりずるいですわ!」
出た、雰囲気クラッシャーwww
「ルルさん台無し。」
「隆二さんがいけないいんですわ、私たちだって師匠に頭を撫でられたいですわ!」
おおう、奥さんの事があってからは娘枠を狙ってますね?大丈夫完全に俺たちまとめて師匠の子供枠だから。
「ただの弟子枠よりはましよ。」
サシャさん目が死んでる!そんなに師匠好きなんだ。
「私は第二夫人でもいいのだが…。」
ティナさん、諦められないんだ、ぼそっと言ってるけど聞こえた、多分師匠にも聞こえてるけど残念ながらスルーされてる。
「俺は彼女以外と生涯を共にする気はないからな。」
三人が寝息を立てる頃、師匠が苦笑交じりに言って、またじいっと彼方の地を見ていた、早く逢わしてあげたいな。