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四十三日目-1 交渉は雑談のあとに

42日目


 今日は朝から酷い目にあった。

 怒ったラティは小柄なのに凄みがあってかなり怖かった。

 まあ? そりゃあ? 自分の街に唐突に竜を飛ばされたら怒るよな。

 気を付けよう、酒は飲んでも飲まれるな。

 とは言え、悪いことばかりだったわけじゃない。

 ラティとは正式に依頼として受けることになったし、準備の方も上々だ。

 幸い商売王決定戦の内容は俺に有利な内容。

 ゴブゴやキンドとの約束を守りつつ、勇者へのコネと貸しを作ることができそうだ。

 もちろん油断は出来ない。

 今回の相手は悪魔だ。

 せいぜいペテンにはまらないように気を付けないといけないのだから。




「なんや、言うことがあるんとちゃいます?」


 算盤をポンポンと弄びながらラティは笑顔で聞いてくる。


「ごめんなさい……?」


 昨日の酒が少し残っているせいで俺の返答は語尾が上がったものになった。

 瞬間、ラティの額にビキィッと青筋が走る。


「街中で、竜を乗り回して、口先の謝罪で済む思うてます?」

「……ダメ?」

「──ッ」


 バキッ、と。

 算盤が折れた。

 もったいない。


「ラティ様。幸い夜でしたし、騒ぎはすぐに収まりましたから」


 そう諫めてくれるのはふさふさと金色の長い毛並みを空に泳がせる犬系の獣人、コールだ。

 凛々しくも愛らしい目も相まって、もし人間だったら相当な美人だろうと思わせるラティの右腕である。


「言うて、すぐ収まったんはコールが奔走したからやろ?」


 ラティは不満そうに口を尖らせ椅子に深く沈みこむ。


「それはそうです。しかし私以外にはそこまで迷惑がかかっていませんので」


 発言内容もイケメンなら声もイケメンだ。これは性格もイケメンに違いない。


「ん……そう言われるとなぁ」


 どうやらラティは怒りを収めてくれるようだ。

 とはいえ朝一番にこのビルに連れてこられて、それからたっぷりとお小言をいただいてからなので、俺のHPはしっかり減った後だった。


 しかし落ち着いて考えてみれば、街中で竜を飛ばすというのは、街中で武装ヘリを飛ばすようなものだろう。

 そりゃ不安にもなるし騒ぎにもなるか。

 少し考えれば分かることだが、どうしてやってしまったのか。

 お酒って怖いね。

 今日起きたらいつの間にかヴァーハナまで戻ってて、当然のようにルルクとヒミナとフェスティスが一緒に寝てたし。

 心臓に悪いったらない。


 そこからラティの襲撃を受けて、朝食前にこうして出頭させられている。

 みんなまだ寝ていたので、早朝から話があって起きていたフェスティスとキンド、それからすでに活動開始していたゴブゴに俺の四人だけだ。

 主に俺とルルクが悪いのだから、付き合わせてしまって申し訳ない。


「けど、次はないからな。今日はいよいよ昼からバザー・デ・ゴザーの開幕や。頼むから昼間の騒ぎだけは勘弁してな」


 そういえば今日からだったか。

 入口の出店とかもうお祭りの空気があったから、てっきり始まってるような気がしていた。

 すると今日からは昨日以上に賑わっていくのだろうか。


「いやまあ特別なにかどうこうしようとは思ってないしな……あ、でも」


 そうそう、一応確認しておかなければいけない。


「商売王決定戦ってやつには参加するつもりなんだけど、良い?」

「ええよええよ、ただその内容次第やけど、ウチとはかちあわんように頼むな」

「いいけど、ラティは今回参加できないんじゃなかったか?」

「……は?」

「え?」


 お互いきょとんとして見つめ合う。

 あ、そうだ。

 それ聞いたのフェアリーからの話だ。

 しかもこの様子だとこの情報はラティは知らなかったみたいだ。

 しまった、酒の残りでぼんやりしているとは言え、いらんことを口走ってしまった。


「トウヤはん……それ、何か根拠のある話なんかなぁ?」


 ラティはにっこにっこ笑っているが、なんかオーラみたいなものが出ている気がする。

 さて、どうしよう。

 情報源の開示はちょっとためらう。

 フェアリーのスキルや特性については秘密にしておきたいと思うからだ。

 基本は無害な種族だが、ちょっと情報面において強すぎる。

 捕まえて利用しようだとか、逆に気味悪がって迫害したりとか、そういう人が現れても不思議じゃないレベルだと思ってる。

 まさに知らぬが仏というやつだ。

 とはいえラティは勇者の仲間だし、無碍にするのも違うと思う。

 何より相手は商人。

 下手な誤魔化しは見破られるだろう。

 どうするべきか。

 ちらりとフェスティスへ視線を向けると、見事に目を逸らされた。

 この状況を面白がっているのかそれとも判断を託されたのか。

 ……後者だと思っておこう。


 ならばと俺は頭を切り替える。

 俺の持っている情報を本当にラティが把握していないのなら、これは相当価値の高い情報と言えるだろう。

 そしてここは商人の街だ。

 では商人らしくいくとしよう。


「──条件が二つある」


 俺は精いっぱいの営業スマイルを浮かべつつ、強気に出ることにした。

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