四十二日目-1 馬車も走らせれば強盗に出くわす
41日目
今日はようやく聖皇神国とオクトルフの国境にある街に到着した。
カーナビによれば、ちょっと強行軍すれば海に届く距離。
ラストスパートと行きたかったが、はい、そうです、またトラブルです。
なんでこうもスケジュールどおりに進行しないんだろう。
まるで俺が主人公属性でもあるかのようだゼ! HAHAHA!
今回のお相手は、ファンタジーものでは欠かせない存在。
時にマスコットであり、時に塵芥であり、時に不倶戴天の敵といえばもうお分かりのはず。
そうだね、ゴブリンだね。
行きがかりの成り行きで彼らを助けた結果、彼らに協力する流れとなってしまった。
もっとも俺が優先するべきはお客を目的地まで連れて行くことだ。
だからヒミナの希望を優先する。
そう言ったのに、なぜか笑顔で首を振るお客様。
オーケーマイガッデス、とりあえず明日からやれるだけやってみよう。
彼らを助けたことにより、海への到着はほんの少しだけ遠のきそうだ。
「今日の昼頃には着きそうだな」
ガタゴトと揺れる馬車の中で、タブレットPCをいじりながらフェスティスが呟く。
「マジか! うわー、ワクワクするなぁ! 話には聞いてたけど、まさか本当に行くことが出来るなんてな!」
「アギ、遊びに行くんじゃないのよ」
「でもよぉ、マリも楽しみでそわそわしてんじゃん」
「これは……えっと、その……」
マリは頑張って返そうとするが、結局図星であるらしくそのまま黙り込んだ。
「ふふ、良いんですよマリ。あの街は、私だってちょっと浮かれてしまいますから」
「ヒミナ様も?」
「ええ」
実際に楽しみにしていくらしく、今日はヒミナも朝から上機嫌だ。
それも無理はないこと、らしい。
「そんなに凄いの? その街」
ポリポリとチョコレートスティックを食べながらマキナが聞くと、「それはもう」とヒミナが頷く。
「勇者様の仲間であるラティ様が治める大商業都市ですからね。おはようからおやすみまで、揺り籠から棺桶までなんでも節操なく揃うと豪語しているくらいです。私も一度しか行ったことがありませんが、もの凄く活気に溢れた街でしたよ」
「ふーん……じゃあちょっとは現在の文明レベルが分かりそうね。まっ、興味なくもない、くらいだけど?」
マキナはチョコをクルクルと回転させて。
「美味しいものもあるのかしら? その街」
「もちろん! と言っても、さすがに食べ物はトウヤさんの物に馴れてしまっていると物足りないかも知れませんが……」
ちらっとこっちを見るヒミナ。
まあ、そうだろうとも。
こちとら食文化では世界有数の先進国だ。
ゲームがゲームならそれだけで文化的勝利できるだろう。
とは思うものの。
俺はその街に関しては例外ではないかと思っている。
なぜならその街は勇者とその仲間であるラティによって復興された街であり。
「ですがガッカリはさせないと思いますよ。それほど楽しい街ですから──イトーヨーガルドは」
はぁい勇者絶対転生か転移したヤツだろ!
なんだその名前なんだそのネーミングセンス!
どうせこっちじゃ由来が分からないからって適当に付けたな!?
勇者とやらに会ったら絶対にツッコミ入れてやる!
とか俺が密かにヒートアップしていると。
「ん……なんだ、あれ」
丘を超えたあたりで馬車がいくつか止まっているのが見えた。
どうも道を封鎖しているらしい。
そしてその手前には小さな馬車が一つ。
「なにやってんだ、あれ」
「ふむ?」
隣に身を乗り出すフェスティス。
たゆん、とその大きなお胸様が俺の顔のすぐ横で揺れる。
おっふ。
「見たところ襲われているようだな」
「また山賊の類いか?」
「いいや、ゴブリンだ」
「ゴブリンか……」
ゴブリンと言うとあれだろう。
小柄で緑で野蛮な雑魚敵の定番。
まさかここで出てくるとは。
ひょっとしてあれだろうか、女の子とか性的なあれやらそれやらでグヘヘな展開?
「もう始まっちゃってる?」
「ああ、襲われているゴブリンたちが劣勢だな」
「え?」
「え?」
一瞬見つめ合う俺とフェスティス
「ええと、ゴブリンは魔物化する場合もありますが、基本的には友好的な種族なのです」
「うむ。だが非力で賢さも褒められたものではなく、悪戯好き。悪童そのものと言える性格は嫌われることが多い。だからああして」
視線を前方へ向けると、ちょうどゴブリンが大きく吹っ飛ばされた。
「魔物化していた、ということにして強盗まがいのことをする輩もいる」
「……どっちが魔族化しているんだって話だな」
やれやれと溜息を吐──いてる場合じゃないな。
話を聞く限りこの世界のゴブリンは元の世界で言うところの妖精寄りの存在のようだ。
だったら目の前の行為を見過ごすのは、気分が悪い。
とても気分が悪い。
「フェスティス」
「ふむ、報酬は珍しい果物で頼むぞ」
あまりに雑な要求にドリアンでも用意してやろうかと思ったが、名前を呼んだだけで意図を汲んで飛び出していってくれるのはありがたい。
そこからの展開は詳細に語るまでもないものだった。
なんらかの魔法で高速移動した彼女は、派手な攻撃で爆発を一つ起こす。
その威力を目の当たりにしたならず者たちは、慌ててゴブリンたちの包囲を解いて馬車に乗り込み、逃げ出していった。




