七日目-6 運転LV5の片鱗と初勝利
「わっ、うわ! ひぃ!?」
上に、下に、右に、左に。
あの巨体からは想像も出来ない速度でグロウルが一撃離脱を繰り返す。
その度にルルクは悲鳴を上げ、翼を羽ばたかせもがこうとするのだが、動きが読み切られているらしく離脱しようとした方向から追撃を受けている。
「だ、大丈夫かルルク!?」
「えっ!? あっ! う、うん! 痛くない!」
悲鳴を上げていたルルクが心配で声をかけたのだが、予想外の答えが帰ってきた。
ヒミナの言っていたことはある程度本当のようだ。
ちょっとホッとした。
が。
「うわぁ!?」
「おわぁぁぁぁぁ!?」
今度は直上からの蹴り落とし。
ジェットコースターのように激しく揺さぶられ、軽く目眩がする。
いい加減回避するか反撃に出たいところだが。
「み、見えないよご主人様!?」
「そ、そそそ、そうみたいだなああああああ!?」
言っている間にも被弾。
俺とルルク、どちらも注意深く周囲を見ているのだが、何も見えない。
確かに日も暮れて夜となり、視界は良くない。
しかし今日は月夜だ。
あの巨体が闇夜に紛れるとは到底思えないのだが。
「くぅ!」
横に吹き飛ばされる。
「ふおおおおおおおおお!?」
「ご主人様!? 大丈夫? 痛いの!?」
「い、いや、俺、戦闘らしい戦闘これが初めてでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
絶叫! 叫ばずにはいられない!
だって怖いんだもの!
はい、皆さん想像して見てくださーい!
ヘリコプターからバンジージャンプして、その直後に竜巻に巻き込まれた状態を!
怖いでしょ!? 意味不明でしょ!?
むしろグロウルの姿を見つけようと頑張っているだけでも褒められるべひぃぃぃぃぃぃぃぃ!?
「ど、どど、どうしよう!? ご主人様がなんか凄い悲鳴を!?」
吹き飛ばされることには慣れてきたらしいルルクだが、今度は俺の悲鳴に混乱してしまっている。
だったら俺は黙ればいいのだけれども!
黙れませんっ!
「うぉうぉおおぅおおおぅおわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
蹴り上げられ、尻尾を捕まれ回転、投げられた後、真下へ、そこから斜め上へ。
まるでピンボールのように吹き飛ばされる俺とルルク。
鱗の鞍が俺の下半身をガッチリ捕まえてくれているからいいものの、そうでなかったら落下していただろう。
「どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう……!?」
ついにはルルクも半狂乱の涙目になって。
「どうしよう、どうし──え?」
何かに気づいたように、ルルクがさっきまでいた山のカルデラに視線を向ける。
「ど、どうした? なにかに気づいぃぃぃぃぃぃあああああああっはぁぁぁぁぁぁぁぁい!?」
延々と続くようなピンボールやろうぜお前ボールな!タイムだが、ルルクの視線は先程から固定されている。
俺も確認したいのだが、無理。今悲鳴を上げるので忙しいの。
っていうかやばい。
悲鳴を上げすぎてだいぶ疲れてきた。
ダメージは負っていないのに俺がギブアップしそう。
「うん……うん、分かった」
「?」
ルルクが力強くうなずく。
けど、今の誰に対しての言葉だったんだ?
俺がそれを確認する間もなく。
バサリ。
バサリ。
左右の翼を力強く開いて。
「GrAAAAAAAAAAAAAAHHHH!」
グロウルのにも劣らない大きさでルルクが吼えた。
するとその瞬間、体が揺れなくなる。
今もルルクは攻撃を受けて吹き飛ばされているのだが、俺にはまったくその影響がない。
まるでゲーム画面でも見ているようだ。
「成功した! ご主人様ごめんなさい! ボクからの加護が設定できてなくて迷惑かけちゃった!」
「加護? いや、えっと……気にしなくていい。ルルクは平気なのか?」
「うん! ご主人様のおかげで問題ないよ! えっとあとは……人騎一体と検知系を起動して……」
「おお?」
パッ、と画面が切り替わるように視界が変わる。
そこには周囲の空間に飛び交う9頭の竜がいた。
……って、9頭?
「グロウルは不可視化の魔法を使って仲間全員で攻撃してきてたみたい。それでね、えっと、ボク、戦闘は苦手なんだ」
あ、うん。
それはなんとなく察しがついてた。
擬人化したら絶対メガネかけてダボダボの裾を引きずってあたふたしているキャラだもんな、ルルク。
「だから、指示はご主人様が出して欲しいの」
「俺が!? 俺だって戦闘は苦手っていうか、戦うってレベルじゃないぞ!?」
「えっとそれは……えっと、うん。あのね、戦闘だと思わなければ良いんじゃないかって」
「なに?」
「だからね? シューティングゲーム? だと思えば大丈夫じゃないかって」
「シューティング?」
そりゃあシューティングなら、一時期とある同人ゲームにハマっていたおかげで覚えがある。
それを切り口にある程度のタイトルは手をつけた。
しかし戦闘とシューティングじゃ全然別物、っていうかなんでルルクがシューティングゲーム知っているんだ。
「自機? がボクで、操作方法や攻撃手段は『人騎一体』っていうスキルの効果で直感的に分かるはずだって」
「そう、誰かが言っているのか?」
「うん、先輩が」
「先輩?」
スヴィアスフィアか?
それにしてはさっきまでそんな呼び方は全然……いや、それはいったん置いておこう。
改めて俺は状況を確認してみる。
周囲を飛び回り攻撃してくる竜は9頭。
どうやら不可視化によって参加人数を誤魔化し、ルルクと俺を集団リンチしてやろうと、そういう腹づもりらしい。
しかし運転LV5のおかげでルルクへのダメージは0。
あとは迎撃するだけ。
「なら、右上が空いているな。急上昇だ」
「うん!」
包囲網の穴になっていた方向へ抜け出そうとする。
そうすると周囲の9頭は連動して包囲を維持しようとしてくる。
そのためには進行方向上に回り込まなければいけない。
そこを。
「収束熱光を前に」
「はーい!」
カッ!
まばゆい光が迸り、赤白い直線が夜空を割くように貫く。
「が……!?」
直撃を受けた竜が白目を剥いて落下していく。
え……死んだ?
「う、ううん? さすがにアレじゃ死なないよ。その、本当は怯ませるだけのつもりが予想以上の威力で気絶させちゃったけど」
そうか。
彼らもグロウルの悪友で巻き込まれたに過ぎない。
責任がないわけじゃないが、さすがに死ぬほどのことでもないし、死んでなくて良かった。
しかし一撃で落としたことは相手も衝撃を受けたようだ。
残る8頭の内、半数が話が違うとでも言いたげに攻撃参加を躊躇っている。
グロウルを中心とした4頭がなおもこちらに攻撃を加えようとしていて。
「進路そのままで引き離しつつ、マジックミサイルを順次垂れ流し」
「分かった!」
ルルクの翼から後方へ向けて虹色の光の弾丸が放たれる。
近くの魔力に反応して追尾し着弾するという性能の魔法……らしい。
他にも色々な魔法を使うことが出来るのが感覚で分かる。その効果もだ。
これがさっき言っていたスキル人騎一体による効果なんだろう。
「ち……この……! ルルクのくせに生意気だらぁ!」
グロウルの反撃は、偏差撃ちでもばら撒きでもない単純な自機狙い弾。
そんなものは空中サイドステップで余裕の回避だ。
「え、こ、こう?」
バサリと翼を羽ばたかせ、ルルクが俺のイメージ通りに真横へスライドする。
自分でやらせておいてなんだが、竜が再現するとかなりの変態挙動だな、これ。
グロウルの攻撃は追尾性能もついていないらしく、俺たちがいた軌道を虚しく通り過ぎていく。
……強くない?
シューティングだと思えば良いって言ってたけどさ。
なんかルルク、こんな恐ろしい機動性に加えて攻撃手段が豊富な上に、バフデバフどちらも揃っているんだけど。
正直、俺の運転LV5なんて必要なかったんじゃないかって思うんだが。
「ち、違うよ? ご主人様のそのスキルのおかげで、ボクかなり強化されたんだから」
そうか、強化済みを見ているから不要に思えただけか。
聞けば元々使えたのは今の十分の一ほどらしい。
だとするとスヴィアスフィアがあれだけ驚くのも、ちょっと分かる。
俺が運転しただけで魔法の種類が十倍になるって、どういうことよ。
まあルルクに元々才能があっただけかも知れない。
深く考えないことにする。
その間にも俺たちは距離を離すように飛びながらマジックミサイルをばら撒く。
グロウルたちは俺たちを追いかけるために直線的に飛ぶので、面白いようにマジックミサイルを被弾してく。
「ちっ! こんな! ぐっ! ちまちました! がっ! 攻撃で! げへっ! 落ちるわけ──ぐおっ! ってお前、いつまで連射でき──ぶへ!? ちょ、ちょっとま──がはっ!?」
チュドンチュドンチュドンチュドンとグロウルを滅多打ちにするマジックミサイルの雨あられ。
「そこまでだ」
なおも魔法を放とうとするルルクをスヴィアスフィアが制止する。
見ればグロウルは空中で力を失い墜落していく。
他3頭はとっくに墜落し、残る4頭はすでに戦意喪失していた。
「この度の決闘、ルルクの勝利とする」
「や、やった……やったよご主人様!」
ルルクが器用に俺の方へ振り向き、無邪気な笑顔を浮かべる。
竜なのに可愛いやつだ。
「よくやったな」
「え、えへへ」
ぽんぽんと首を叩いてやると嬉しそうに身をよじる。
「……トウヤよ、我はグロウル達を回収してくる。目を覚ますのは明日になるだろうが……決闘の勝者は敗者になんらかの要求をすることが出来るが、なにか望みはあるか?」
「えっと、それじゃあもう二度と俺には関わらないようにする、ということで」
「そんなことで良いのか? 分かった。ルルク、お前は?」
「ぼ、ボクはご主人様の物になったから、特にご主人様の望むもので」
スヴィアスフィアの視線が再び俺に向けられる。
いやいやいや、こんなチンピラみたいな性格のグロウルになにか要求したら、逆恨みされるに決まっている。
「それ以上は特にないよ」
「……分かった」
バサリと翼を羽ばたかせ、スヴィアスフィアはグロウルたちが落下していた方へ飛んでいく。
残ったのは俺とルルクと、降参した4頭の竜。
「あ、お、俺らもスヴィアスフィア──様を手伝うか!」
「おっ! そうだな!」
「そうだよ!」
「んじゃそういうわけだから! じゃあなルルク!」
目が合った瞬間、慌ててまくし立てると全員すたこらさっさと逃げていった。
それを見て何か思うところがあったのか、ルルクが自慢げな表情でフンスを鼻を鳴らす。
「じゃあ、戻ろうか」
「あ、う、うん」
このままいつまでも空中にいても仕方がない。
山のカルデラに戻ると、ヴァーハナから飛び出してくる影が二つ……いや三つ。
「いやあ、心配かけ──おわっ!?」
乗った時と同じようにルルクから降ろされて、突進してくるアギとマリを抱きとめようと腕を広げて屈んだら手加減なしで飛び込まれて押し倒された。
「すげぇすげぇすげぇすげぇ! やっぱすげぇよトウヤはマジでなにあの戦い! 攻撃受けまくってさ、手も足も出なくってさ、これさすがにまずいんじゃないかって思ってたら急に動きが変わって! そこからはもう一方的! かっけぇすっげぇやべぇよトウヤほんっと最高だったぜ!」
「もう駄目かと思いました! 始まってしばらくなにもしないで攻撃され続けているので優しいトウヤさんのことだから相手を傷つけてしまうことを恐れてあえて負けようとしているのではないかと! もう、もう……生きた心地がしませんでした! あんな、あんな戦い方は! もう二度としないでください……お願いです!」
おおう。
左側では興奮したアギが、右側では涙ぼろぼろこぼしながらマリが、同時に叫ぶように言ってくる、
当然聞き取れない。
ただ拾えた言葉の端々や表情からアギが俺をヒーローのように見ていて、マリが心配してくれていたということは分かった。
「わ、分かった。わーかったから、落ち着け!」
どれほどそう言ってアギとマリの背中をタップしただろうか。
二人とも呼吸が乱れた様子ながらも、落ち着きを取り戻してくれた。
「心配かけたのは悪かったよ。でもま、見ての通り無事だったから許してくれ。あとアギ、あれはわざとじゃない。割と焦ったっていうのが本音だ」
「おう、わかったぜ、そういうことにしておく!」
ビッ!とサムズアップしてくるアギ。
うん、分かってないね。
「私が言うことでもありませんが、大目に見てあげてください。ずっと攻撃されていた時、二人とも本当に心配していたんです」
「……ああ、分かったよ。それとヒミナもありがとな」
「はい?」
「俺がルルクに乗れば良いって言ってくれたことだよ。あれがなかったら、俺ヴァーハナに閉じこもって耐えるだけだったからな」
「え、ええ!? そうなの!? ありがとうヒミナさん!」
「いえ、そんな……」
土下座でもするような勢いでルルクが体を伏せる。
竜なりの感謝を示す行為なのだろうか。
ヒミナの方は恥ずかしそうに首を振っている。
ルルクに取って彼女は恩人の一人というわけだ。
こうして誰一人怪我なく終わったのも、彼女の提案があったからこそ。
本当に良かった。
ぐぅぅ。
安心したら腹が鳴った。
そういえばグロウル達に食べさせる料理を用意してばかりで、夕食がまだだった。
「よし、夕食にしよう」
「あっ、そうだな! トウヤトウヤ、オレあのうなぎっていうの食ってみたい!」
「豚汁……おいしそうでした」
「分かってる分かってる。夕食用の分は材料残してあるから、すぐに作れるよ」
「あ、あの、ご主人様……ぼ、ボクも、できたら……」
わさわさとルルクの翼が動く。
できたら、とは言うもののかなり食べたいように見える。
だいたい8頭の竜が追加されたせいで、用意した量ではとても足りなかっただろう。
「いいぞ。ただ量を用意するとなると、さっきのと同じ味で出せるのはおでんとステーキだな。豚汁とうなぎはちょっと味が劣化するものになる」
おでんはおでんたねのパックを開けるだけだし、肉は切り分けて焼いただけだ。
豚汁はさすがに時間がないのでレトルトで出すことになる。うなぎもコンビニ弁当の形にするしかない。
「じ、じゃあ、おでん、お願いします……あれ、美味しかったぁ……」
味を思い出しているのかほわわんとした表情になるルルク。
なんとも幸せそうな顔である。
考えてみたらその食い気でスヴィアスフィアを呼んできて俺達を助けてくれたのだから、食べることが好きなのだろう。
よし。
「じゃあ、みんなで手分けして作るか」
「おうっ!」
「はい」
「分かりました」
「で、出来ることがあれば、頑張る」
みんなの良い返事を聞いて、俺はヴァーハナへと向かう。
まずはおでんをオプションで出して、それから鍋に移して、バーベキューコンロの炭は……ちょっと足した方が良いか。
ああそれとせっかくだからコンビニスイーツも一緒に出して……そうだ酒もだそう。
今日はもうほんと疲れた。
料理を作ったのもそうだし、さっきのドラゴン型絶叫マシーンも体力を大きく消耗した。
もうね、飲まなきゃやってらんない。
よし決めた、今日は久々にハメを外してやるんだ!
俺はそう決意してヴァーハナを変化させた。
この後俺はまた積荷降ろしの作業があると気づいて絶望し。
それをルルクが魔法でパパッと終わらせたことに感動することになるのだった。




