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七日目-2 第一ドラゴン遭遇

 昼食はヴァーハナをキャンピンカーに変えて調理する。

 ヒミナがいるし高級なものが良いかなとも思ったが、高級料理なんてろくに知らない。

 それならばと平均年齢的にウケの良さそうなものを考えることにする。

 やはりカレーだろうか。

 りんごとはちみつで甘めのやつだ。

 うん、レトルトだと味気ないし、せっかくヴァーハナで上等な材料がただで手に入るのだから作った方が良いだろう。

 作り方も切って鍋で炒めて水入れてルー入れれば終わりとお手軽簡単。


 せっかくなのでスマホで改めてレシピを確認してみる。

 ああ、ローリエ忘れてた。にんにくや生姜を入れるのもあるのか。肉は豚バラでいいな、隠し味は醤油にソース類にコーヒーやチョコレート……色々あるんだな。ここは有名なコーヒーでいこう。

 ヴァーハナの仕様上予め米を炊いておくということが出来ないので、材料にコンロに炊飯器とMPを15消費した上に一時間も掛けてしまった。

 アギは腹減ったと連呼してうるさかったが、カレーの匂いが漂うと無言になって俺の周囲をぐるぐるするようになった。犬みたいで可愛い。

 マリとヒミナはおとなしく待っている……ように見えてそわそわしている。

 父性に目覚めてしまいそうな気がする。勘違いかもだけど。


「お待たせ」


 三人の前にそれぞれ皿を置く。

 やや深めの皿の左側にまんまるにライスを盛り、右側にルーを注いで、ライスの上にオニオンフライを乗せたものだ。


「こっちはお好みでな」


 らっきょうと福神漬が入った器をテーブルの中央に置く。


「トウヤさんのそれは?」


 一瞬違うものに見えたのか、マリが不思議そうに聞いてくる。


「ん? 同じものだよ、ルーを直接かけちゃってるだけで。あとは福神漬……この赤いやつを最初から乗せてあるだけ」


 俺はルーはご飯の上からかける派なのだ。

 その上にたっぷりの福神漬をばら撒いて、スプーンでざっくざっく刺すように荒く混ぜる。

 見た目にこだわってるカレー屋でやると、店主が切なそうな視線を向けてくるのだが、これが美味いと思うのだからしょうがない。


 うん、ライスとルーがほどよく混ざり合って、そこに福神漬のパリパリした食感と甘みが良い感じだ。

 けど今日は甘めのカレーだからちょっと甘すぎるかも知れない。

 そこへラッキョウを放り込む。

 しゃきしゃきとした食感とすっきりした酸味が口の中をリフレッシュさせてくれる。

 玉ねぎも甘く、安定のじゃがいも、豚バラも臭みなくカレーにコクを出してくれている。

 人参はなんというか優しい味だ。他の具と比べ目立たないのだが、ないと寂しい。


「おかわり!」


 夢中で食べていたアギが皿を持ち上げる。

 それをマリが受け取ってライスとルーをよそう。

 最初は俺がやっていたのだが、特殊なものでなければマリがおかわりを用意してくれるようになった。

 気を使わなくてもいいと言ったのだが、マリは首を振って自分でやろうとする。

 アギから「あれは自分もおかわりするのが恥ずかしいからだ」と聞いて納得し、それからは任せている。

 だからマリはアギのと一緒に自分の器も持っていって……あれ? 皿が三枚ある?

 視線をテーブルに戻すと、ヒミナの前にあった皿がない。

 いや、本人の意見を聞かずにおかわりをよそっていいものだろうか。

 なんて思ったのだが、それぞれの前に置かれたカレーのおかわりはすぐになくなってしまった。


「おかわり!」


 まだ食べるのか。

 さすがにマリとヒミナは……あ、食べるんですね、はい。

 子供の食欲って凄い。改めて思った。


 ちなみにラッキョウはアギとマリには不評で、ヒミナは気に入ったようだった。福神漬は程度の差はあったものの、三人全員に好評でなにより。

 カレーもライスもまだ少し残っていたが、ヴァーハナの仕様上余ったオプションは消えてしまう。

 二日目のカレーが楽しめないのは残念なところだ。


「トウヤさん、一流のシェフになれますよ」


 ヒミナはそう言ってくれたが、俺の料理の腕は運転LV5の補正によるところが大きい。

 普通の調理場だとこの半分の味も出せないだろう。

 なのでその言葉は笑顔で聞き流して、デザートのアイスを出した。

 これもみんなおかわりして、食べ終わったあとは俺以外の全員が食べ過ぎで動けなくなっていた。




 俺は考えた。

 ヒミナは聖皇女である。様をつけるべきなVIPである。

 道も安定しているし、クラウンよりもっと相応しい車があるのではないだろうか。


 そんなわけでリムジンにしてみた。

 後部座席が拡張されたストレッチリムジンだ。

 L字型のソファ状の座席の前にはカウンターテーブルが備え付けられており、脇にある冷蔵庫にはジュースやアイスが入っている。

 せっかくなのでアギとマリも後部座席に移ってもらい、今はヒミナと三人でボードゲームをしている。

 オプションで出せるのではと思ったのだが、なにやら特殊な処理でオプションとして出てきたようでMPがそれだけで10消費していた。


 本日はこれでMP30の消費。

 MPは睡眠で割合回復するようで、それ以外は時間経過でゆっくりと回復する。

 なのでMPが切れることはまずない。

 今日は既に三分の一を消費していてペース的にはハイペースだが、それで困ることはないだろう。

 それに後部座席から一喜一憂するアギの叫び声と、それにクスクスと楽しそうな笑い声が聞こえてくると、必要経費だったと思う。

 なにせ六時間だ。

 朝の九時に出発して、昼の十二時から午後二時まで休憩を挟んで、今が三時。

 まだあと二時間は移動するのだ。

 その間じっとしているのは退屈だろう。

 そんなことばかり考えていたので、俺はすっかり忘れていた。


《後三十分ほどで竜の通り道です》


 カーナビのアナウンスにハッとする。

 そうだった、なんの脅威もないドライブというわけではなかった。

 とは言え、平地で襲われることは滅多にないらしい。

 あと少ししたらちょっと周囲を警戒すれば良いだろう。


《警告。二時の方向から急速に接近する飛来物があります》

「は?」


 カーナビを見るとマップ上に赤い点が発生し、それがこちらへまっすぐと向かってきている。

 肉眼で見えるか目を凝らしてみると、確かに大きな鳥のようなものがこっちへ向かって飛んできていた。


「まさか、竜か!?」

《距離、速度、進行方向から衝突の危険があります。一時停車することを推奨します》

「いや、止まったらまずいだろ」


 俺は思い切りアクセルを踏み込んで加速し衝突コースから逃れようとする。


《飛来物進路変更、追尾されています。衝突コースから外れていません》

「な──! シートベルトを!」


 俺の声を聞いて後部座席の三人が慌ててシートベルトをつける。

 それから少し遅れて、ガァン!と車体に衝撃が走る。


「うおっ! ふ、ふっ飛ばされた!?」


 フロントガラスの向こうに見える景色からして車が道から浮いてしまっているように見えた。

 竜に衝突して跳ね飛ばされたのだ、と俺はそう思ったのだが。


《車輪が空転しています。警告。ラマーナ山へのコースから外れています》

「外れているったってそんな大きく……なに?」


 カーナビのマップを見て我が目を疑う。

 さっきまで道の上にあった現在地マーカーが、大きく西に逸れている。

 そこに道はない。森だ。

 そしてさらに。

 現在地マーカーと飛来物を示していた赤い点が重なっている。

 つまりこれは。


「竜に運ばれている──?」

《進路から外れています。戻ってください》

「そうしたいのは山々ですがね!?」


 カーナビさん、あなたさっき車輪が空転しているって言ってたじゃないですか。

 ハンドル効かないのにどうやって戻れと?

 後部座席の方へ振り向いて確認する。

 ちょうどヒミナの真後ろにある窓から、太い木の幹のようなものが張り付いているのが見えた。

 あれが竜の指なのだろう。

 間違いない。

 今ヴァーハナは、獲物を捉えた猛禽類のように竜に捕まえられて運ばれている。


「と、トウヤさん……」


 アギとマリ、それにヒミナが不安そうな表情で俺を見つめる。

 俺も同じ気持ちだったが、ここで不安がらせてはいけない。

 安全安心を心がけると、出発時に言ったのだ。

 俺にも譲れるものと譲れないものがある。

 だから俺は精一杯のやせ我慢で笑みを浮かべた。


「大丈夫だ。俺に任せろ」


 アギとマリが途端に期待に満ちた表情に変わり、頷く。

 ただヒミナだけはそれでも気遣わしげな顔で俺を見て。


「分かりました」


 最後には何かを決意したような声色でそう言った。

 え、なに、なにを決心したの今。

 聖皇女ならではの奥の手とかあるんだろうか。

 それならちょっと安心出来るんだけど……いや、お客様に頼ってはいけないな。

 女神様はヴァーハナを神の乗り物だと言っていた。

 たとえ竜だって破壊できないはず、だと思いたい。

 だからこの中にいれば安全のはずだ。

 それに一応俺だってまったくの無策というわけでもない。

 上手くいけばこの窮地を切り抜けられるはずだ。

 しかししばらくの間は、竜に捕らえられたままどこかに到着するまで待つしかないようだった。

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