エピローグ・思いやりプロジェクト
終わりです。
ここまで読んでいただきありがとうございました。B級風ホラーっぽい変な話ではありましたが、なんとか書ききれて良かったです。
注意・スッキリ感は無いです。
自分の目が信じられなかった。
わかるのは、医師から怒られているということだ。
病院のベッドの上に、私は寝かされている。
昨夜、体調を崩し緊急入院した時に、初めて私は妊娠していることを知った。
体調不良の原因は、陣痛だったのだ。
そう、私は昨夜陣痛がくるまで自分が妊娠していること気づかなかったのだ。
こんなこと、本当にあるのだろうか。
妊娠の原因は分かっている。
数ヶ月前に巻き込まれた、あの事件の時だ。
強姦されたあの時以外、思いあたる節はない。
乱交だった。だから、誰が父親かもわからない。
そして、父親候補達はもう死んでいる。
黒幕の正体もわからないまま、駆け込んだ田舎の派出所。
事情を説明して、捜査に出てもらったが何故か私が彼等を殺害した犯人にされた。
さらに、私の言動が常軌を逸していると一方的に判断されてしまい、精神病院に放り込まれてしまったのだ。
そして過ごすこと数ヶ月目の昨日、私はおろか私の担当だった看護師すら妊娠に気づかず陣痛を迎えてしまった。
お腹だって、大きくなかった。
そう、大きくなかったはずだ。
それなのに、昨夜は違った。
急に膨らんだお腹に、襲った痛み。蓋を開けてみれば、妊娠していて、そのための陣痛だったわけで。
医師の説教のあと、私は、私が産んだ、まだ目すら開いていない赤ん坊と対面した。
自分が腹を痛めて産んだ子だと言うのに、何故かとても不気味に見えた。
愛らしい、天使の様な赤ん坊だ。
この赤ん坊は、しかし気持ち悪かった。
私が嫌悪感を抱いたまま、眠り続ける我が子を見ているとその瞼がうっすらと開いた。
かと思うと、私を見て嗤った。
その場で、私は悲鳴を上げ結局精神病院に戻る事になってしまった。
そのまま六年の時間が過ぎた。
私が産んだ子は施設に預けられ、来年からは義務教育のため幼年学校に通うことになっている。
この六年、正確には私が産んだ子が、私の存在を知ってから約三年ほどだろうか。
あの子は私に会いたがっていると担当の看護師からきいた。
妊娠の件ですっかり腫れもの扱いとなった私には、そんな特別な用件でもなければ誰も話しかけてこない。
正直、私にはあの子が化け物にしか見えない。
だってそうだろう。
お腹の膨らみはなかった。
いや、いま思えば生理がきていなかった。
しかしそれは、あの経験を経た故のストレスからくるものだと思っていた。
いや、ちがう。
異常を異常だと考えることができなかったのだ。
そうして、数日が過ぎた。
ある日、弁護士がやってきた。
私が産んだ子が、あの事件で私が手に入れた財産すべてを養育費として受け取るのだと説明された。
それが嫌なら、あの子と会えと言われた。
会ってどうしろというのだろう。
とにかく一度でも会えば、養育費として受け取る額は少額になるのだと説明された。
あの金は私のものだ。
私は、前世でも体験することのなかった出産を経験し、そして産んだ子と顔を合わせる事になった。
その日は、本当になんでも無い日だった。
外出許可は普通に出た。
私を迎えにきたのは、弁護士を名乗った男。
私とそうかわらない年齢の、男だ。
「ファミレスは久しぶりですか?」
男は気さくに話しかけてくる。
私の緊張を解こうとしているのだろう。
私は適当に受け応えする。
やがて、案内されたファミレス。
場所はメインストリートに面した一等地だ。
行き交う車を見るのも何年振りだろうか。
その入口で、男はやんわりとした笑みを浮かべると、あとは親子水入らずで、と言って去っていった。
「同席しないの?」
「私は、部外者ですから。お話しが終わる頃お迎えにあがります」
私は呆然とその背中を見つめた。
嘘だろう。
気が触れた人間を置いて行くか、普通。
たしかに担当医には、すでに普通の生活に戻れると言う診断を下されていた。
しかしーー。
考えていてもはじまらないので、私は店の中に入った。
店の中はガランとしている。
人の気配が無い。
怪訝に思った時、客席の奥、通りがよく見える明るい席の方から軽い足音が聞こえてきた。
「あ、あの、はじめまして!!
ぼく、ぼくのお母さん、ですか?」
現れたのは、愛らしい容姿の子供だった。
少し緊張した表情で、子供は私を見る。
私は、ここで初めて自分の子供に愛着がわいた。
子供に誘われるまま、私は窓際の日当たりの良い席に案内される。
その席にはすでに料理が用意されていた。
ハンバーグに、サラダ、ポテト等など。
ジュースも用意されている。
「どうぞ、座ってください。レディ・ファーストです」
にっこり笑って、息子は私を座らせた。
息子も、向い側に座る。
「こうしてお話することが出来てうれしいです」
本当に嬉しいと言わんばかりに、天使の様な愛くるしい笑みを浮かべる息子。
あの日、出産した時の怖気はどこにもない。
「そう、ほんとうに」
そこで、息子の表情が歪んだ笑みに変わった。
「え?」
私は、息子を凝視する。
「転生トラックって知ってますか?」
息子が幼子らしからぬ口調でそんな事を聞いて来る。
私は頷いた。
「昔、そういったネタ、お話が流行したらしいですね」
「え、えぇ。私も昔読んだことあるわ」
「あぁ、そうですよね。なにせ貴女は転生者ですからね?」
「!?」
「ひとつお聞きします。転生者、前世の記憶、知識チートを持つ存在ってそんなに偉いんですか?
目的のためなら他人を破滅させる。命を弄ぶ。そして、責任すら負わない」
「なにを言って」
「僕、生まれるのを楽しみにしてたんですよ。
本当のお母さんは、とても優しい人だったから。ううん、お母さんだけじゃない、そのお姉さん、弟さんもすごく良い人だなって思ってたんです。この人の子供になれば、きっと苦労はするけれど、それでも幸せになれる、だから、生まれるのを楽しみにしてたんです。
でも、結局僕は拒否されました。否定されました。本来のお母さんから。
本来の母さんは、でも僕を憎みませんでした。ただ、謝っていました。ごめんなさい、と。
私に宿ったばかりに産んで上げられなくて、ごめんなさい、と」
そこで息子が立ち上がった。
「悪役令嬢という役割は、そんなに果たされなければならないほど重要な役割だったんでしょうか?」
動こうとして、体が動かない事に気付いた。
「そしてヒロインはそこまでして、幸せに、運命の人と結ばれなければいけなかったのでしょうか?」
「や、なにこれ?」
見れば、魔法陣の紋様が浮かびあがって私を席に縛り付けている。
「命を遊びの道具にするのも大概にしろよ、このウジ虫が」
息子の言葉に、私は呆然となる。
「ほら、来たよ?」
言われて窓の外を見る。
普通の道路だ。
何も変わったものはない。
私は視線を息子に戻す。
「転生に始まって、都市伝説の転生トラックで終わるんだ。
次も生まれ変われるといいな。記憶も引き継ぐ幸運がそんなに続くとも思えないけど。
それでも、産んでくれた恩もあるから思いやりを持って、僕は貴女を見送ろう」
「ちょ、ちょっと待って!!」
「ほら、お時間だ。バイバイ」
そこで、息子の姿が揺らいだ。
顔を窓の外に向ける。
そこには、大型トラックがすぐ目の前にまで迫っていた。
最後まで読んでいただき本当にありがとうございました。
あくまで復讐とゲームの勝敗を落とし所としてましたので、このような終わりになりました。
拙い作品に最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました。




