第60話「ユニクとアールのお宝(珍獣)捜索記③」
「ごふっっ……っ……」
全力疾走で放った俺の蹴りが、クマジャナイ!?タヌキに直撃した。
グラムを覚醒させているだけあって、返ってきた衝撃は並大抵のものじゃない。
ビキビキと俺の脚が軋みを上げる程の威力、下位の超越者なら爆裂四散まった無しだ。
「そのままくたばれ、クマタヌキィ!!」
「ヴィギルアイリス。目覚ましに丁度いい刺激だ」
だが、相手はレベルミリオンに到達したカツテナイタヌキ。
渾身の蹴りを受けて天に召されるどころか、ふてぶてしい顔で目覚まし扱いし……、大地にズドムッ!!と降り立った。
「で、トロイア。これはどういう事だ?」
「な、何の話だ!!」
「俺はクマの所に案内しろって言ったはずなんだが?」
「……。たまたま通り道にバビロンさんがいて」
「コイツ、明らかに待ち構えていただろ」
先制攻撃を放った今だからこそ分かる。
このクマタヌキは強い。それはもう……、クソタヌキに匹敵するほどに。
だからこそ、あんな風に無防備を晒していたのは、罠以外の何者でもない。
コイツをクマに見間違えた理由は二つ。
一つ目は、コイツがクマにそっくりな程に筋骨隆々なマッスルボディな点。
身体の大きさは、大体3m。
ハーフサイズなクソタヌキ、の2倍なアール、の1.5倍なアヴァロンの……、さらに2倍の大きさだ。
「にしても、色んなタヌキに出会ってきたが、一番の色モノだな。コイツ」
「色モノ……、バビロンさんは凄いタヌキなんだぞ!めっちゃ体を鍛えてるんだ!!」
理由の二つ目、それは発見した足跡から、この大きさを想像できなかった事だ。
アールと発見した足跡は、どれも似たような大きさだった。
だからこそ、クマに匹敵する巨体のタヌキが出てくるとは思わない訳で。
だが……、コイツは足首から上が異常に発達し、土偶みたいに筋肉が隆起しているという、超色モノタヌキ。
つーか、鍛えてるってレベルじゃないだろ。
ボディビルダーだって、もうちょっと大人しい身体してるぞ。
「で、何で俺を此処に連れて来た?素直に話すなら、ぐるぐるげっ刑で済ましてやるぞ?」
「なんだそれは!?」
なんだそれは!?って言われても困る。
大魔王共に洗脳されたせいで当たり前になっていたが……、自分で言っていても意味がよく分からない。
「……ワザとじゃない。たまたま偶然、ほんのり運命の出会い、的な……?」
「良いのだ、トロイア。これから戦う者同士、隠しても意味が無かろう」
「言っちゃうの!?!?」
あ、クマタヌキが自供した。
頑張って隠そうとしていたトロイアは全身の毛を逆立てて絶句。
切り易くなったし、後で角刈りにでもしてやろう。
「急いでるっつうのに罠に嵌めやがって……、退け、クマタヌキ。今はお前と遊んでる場合じゃねぇ」
「くっくっく、威勢が良いな。ソドムがちょっかいを掛けるだけの事はあるようだ」
「なに?」
「そりゃあ見るだろ。悪喰=イーターを使っての情報収集は基本だぞ」
そう言えば、悪喰=イーターってタヌキの権能だったっけな。
最近じゃ、リリン達がメモ帳代わりに使っているから忘れていたぜ。
「ちなみに、退いてやるつもりはない。良いだろ?ソドムと遊んだんだ、俺とも遊んでくれよ」
後足で立ったバビロンが、ゴキゴキと肩を鳴らしている。
これはアールと同じ二足歩行形態だが……、その完成度は段違い。
妖怪っぽさなど微塵も感じられない、本物の武タヌキがそこにいる。
「あー、そのなんだ……。アール、トロイアを任せても良いか?」
「ヴィギルア!」
「良い返事だ。冷静に戦えば勝てるぞ、普通にブチ転がしてやれ」
「ヴィィーギルオオン!」
ふんす!と鼻を鳴らし、アールがトロイアの前に出た。
相手はタヌキ帝王であり、格上だ。
だが、勝機が無いかと言えばそうじゃない。
さっき戦った感じ、スピードはアールの方が上だ。
レーザー兵器と化していた悪喰=イーターも当たらなければ意味が無く、例え小さな一撃でも積み重ねれば致命傷となる。
アールの勝ち筋は、ヒットアンドアウェイを繰り返しての長期戦。
これに対抗するには、ガントレットを弾き返す鎧を召喚するのが手っ取り早い訳だが……、
召喚に失敗して隙を晒したトロイアは、アールにボッコボコにされると思う。
「ふむ、良い顔付きのタヌキ将軍だ。トロイア、油断するなよ」
「大丈夫です!アレがあるんで!!」
……たぶん、無いと思うぞ。
そして、あからさまに戦う気を出しているアールも俺と同意見っぽい。
正直な所、トロイアが自爆する所を観戦したい。
「ま、そうも言ってられないか。ほら、さっさとやるぞ、バビロン」
「くっくっく、全く心配していないんだな?」
「まぁな」
「流石は那由他様の寵愛を受けた者どもだ」
……え?今なんて言った?
俺に那由他の加護が付いているのは知っていたが……、アールにも付いているのか?
クソタヌキが育ててるといい、妙なガントレットを持ち出してくるといい、お前はホント何者なんだ。
「行くぞ、今代の英雄の力、見定めさせて貰おう」
「じっくり見て良いぞ。なにせそれが冥土の土産だ」
**********
「ヴィギルア!」
「くそぉ、バビロンさんネタバレすんの早過ぎだし……。おい、お前。さっさと降伏しろ。痛い目を見る事になるぞ」
「ぺっぺっ。ヴィィ~~ギルハハァ~~~~ン!」
「……。良い度胸だ。殺す」
アルカディアは、目の前にいるのは格上のタヌキ帝王だと分かっている。
普通に考えれば手の届かない存在、なにせ、相手は超越者を倒し、帝王試験をクリアしているのだ。
う”ぃぎるあ。
トロイア様はタヌキ帝王。
おじさまと同じ強さ……、とまでは行かなくても、ラグナガルム様レベルの超越者を倒しているはずだし。
真っ当に戦っても勝ち目はない。
だけど、それはいつもと同じ。
何十回と繰り返してきた『戦闘』だし。
私にとって『戦闘』とは、格上と戦う事。
いつもは避けられない事態だったり、ソドム様に強要されたりしたけど……、たまには自分の意思でやるのも悪くない。
「散れい。ソドムにくっつく塵芥め!」
フォォンと光を発しながら、トロイアの悪喰=イーターが三分割された。
それは、全長5mと化した巨大な光輝の剣。
「ヴィッ!」
「《タヌキ断栽爪》」
振り上げられた剣の前方、縦5m×横4mもの広範囲が死地であると、アルカディアは知っている。
トロイアが使っている悪喰=イーターを核とした巨大な剣。
それを見たアルカディアの感想は、ソドム様のエクスカリバーにそっくりだし!だ。
エゼキエルに装備されていないエクスカリバーは、全長2mの大剣だ。
ソドムの全長の約4倍。
その対比は、もはや、大剣という領域を超えて乗り物に見える始末。
そして、それに何度もしばかれそうになったアルカディアは、攻撃範囲を完全に見切っている。
「《英雄の技巧・流れで狼と戯れる!!」
「なにっ……!?速いッ!!」
巨大な剣が叩き割ろうとした地面に立っていたアルカディアが、残像を残して消えた。
程なくして爆砕した地面、吹き上がった岩や土砂は、そのままアルカディアの足場となる。
「《大規模タヌキ殲滅魔法・一人でぶんぶく茶釜》」
「小賢しい。弱者の技ではないk……」
「《サモンウエポン=千海山を握する業腕!》」
「なにっ!?それは!!」
「ヴィギル!《一人でボコボコ竜泉窯!!》」」
アルカディアが始めて成したドラゴン討伐。
その決め手であった隕石橙破爆撃。
それを中心に考えられたこの技は、対ドラゴンを想定しているアルカディアの通常技①だ。
両手に召喚した巨大隕石ごと相手を殴り、すぐに手を離して次の隕石を召喚する。
強固な防御魔法を鱗に纏っているドラゴンの鱗は、並大抵の威力では貫通できない。
だったら、貫通できる威力を発揮できるまで、千海山を握する業腕を育てれば良い。
そうする為には、相手の周囲を隕石で逃げ場をなくして、殴りまくればいいし!
酷く単純で、それ故に、シンプルに強い物量作戦。
攻撃の回数が多ければ多いほど、一撃に乗る威力が累乗して行く千海山を握する業腕にとって、隕石は格好の的となる。
「コイツ……、自分で出した隕石を殴って……!!」
「溜まったし!!」
ヂ、ヂヂヂヂとエネルギーが走った拳が、トロイアに肉薄する。
そうして訪れた邂逅は、一瞬。
拳の前に出した悪喰=イーターごと吹き飛ばされたトロイアは、無効化しきれなかったダメージにより嗚咽を吐いた。
「がふっ、良いパンチだ。だが、お前が溜めたエネルギーは吸収させて貰ったぞ」
「ヴィギルア!?」
「俺が持つのは、『吸収昇華』の悪喰=イーター。万物が持つエネルギーは全て俺の支配下だ」
「ヴィア……」
まずい。とアルカディアは思った。
トロイアが行使した戦略は、那由他から相性が悪いと警告されていたものだからだ。
「良いかの、アルカ。千海山を握する業腕は万能ではある。が、それを成す為のエネルギーを奪われると、どうしようもなくなる。気を付けるじゃの!」
アルカディアは必死になって思いだす。
那由他の言葉に続いた、その場合の解決方法を。
「それ、千海山を握する業腕だろ?知ってるぜ」
「ヴィギル?」
「だからなぁ……、そんなもん見せられちゃ、俺も出すしかないんだよ。迂闊に強い装備を出した自分を呪えッッ!!」
「ヴィッ!!」
アルカディアは理解した。
トロイアが何をしようとしているのかと、それに対する最適解を理解し――、走り出す。
「遅ぇ!!吸収したエネルギーは召喚魔法の速度を上げるッ!!」
「ヴィッギルッ!!」
「《来い!=俺の帝王光機、エゼキエルブースト・トロイアッ!!》」
アルカディアとトロイアの間で輝く、虹色の魔導規律陣。
虹色こそ、世界の理を超越した証明。
今ここに召喚されるは、タヌキ帝王トロイアが知る限りの最新鋭機神。
「……えっ?」
だが、その光景を見たトロイアは困惑の声を上げた。
確かに魔法陣は虹色の光りを放っている。
その中心からカッコイイ角を持つ自慢の愛機が見え始めているのだから、確かに召喚は成功しているのだ。
ただし……、その召喚陣の直径は10cmしかない。
「……。なんか小さくね?」
それは、カツテナイ機神の召喚。
若葉色に輝く鋼鉄の腕が握るのは、背丈を超えるロングソード。
近接戦闘特化であるそれは、時には山すらも両断したトロイアの巨大斬馬刀。
ただし……、現在の大きさは15cmしかない。
「え、ちょっと待って!?どういうこと!?!?」
「ヴィギルアーッ!!」
「あぁッ!!踏み潰されたッ!!踏み潰されたァッ!!」
アルカディアは知っていた。
ラボラトリームーの資料室にあるショーケースの中に、歴代のタヌキ帝王が乗った帝王枢機の模型がある事を。
「決めるし!」
「あ”ぁ”あ”あ”あ”あ”あ”ッッ!!!!」
召喚されたトロイアの自信を思いっきり足蹴にして、アルカディアが飛ぶ。
腕に纏うガントレットに、ありったけの魔力を雪ぎながら。
確かに、千海山を握する業腕は戦闘開始後に、一からエネルギーを溜め込む必要がある魔道具だ。
それは利点でもあり欠点だというのを、那由他のアドバイスを聞いたアルカディアは百も承知している。
そして、アドバイスを参考にするアルカディアの素直さこそ、那由他に気に入られている理由だ。
「覚醒するし!《 千海山を握する業腕=神統の蛇篭手!!》」
「あ”ぁ”あ”あ”あ”あ”あ”ッッ!!!!」
こうして、タヌキ将軍アルカディアと、タヌキ帝王トロイアの戦いが始まった。
『クマ、好物』で調べたら、『クマの主食はドングリです』って出て来て、吹いた。




